しゃらっぷ、きすみー!「浮葉さん、明けましておめでとうございます!」
「こちらこそ。松の内も明けてしまいましたが、あらためて明けましておめでとうございます」
クリスマス・年末・新年と慌ただしかったため、愛しい恋人に会えたのは久しぶり。
唯は改札をくぐってくる浮葉の姿を見かけるなり、声を弾ませるようにして話しかけた。
この浮世離れした美しい人が自分に好意を持ってくれていることに実感が持てず、さらには隣で歩くことに自信が持てないでいたが、そんな唯の気持ちを見透かしているのだろうか。浮葉がするりと唯の手に自分の手を絡ませてきた。
「今日はどちらへ参りましょうか」
出会ったときから変わらない自分を魅了する笑み。今日もそれに魅せられながらも唯は浮葉をリードするかのように歩き出すことにした。
「年末の演奏会。源一郎くんのオーボエの音が安定してこっちも弾きやすかったです」
唯が浮葉を連れていったのは遊園地だった。そこにある観覧車は絶景が見え、それでいてなおかつふたりきりになれる貴重な場でもある。
会うのが久しぶりということもあり、話したいことはたくさんあった。
それなりの時間、会話をしてきたはずであるが、唯はまだまだ話足りない気持ちでいっぱいだった。
「新年はみんなでお餅つきをしたんですよ。でも、高校生だからすごかったですよ。赤羽くんや桐ケ谷さんもすごかったですけど、なんといっても流星くんが」
そこまで話したとき、唯は隣の浮葉が寂しそうな、でもどこか面白くなさそうな顔をしていることに気がつく。
「スターライトオーケストラに入るという選択肢を選ばなかったのは確かに私の意思によるものではありますが…… でも、あなたの口から他の男性の名前が出てくるのは正直面白くはありませんね」
そう言われて気がつく。自分は先ほどからここにはいない人の話しかしていないということに。
目の前にいる大切な、でもなかなか会うことのできない恋人との時間が限られたものであることをあらためて気づかされる。
「目を閉じて……」
誘われるまま唯は目を閉じる。
間も無く観覧車は最高点を迎える。そこで久しぶりに会う恋人同士がすることはただひとつ……。
そんな期待で胸がトクトク激しく打つのを感じていると、くちびるに浮葉の艶めいたくちびるが重ねられるのを感じる。
自分の髪を彼の細くてしなやかな指が触れてくるのが心地よく、唯は夢見心地になっていた。
「浮葉さんって、時々大胆なことしますよね……」
観覧車から降り歩き出した唯は後ろを歩く浮葉に向かってそう話す。声が小さくなるのは気のせいではないだろう。
くちびるが触れられ、舌が絡まれ、自分が自分でなくなるような高揚感。
観覧車の扉が開くまでに理性を取り戻せたのが奇跡なくらい熱に浮かされた、そんな時間。
「ええ。でも、あなたに少しでも私の存在を刻みたいので……」
そうしれっと言い放つ浮葉に唯はあらためてドキッとする。
この人には敵わない。
そんなことを感じていると浮葉の手が再び唯の手に絡められるのを感じる。
冬の寒さの中、そこから感じる温もりが暖かかった。