お疲れさま「コンミス、よく頑張ったな」
文化祭の中で行われる受験生のための学校説明会。
私はスターライトオーケストラのコンサートミストレスということで在校生代表として登壇した。
何度も演奏で使用しているホールだけど、楽器がないからだろうか。手はブルブル震え、足はガクガクと揺れ、頭も真っ白になりそうになった。
それでもカンニングペーパーを何とか読み終えた。
うまくいったか正直自信はない。
だけど、終わったときにもらった拍手が思いの外大きかったのできっと問題なかったに違いない。
説明会を終えたところに待っていたのは鷲上源一郎くん。
先月この学校に来たばかりということもあり、案内を兼ね文化祭を一緒にまわる約束をしている。
「コンミスの勇姿を見ることは叶わなかったが…… その様子だとうまくいったみたいだな」
緊張するから見に来ないで!と伝えたけど、その言葉を守ってくれたらしい。それでいながら私のことを案じていたのが伝わってくる。
「うん、ありがとう。気にしてくれて」
「ああ……」
そこで言葉は途切れる。まだ出会って間もないから会話の糸口はなかなか掴めないけど、鷲上くんとのこんな時間は嫌いではない。
そう嫌いではない。
……嫌いじゃない。
だけど、頭上から注がれる視線を感じてなんだか恥ずかしくなり、頬が赤くなるのを感じる。
「文化祭、どこからまわろうか。3年B組のパスタ屋さんが美味しいって成宮くんが話していたし、天文部のプラネタリウムが良かったって凛くんが話していたよ」
照れもあってか早口になる。
すると鷲上くんは意外なことを口にする。
「占いをしにいかないか?」
え!?
驚く私に鷲上くんは遙か頭上から話し掛けてくる。
「ああ、すまない。占いに頼るのは本意ではないがパンフレットにあって…… スタオケの今後を見てもらうのも悪くないかと思うのだが……」
その声には照れ臭さが含まれているようや気がする。
彼なりに考えてくれたことに私は嬉しくなる。
「ありがとう。スタオケのこと、考えてくれているんだね」
「ああ」
ふたりの意見が一致したところで、私たちは目的地に向かうことにする。人が多いため、鷲上くんが先を歩いてくれる。
その背中を見て私は実感する。ほんとはもうひとつ占ってもらいたいことができたことに。
京都で感じたひとつの小さな想い。彼から向けられているのは憧れだけで満足していない自分に気がついている。そして、それは少しずつ膨れ上がってきている。
だけどそれはもう少し先の楽しみにしておこう。気がつけばコンクールは来月に迫っている。
そう思いながら私は彼の頼もしい背中に着いていった。来年の文化祭はもっと親しい仲で歩けることを願いながら。