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    shimajun

    るろ剣寄りの沖斎とかについてなんか垂れ流すぞ!ジャンルが違ってたらごめんな!

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    shimajun

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    成ろうことなら、またいつの日か

    夢の浮橋「たまに、君が生きていたらと思うことがある」

     肺を満たしていた煙を彼の方向とは逆に吐き出す。煙草の先の燻りを持て余すようにして、斎藤はただジリジリと短くなっていく様を目の端に写していた。手癖だけで点けた火だから然程の愛着も無かった。

    「僕が生きていたら、ですか?」

     斎藤の呟きに答えた沖田は、斎藤の左側に身を寄せながら少しだけ顔を上げた。それが判ると余計に己の手先にあるものが煩わしくなり、斎藤は煙草の先を無遠慮に床に擦り付けて火種を消し去った。

    「……あの人について箱館まで行っただろうか」

     どこかしら独り言めいたそれは、二人だけの何処とも判らぬ空間にぽつりぽつりと投げられていく。
     斎藤の中で深々と降り積もるのは、かつての自分や同胞達、師との別れの記憶だった。それは死別であったり離反であったり、己が手で引導を渡したものもある。近藤は処刑され、土方は箱館に散り、そして隣に座っている沖田は、病の内に没した。
     そして山口一が、斎藤一が、山口二郎が、一瀬伝八が死に、藤田五郎がここに在る。

    「……うーん、そうですねぇ」

     子供っぽい仕草で首を傾げた沖田は、しばし真剣に考えを巡らせた後、己の考えを確かめるようにゆっくりと言葉を紡いだ。

    「近藤先生は、多分僕のことも連れて行ってはくれなかったでしょうね」
    「一人で逝ってしまったからな」
    「斎藤さんの言う通り、僕は歳さんについて行ったかもしれない。近藤先生の無念を晴らすために、新撰組として最後まで」
    「……俺と君は、恐らく会津で袂を分かっていたんだろうな」

     それが例え今生の別れであっても、彼が彼らしく生きていてくれたならよかった。

     それに、廃刀令の時代に沖田が順応出来ると思えないのは、斎藤の僅かばかりの欲目でもあった。己が未だに刀を手放せないのだから、彼もそうあって欲しいなどという愚かな願望だ。

    「おかしなことを聞いて悪かった」
    「いいえ、これも全部夢ですから」
    「……そうか、夢だったな」

     今頃になって俄に煙草を吸いたくなったが、どうやらあれが最後の一本であったらしい。チッと舌打ちをすれば、傍らには見憶えた視線があった。

    「起きたら、全部忘れちゃいますよ」
    「夢だからそういうものだろう?」
    「斎藤さんは頑張りすぎなんですよ」

     ふいに、沖田の腕が斎藤の頭を抱いた。
     小柄で薄い身体は、だが剣士としての骨格も筋肉も出来ており不思議な感覚を斎藤に与えたものだった。猛者の資質を全て持ち合わせながら、志半ばで夭折した輩の懐は斎藤には酷く懐かしく、甘やかだった。
     抱き返すこともせず、その腕に身を任せて目を閉じれば、在りし頃の彼の匂いがしたようで、離れ難い思いを覚えた。

    「また会いに来ますから、もう少しこちらには来ないで下さいね」


    ——君はいつも同じことを言う。
     そんな不平すらも、目覚めてしまえば沖田の言うとおり、徐々に記憶は薄らいでやがて消えてしまうのだ。
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