「最近俺のこと避けてねーか?」
光の守護聖ユエがアンジュにそう話してきたのは女王試験が始まりそろそろ3回目の定期審査を迎えようとする頃。
互いの気持ちが重なっていることを確認したものの、アンジュは『ちょっとしたこと』からユエのことを避けていた。
「だって、『あんなこと』言われたら意識するわよ」
ユエの言葉に内心ギクリとしつつ、アンジュは答える。
たまにユエがデートの誘いに来るが、外へ行けば誰に見られるかわかったものではない。
そのため自分の部屋で過ごすことにしたが、そのとき軽い気持ちで現在の気持ちを聞いたのがいけなかった。
『押し倒したい』
そうはっきり告げられ衝撃を受けたのを今でも覚えている。
ユエも心当たりがあるのだろう。
「すまない」
そうユエが告げてくる。その表情に影が落ちていることに気がつき、アンジュは慌てて否定する。
「そうじゃないの。私だってもう二十五歳よ」
確かにユエの言葉は衝撃的であった。
だけどアンジュももう二十五歳。気持ちが重なるということは、いつまでも清らかな関係のままでいることはなくいずれ身体も重ね合うことはわかっていたし、それどころか内心期待すらしている。
「ただ女王試験が終わるまではけじめをつけないといけないと思って」
ユエもたびたび口にする『けじめ』。
会おうと思えば気軽に会うことができ、しかも自分たちを咎めるものはおそらくいない。そうなれば宇宙の危機など関係なく堕ちていきそうな気がしてならない。それはどこまでも深く。だからこそ試験が終了するまで襟を正しておかなければならないと自覚している。
ユエもそのことに気づいたのだろうか。真剣な眼差しの中にどこか茶目っ気も含みながらアンジュに話しかけてくる。
「早く女王になれよ」
「ユエったら」
宇宙のためというよりユエ個人の欲望とすら思えるセリフ。それに対してアンジュは思わず微笑んでしまう。
「でも、光のサクリアはもういらないからね」
先日、一刻も早くアンジュに女王になってもらいたいユエが光のサクリアを送ったものの、焦りゆえなのか送りすぎてしまい育成のバランスを崩したことを思い出し、つい釘を刺してしまう。
「他のヤツのところにいっちまうのか」
「人聞き悪いこと言わないでよ」
「わかってるぜ。言ってみたかっただけだ」
「もうユエったら」
そう言いながらアンジュは周りに人がいないのを確認して自分から彼に口づける。
くちびるから伝わってくるのは温かい気持ちと、噴き出さないようの抑えられている情熱。そして今は服越しにしか感じることのできないユエの意外と逞しい体躯。
「アンジュ……」
かすれた声が耳に入ってくる。自分が彼のことを感じるように自分の身体の柔らかさも彼に伝わっているのだろうか。
早く肌と肌が触れ合い、そしてひとつになりたい。思わずそう望んでしまう。
目標の建物まであとふたつ。