21私は生きていた。
1ヶ月生死を彷徨い、その後5ヶ月間意識が戻らなかった。
呪霊の一撃で肋骨が折れ、折れた肋骨が肺を貫き、医術師の止血中に悟の「蒼」による瓦礫を浴びた。瓦礫は私の体に穴を開け、骨を砕いた。私は「いつ死んでもおかしくない」と医者に言われたそうだ。反転術式を使える人間は見つからなかった。
目が覚めると、もう6月だった。
梅雨が明けた頃、母と医師から私のケガの説明をうけた。
複雑骨折や開放骨折は時間とともに良くなっている。破れた片方の肺はこれからずっと経過観察が必要だが日常生活は送れる。しかし、摘出した臓器があると言われた。
あの時私は仰向けに横たえられていて、体が動かなかった為に腕で胴体を守る事ができず、ほぼ真正面からノーガードで瓦礫を受けた。胸から上は止血中の医術師の体が盾になり軽傷で済んだが、胸から下、特に膵臓と子宮に致命的なダメージがあった。
その二つは命を救う為に摘出した、と。
静かに涙を流した私を、母は「生きててくれてありがとう」と言って抱き締めた。
「その女性は?」
私の問いに隠しきれないと思ったのか、医師は「亡くなった」とだけ答えた。
私は自分がどこにいるのか分からなかった。病院であることは間違いないが、窓から見える景色に全く見覚えながない。
パパは無事だろうか。
悟とママはなんでお見舞いに来てくれないのだろうか。
自分の術で人を殺める事になってしまった悟はどうしているんだろうか。私がいなくて辛い思いをしているんじゃないだろうか。
両親も病院のスタッフも言葉を濁して教えてくれなかった。
私は死にそうになったが生きているし、悟の事を怒っていない。
子供を産めない私はいらなくなったのか。
傷だらけの嫁はいらないということか。
私の全部をあんなに求めてくれていたのに、子供を産めなくなったら用無しなのか。
我が子だといって可愛がってくれていたのは嘘だったのか。
私はみんなに愛されていると勘違いしていただけだったのか。
私は段々自暴自棄になっていった。
泣き、喚き、暴言を吐き、手当たり次第に物を投げた事もあった。
やり場のない怒りと思うように動かない体で、私は壊れそうだった。
私は病院で19歳になり、約一年を病院で過ごした。五条家の人間を憎んだこともあったが、その頃には何もかもがどうでもよくなっていた。
初冬には退院できそうだと言われたが、結局大学には入れなかったし、これからの人生どうなるんだろうとぼんやり考える日が多くなった。
母は、大学に行きたいならまた受験すればいい。生活にいくらか制約はできてしまったが、まだ若いからいくらでもまた始められると言った。
悟と過ごした日々より素晴らしいものに出会えるのだろうか。
私にはそんなものがこの世にあるとは思えなかった。
あぁ。これもおじいちゃんの呪いなのか。
病院のお風呂に入る度にこの目に映る無数の傷。
私に刻まれた呪いを目の当たりにする度に何度も吐いた。
肉体はゆっくり癒されていったが、心が癒される事は一瞬たりともなかった。
退院が間近になったある日、彼女は現れた。
五条凪。
私が「ママ」と慕った人。
悟の母親だ。