32「実は本当にいいの?」
母が悲しいような怒っているような、なんともいえない表情をしている。
私と悟は東京から間を空けずに札幌に飛んだ。悟の任務の都合と、両親の仕事の都合を合わせるとなかなかタイトなスケジュールになった。
「悟と行く」
とは伝えてあったが、まさか将来的に一緒になるという話をされるとは思っていなかったようだった。
悟と私はパパに報告に行った時と同じように、膝をついていた。
悟は私に死ぬかもしれないようなケガを負わせてしまったこと、お見舞いにも行かなかったこと、そして孫を抱かせてやれなくなってしまった事を静かに謝罪した。言い訳はしなかったし、背景には決して触れなかった。結果だけを話した。
孫の話をされ、父は涙ぐんでいた。
「悟は五条家の次期当主でしょう?跡取りができないのは許されないんじゃないの?」
母は五条家の血を引いているので、皮肉を込めたのか、そう言った。
「妹が次期当主です」
悟がそう言うと、光の存在を知らなかった両親はとても驚いていた。
「子供ができてもできなくても、例え俺が不能でも、俺は実と生きていくと決めました。実も同じくそう考えていると思います。」
「実、そうなの?」
母が悲しげな顔をする。
「お父さん、お母さん。たくさん心配かけてごめんなさい。私たちはまだ子供だけど、でも、本当に私たちは魂を分け合って生まれてきたって分かるの。何度離れても何度も戻っていくの。」
「私は悟と生きていく」
悟の手が、わたしの手を握る。
私はその手を握り返した。
「実を頼むよ、悟」
父が涙を拭きながら言う。
「全身全霊をかけて守ります」
悟は静かに、はっきりとこたえた。
「はい!この話は終わりでいいわね?」
驚いて母を見ると、母も目元を赤くしてはいるが笑っている。
「えーと、終わりでいいなら終わりでいいかと……」
悟も驚いているようだ。
「今夜はみんなですすきのに行きましょう!」
「ママ、すすきの好きだねぇ」
パパが苦笑いする。
「北海道の海鮮はとんでもなく美味しいのよ!いいお店があるから行きましょう!」
「甘味あるとこならどこでも」
悟が笑う。
悟は一両しかない路面電車をひどく気に入り、「これずっと乗ってられるな」と喜び、すすきので遅くまで過ごした。酔った父は「早く悟と酒が飲みたい」と言っていたが、後に悟に「俺下戸だから」と告白されて笑った。
二人で私のアパートに戻り、「夜遅いし時短の為だから」と言われてしぶしぶ一緒にお風呂に入った。先に髪を乾かして悟が洗面所から出て行ってくれたので、私はゆっくり髪を乾かし、いい香りのするボディクリームを塗ってほっこりできた。洗面所を出てベッドを見ると、悟がダウンしている。久しぶりに私の両親に会い、すすきので楽しんで流石に疲れただろう。
膝をつき、敬語を使って両親に話をしている悟はかっこよかった。言葉も綺麗だし、何より立ち振る舞いというのか、動きに迷いがなく、背中もピッとしていた。作法とかは分からないが、多分正しい動きなのだろう。五条家ではやはりそういう行動も仕込まれるのだろうか。
いつもの悟の歩き方やダラけた動きも好きだが、今日の悟はかっこよかった。むしろ私の方ができてなかっただろう。
私は悟の寝顔を覗き込んだ。
_____全身全霊でまもります______
「今日はかっこよかったよ。おやすみ、悟」
私は静かにベッドに入った。
「納得がいかない」
「…………寝言??悟?起きてた?」
「納得がいかない」
「ごめん、起こしたね。納得いかないって何が?」
「お前今の言い方だと俺がいつもはかっこよくないみたいじゃね?」
「はぁ??」
「俺がいつかっこよくなかったか言ってみ?」
「そこぉ?!」
「今日は、じゃなくて!今日も!でしょ?!」
「いやいやいやいや。そんなつもりで言ってないし!」
「泣いてごめんなさいって言うまでヤルからな」
「えっうそちょっ!!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
「ダメ」
「謝ってるのにぃ?!」
「だぁめ」
「………………んっ……」
もう後はいつも通りです。はい。