あたたかい紅茶と寒がりなきみすっかり冷え込む季節になった。
この頃、布団から出るのが少し辛い。
「(……準備しないと)」
まだこのぬくもりに包まれていたいと思いつつゆっくり起き上がり、隣で猫のように丸くなりながら毛布にくるまり眠る、愛しい人を見る。
「…今日も寒いね」
そっと髪を撫で、名残惜しくも私はベッドを出た。
こう寒くなってくると、朝にやることがある。
まずはリビングに暖房をつける。
茨が起きてくる頃までに部屋を暖めておかないと、ベッドから梃子でも動かない。
(たまに少し設定温度を下げてみると、ずっとくっついててくれるから嬉しいけど)
今日はそうしている時間もないのが惜しい。
次にキッチンで、茨の体を温めるための生姜紅茶を淹れる。
キッチンでの作業も解禁されて懐かしい。最初は近付くことすら許してもらえなかったっけ。
電子ケトルでお湯を沸かしている間、創くんから貰った紅茶の茶葉とすりおろした生姜、はちみつを用意する。
お湯が沸けば、茨専用の黒いマグカップで紅茶を作り、生姜と…今日は、はちみつをいつもより多く入れよう。
軽くかき混ぜ、出来上がり。
部屋も暖まりだしたので、そろそろ茨を起こす時間だ。
マグカップを持って、寝室へと向かう。
「……茨、おはよう。朝だよ」
私がベッドを出たことで消えたあたたかさと、入り込んだ冷気にさっきよりも布団や毛布をかき抱き、もう茨はつむじくらいしか見えない。
サイドテーブルにマグカップを置いて、ベッドサイドに腰掛け布団越しに茨の体をぽんぽん叩く。
そうすると小さな呻き声のようなものが聞こえてくる。
「〜……」
もぞもぞ動き出すけど、まだ顔は見えない。
茨は寒くなると布団から出るのが極端に遅くなる。
ひどい時は1時間ぐらい出なかった時もあった。
(そういう時は流石に、遅刻しないように布団から引きずり出すんだけど)
今日は少し、時間がかかりそう。
「…茨」
もう一度呼びかけると、ゆっくり、鼻辺りまで顔を出してくれた。
「……おはよう、ございます…」
「…うん、おはよう。紅茶、淹れてきたよ。出られる?」
「むりです……」
「…冷めちゃう」
「う〜〜……」
また布団にもぐると、なにかと葛藤するように唸る。
…可愛い。
「……閣下がいないと寒い…」
………可愛い…。
寒いのと、寝起きなのもあってか、とてつもなく素直な発言に思わずときめく。
朝からあんまり、可愛いことを言わないで欲しいな…。
「…ごめんね。でも、紅茶もリビングも暖かいよ」
「…………」
「…もちろん、私も居る」
「……出ます」
「…いい子♪」
渋々といった様子ではあっても、やっと茨の顔がちゃんと見れた。
布団をかぶったまま起き上がった茨に、紅茶のマグカップを渡す。
両手で受け取り、それを口元に近付け冷ましはじめる。
(…ふふ、猫舌)
熱いのがいいはずなのに、熱すぎると飲めない茨。
(…これが見たくて、お湯はなるべく沸騰する手前まで沸かしてしまう)
そしてちょうど良い加減になったのか、一口飲む。
「──はぁ……」
ほわっと白い息が出た。
「…美味しい?」
「はい…。いつも、ありがとうございます。本当に助かってます」
「…これくらい、いいよ。茨のためだもの」
手を伸ばし、頬に触れる。
やわらかくて、あたたかい。手に擦り寄る仕草も可愛い。
「冬はもう、閣下の作って下さる生姜紅茶を飲まないと外に出られませんね…」
こく、こく。
少しずつ飲み進めて、でもしっかりと味わってくれて。
温まってきたのか、ちょっと笑いかけてくれて。
その顔がたまらなく好きだ。
「……抱き締めてもいい?」
「まだ紅茶が残ってるので、危ないから駄目です」
飲み終わるまで、もう少しの我慢。
すっかりお馴染みになった、いつもの光景。
これだけで、私は幸せだ。
寒い冬も、悪くない。
終