Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    shimajun

    るろ剣寄りの沖斎とかについてなんか垂れ流すぞ!ジャンルが違ってたらごめんな!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 8

    shimajun

    ☆quiet follow

    何の書きかけかわからないけど、大火編で京都入りした時の斎藤さんと、懐刀の高野の話
    色々と表現が抜けてる。いつ書いたんだ?

    #高斎
    takasai

    「京都にて」 東京から横浜までは馬車、横浜からは船で大阪へ。そこには旅情も何も無い。これから京都で戦が始まるのだから、死地に赴くと言っても良い。
     斎藤は船旅が余り好きではない。船に酔うなどのみっともない理由ではなく、船内の狭苦しさが戦闘に不利であることと、過去に同胞たちと船に揺られた事を思い出すからだ。
     刀を抱えて寝台に腰を据え、丸窓の外を見遣っていた斎藤だったが、朝日が差し込む頃には何を思い出し、何を記憶から追いやったかも忘れていた。

     夜出発の便は早朝に着く。舞鶴より大阪から京都の方が道に慣れている。
     船を降りるとまた馬車での移動だ。斎藤は馬車も好きではなかった。政府のお偉方が乗るようなものでもなければ、座部は長時間座っていられるような代物ではない。
     ──道中、共同墓地で一服煙草を吸った。
     鉱山で殉職した者達の墓は真新しいからすぐに判る。斎藤には、献花の鮮やかさが何処かしら遠い世界の景色に見えた。

     長旅の末、馬車が京都警察に着いたのはその日の夕刻だった。
    「道中、お疲れ様でした」
     夕暮れの門塀に寄り添うように立っていた警官の一人が、馬車から降り立つ斎藤の姿を認めるとすぐさま駆け寄り敬礼した。
    「高野、件の手筈は?」
    「一通り、整っております」
     男の眼差しを見れば、揺るぎない自信の程が判る。斎藤が「ご苦労だった」と一言告げると、高野と呼ばれた男は、紫煙の向こうで静かに頭を下げた。

     京都は相変わらずの人熱れだ。
     10年も経てばそこに暮らす人間も増える。志々雄がこの地で騒動を起こすというのであれば、それに見合う準備が必要なのは明白だ。
     有事の際に「使える」人員の確保と、そこから「更に使える」手練の選出を、斎藤は京都警察所属の部下、高野に一任していた。高野は、あらゆる人脈は全て使って今日までにそれを終わらせた。斎藤からの、次の指示に応えるためだ。

    「緋村がこちらに着くまでに、まだ数日掛かる」
    「船には乗らなかったのですか?」
    「余計な事に首を突っこんでなければいいがな」

    (緋村、抜刀斎……)
     斎藤に追随しながら、高野はその名を反芻した。斎藤が多くのことを語らなかったのは、己が懐刀ならばある程度は調査済みであろうと思ったからだ。事実、高野は既に手の者を走らせていた。
     しかし、かつての最強の人斬りが10年の内に歩んできた足跡を辿るのは容易ではなかった。まるで文明開化の波に紛れるように、流れ流れて漂い歩く。そこから判ることは極端に少なく、高野は内心戸惑いを覚えたものだ。
    「……暑いな、京都は」
     日暮れの残暑の中、斎藤は思い出したようにそう独り言ちた。


     上層部を招いた会議を終え、宿に荷を下ろしたのは月も高く登った頃だった。警察の息のかかった質素な佇まいは、かつての栄華も鳴りを潜め、様々な歴史の片鱗を飲み込んで、京の宵闇にひっそりと沈んでいる。
     書類の束が畳の上に鎮座する様は実に無粋だが、斎藤は意に介さず、紺地の着流しに鼠色の羽織を肩掛けし、白磁の徳利から手酌で久方振りの京の酒を呷っている。
    「——この者たちの親戚縁者、出自共に不審な点はありません。抜刀斎との共闘にも、問題は無いと判断いたしました」
     その中の一枚、直筆の連名が刻まれた書類には血判まで押してある。斎藤直下の精鋭部隊の一員として、高野が推挙した者達だった。
    (なんとも古風なことだ)
     古風といえば聞こえが良いのが昨今の習いである。斎藤は言葉にはせず喉の奥でクッと笑うに留めたが、固唾を呑んで返答を待つ高野には斎藤の仕草の全てが導火線の走り火の様であったろう。
    「己を律せぬ奴はどの道使い物にならんからな」
    「は、……」
     高野の人選基準にはこう有る。第一は、上司である斎藤、——藤田五郎の障害とならぬ者。他はさしたる問題ではない。斎藤の害と成り得る者は、例えどれ程腕が立とうとも願い下げである。仮にもその存在が斎藤に仇なす恐れあらば、高野は迷いなく排除していただろう。
     だが、幸いにもそれは杞憂であった。
    「いいだろう。装備の支給はお前に任せる。整い次第招集を掛けろ」
    「御意」
     有り有りと見て取れる高野の安堵感に、斎藤は頭の中だけで揶揄してまた辛口の酒を一口呷った。鼠色の羽織が、左の肩口からするりと滑り、畳に落ちた。
    「その様子じゃ、まともに家にも帰っていないようだな」
     杯を下ろし、未だ制服に身を包んだままの男の姿を見遣る。斎藤の頭を過ったひとつの違和感は、彼の物珍しい口髭である。
     歳相応に髭を伸ばす者が多い中、高野はそれを無精とするきらいがあった。任務で必要となる以外は意図的に伸ばすことをせず、斎藤の知る限りは毎朝小奇麗にあたっていた筈である。
     課した任務が重労働であったとはいえ、この男にしては余りに無防備すぎる様相に内心興が乗ったと言えなくもなかった。

    「……警部補のお耳に入れる必要もないかと思いましたが、先日、家内と離縁をいたしました」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works