17翌日の宴会はどうやら外のお店で開かれたようだった。
親たちは気を遣ったつもりだろうが、本家にはお手伝いさんや結界を守る呪術師もいたので広い屋敷に完全に二人きりという事には絶対にならない。
私たちは用意されていた夕飯を食べ、各々お風呂に入り、映画を観て、朝までぐっすり寝た。
毎週末に本家に行っていたわけではなく、泊まることもあれば日帰りの日もあるといった感じだった。
外に出かけることもあり、映画館や水族館に行ったり、ぷらぷら公園を散歩することもあった。電車やバスに乗ることもあったし、行きたい場所が少し遠いと本家の人に車で送迎してもらったりしていた。
どこに行っても悟は目立つので、悟とずっと手を繋いでいる私は見ず知らずの女性の視線が痛いこともあった。女の子たちのざわめきもモデルのスカウトも常にあったし、怖いもの知らずの女の子たちは一緒に写真を撮って欲しいとねだりにきた。悟は気分で話を聞くことはあっても、写真は撮らせなかったし大体は不機嫌になり「失せろ」とだけ言った。悟と手を繋いでいるはずの私はあの人たちにとって完全に透明人間だった。
外出するときはいつも遠巻きに護衛の人たちが私たちを見ていて、「ついてこなくていいのに」と、悟はいつも文句を言っていた。
「うーん。最近また俺の賞金上がったから護衛の人数増えたのかなぁ……」
「なんのこと?」
「言ってなかったっけ?俺が生まれた時から俺の首に賞金かかってるって」
「またまたぁ」
「今何億くらいになったかな?」
「おく???」
「まあ、襲われても負ける気はないからいんじゃね?」
それほど六眼は呪霊や呪詛師にとって脅威ということか。まだ小学生の悟に億の賞金。
悟は平日きちんと学校に通っている。
学校から帰ると毎日修行をしているという。
術や呪力のコントロールに体術、五条家や呪術師の歴史も座学でやるらしい。
パパに呪霊退治の任務があれば、悟もついていっていると言っていた。
「ちなみに父親はとっくに俺に勝てない」
そうだ。
パパは高身長でがっしりしているのでまだ体重が父親より軽い悟は不利に思われそうだが、六眼で相手の動きがよく見えるから体格不利とかはないそうだ。術式に関していえば、六眼の悟に勝てる呪術師、呪詛師、呪霊はそうそういないそうだ。生まれながらにして勝ち確、と。
昔から週末は私が行くので暗黙の了解でフリータイム。
これらの日課は全て悟が小学校に上がってかららしく、ちょうどその頃私たちはケンカ別れしていた時期と重なっていたので私は知らなくて当然だった。また、私も平日の悟の行動を気にしたこともなかった。普通の小学生だと思っていたから。
改めて五条悟という稀有な存在を認識した私はその日遠巻きにしている護衛の人にペコペコしながら悟を引き摺って慌てて帰った。
「気にしてたらどこにも行けねぇじゃん」と、悟はずっとブーブー言っていた。
外出時はよく悟を観察しにくる人やモノがいるが、大体気付くし睨むと逃げていくとケラケラ笑っていた。私は全く気付いていなかった。
そんな話を聞かされてから、悟と外出する時はメガネをかけることを決めた。いざとなったら私のバリアでなんとかなる。
「実はなんにもしなくていいよ?雑魚の相手は俺一人で十分だから」
私は悟やパパが呪霊と対峙している所を見たことがなかった。
なんなら呪霊なんて自分が実験をしていた頃に鳩くらいの大きさの変な生き物くらいしか見たことがなかった。
本家に戻ると丁度ママがお茶にすると言っていたので2人でのこのこ居間に行き、3人でおやつにした。
口火を切ったのは悟だった。
「なんで護衛増えたの?」
「やだ。やっぱり気付くのね。」
「俺が気付かないと思うのが驚きだよ。もしかして試してたとか?まさかねぇ?」
「そうね。実もいるし話しておこうかしらね」
「護衛してるのは実なのよ。2人で出掛けててもトイレとかちょくちょく実が一人になることがあるでしょう?登下校の時も実は一人だから呪術師を配置してるわ。」
「は?」
悟が反応する。
「手を繋いでいるのが実を守るための最大の防御方法なのは分かってるのよ。悟と二人きりになると家でも外でも実のバリアが消えてる事はみんな分かってるの。一度消えたバリアが再構築されるまで1~2分かかるのも確認済み。普段からメガネをかけてない実には自覚がなかったけどね。
手を繋ぐという行為は昔からずっとやっていたから誰にもなんの不信感も持たれないわよね。手を繋ぐ事で無下限呪術の無限の層を使って実を守ってる。これなら何人たりとも実に触れる事はできなきないわ。でも悟が手を離した瞬間から、新たにバリアができるまでの数分は誰でも実に触れられる。」
「気持ち悪いな。知ってたのかよ」
「当然でしょう?二人ともかわいい我が子なんですから」
「で?実のバリアの問題だけじゃないよな?」
「実に賞金がかけられたわ。」
『六眼の子供を産む女を殺せ』