「恋人は嵐に乗って」 天気予報が大きく外れたくらいで怒りはしない。折りたたみ傘でも携帯しなかった自分が悪いのだと、斎藤はマンションの自宅ドアの前でため息を吐いた。タバコはすっかり湿り切っていたので、本当にため息だけだ。
ガチャリ。
わざわざ施錠を外しドアを開けてくれた沖田に、「すまない」と、無意識に謝罪の言葉が漏れた。出張土産も、ビニールの雨除けの甲斐なくぐっしょりと濡れていて、ほとほと残念な気分になって来る。
今回の出張は斎藤だけだったので、沖田は金曜と土曜と、二人住まいの家を一人で過ごしていたことになる。
二日ぶりに会った沖田は、心なしか嬉しげにも見える。
「お帰りなさい……わ! 随分濡れましたねぇ」
斎藤の荷物を受け取る傍ら、沖田はバスタオルを斎藤に持たせた。スーツはおろか、シャツや下着に至る全てが濡れて肌にぴたりと張り付く感触が甚だ不快で、斎藤はすぐさま洗面所へと飛び込んだ。
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