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    maybe_MARRON

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    左馬一
    せっかくなのでカレーバトルネタを交えた会話を入れようと思ったんですけど、さくっと必要なとこだけ書いたセルフワンライです

    いつもの味を知った日 山田家のカレーは夏になると具が変わる。じゃがいも、玉ねぎ、にんじんという定番の野菜から、なすとかぼちゃとトマトを使った夏野菜カレーに変わるのだ。普段と同じように、ゴロゴロと大きめに切った野菜をしっかり炒めてから煮込んだカレーである。値段次第で他の野菜にすることももちろんあるし、肉もひき肉にしたりする。以前一度失敗した経験があるため避けていたのだが、鯖はトマトカレーであれば相性がいいようで、鯖カレーを作ることもあった。とにかく、夏は具を変えることが多かった。
     昨年、たまたま夏に山田家に遊びに来た左馬刻は、山田家特製夏野菜カレーをまじまじと見つめ「ほぉん」と一つ頷いた。あまり馴染みがないのだろうか。しかし「うめぇな」とおかわりまでしてくれたため、とりあえず気に入ってはもらえたようだった。
     そして今年――二ヶ月前、左馬刻とは同棲を始めた。互いに不規則な生活をしているため、家事は細かく分担することなく手が空いている方がするようにしている。
     今日、一郎は久しぶりに仕事が長引いた。依頼先でトラブルがあり、ちょっとした警察沙汰になってしまったのである。一郎自身は当事者ではなく目撃者だったのだが、本来帰れるはずの時間より二時間も遅くなってしまった。
    「ただいまぁ」
     疲労を隠しもせず間延びした声で告げれば、リビングの方から左馬刻の返事がある。その声と同時に、いい匂いがする、と一郎は目を輝かせた。
    「今日カレー[#「」は縦中横][#「」は縦中横]」
    「おう。よそっとくからテメェはまず手を洗え」
    「サンキュー!」
     言われたとおりいそいそと手を洗い、急いで荷物を片付けてからリビングへと戻る。ダイニングテーブルの上には、山盛りのカレーが用意されていた。しかし浮き足立っていたはずの一郎は、そのカレーを一目見るとぽかんと口を開けた。
    「……いつものカレーじゃねぇ……」
     キッチンにいた左馬刻は気にすることもなく、二人分の水を持ってきてそのまま席に着く。そして、一郎の向かい側でにやりと口の端を持ち上げた。
    「碧棺家の夏野菜カレー」
     その一言に、思わず感嘆の声を上げた。
     それは、山田家の夏野菜カレーとはまったく異なる見た目をしていた。なす、かぼちゃ、トマト、肉。それから、オクラとズッキーニとゆで卵も。色鮮やかな野菜はどれも素揚げされているようで、薄くスライスしたものがカレーの上に飾りのように乗せられていた。
    「すげぇ……店で出てくるやつみてぇ」
    「ンな手間掛かるモンでもねぇよ」
     絶対そんなことないだろうとは思ったのだが、答えるよりも先に腹が音を立てたためいただきますと手を合わせた。どれにしようか迷い、まずはなすとカレーを食べる。
    「うっめぇ……」
     見ただけでも美味しそうだとわかっていたが、それでもやっぱり声に出てしまった。左馬刻も満足そうに笑いながら大きな口でカレーを食べる。山田家の煮込んでトロトロになったなすもいいが、揚げたなすなんて美味いに決まっている。
    「昔から作ってたのか?」
    「あーいや……どっかの店で合歓と食ってよ。こういうカレーもあんだなって話して、じゃあ家でもやってみっかって」
    「へえ……」
     在りし日の二人の姿を思い浮かべながら、今度はカレーだけをスプーンに大盛りにして食べた。いつもより少し甘い気がする。きっと玉ねぎの甘さだ。
     山田家の夏野菜カレーの始まりは、夏になって野菜が安くなり、なんとなくこれで作ってみるかといつもの野菜の代わりに入れてみただけだ。弟たちからも好評で、それがきっかけで毎年作るようになっていた。
     気になって『夏野菜カレー』で検索しようとすると、その時点でサジェストに『素揚げ』『素揚げしない』の二択が出てくるほどに、どうやら左馬刻が作ってくれたカレーの方が夏野菜カレーとして一般的らしい。そうだったのか、と目を丸くすることしかできなかった。
    「次はお前な」
    「え?」
     ふと顔を上げれば、左馬刻は楽しそうにこちらを見ていた。
    「山田家の夏野菜カレー。もう野菜安くなり始めてるぞ」
    「あー……おう、うん」
     今年暑いもんな、なんて適当に誤魔化して、一郎はぱくぱくとカレーを食べ進める。
     本当に気に入ってくれてたんだな、と。昨年、一度だけ食べてもらったカレーのことを思い出していた。あの日、物珍しそうにしながらもたくさん食べる左馬刻に、二郎と三郎はそろって、自分たちは毎年何度も食べているのだと自慢げに話していたのを覚えている。『これから毎年食うからいいんだよ』と返していた左馬刻を覚えている。そんなやりとりを思い出してつい緩みそうになる頬を一生懸命隠しながら、何杯おかわりしようかなと考えた。
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