34「パパ?!ここは?!」
「呪術高専だよ!私と悟の母校で光も通うだろうね!」
「そういうことじゃなくて!仕事の話をしにきたんだよね?!」
私は混乱した。それはそうだろうと自分でも思う。
「そうだよ?ここは呪術師の拠点だからね。普通の会社みたいにいろいろな部署があるんだよ。」
「えぇ……」
「普段悟はここで待機してて、任務もここから行くんだよ」
「今日は悟いるの?」
「今日はまだ地方から帰って来てないんじゃないかな?」
私はいろいろ諦めた。諦めてとりあえず話を聞いて断れるなら断ろう。
いくらなんでも同じ職場はどうかと思う。
「学長が古い友人なんだ。高専で彼だけは実の事を知ってる。」
通された学長室のソファーで、私とパパが隣に座り、向かい側に学長だと挨拶された男性が座っている。
「君が五条実さんか。噂は聞いていたよ。」
私はなんとかえしていいか分からなかった。
「五条氏からもいろいろ聞いた。君は高専の結界内にいた方が安全だろうと私も思う」
なるほど。パパが心配したのはそこか。
「万が一君に何かあったら五条くんがどうなるか私も不安だし、彼は名実ともに呪術界最強になってしまったので彼がいないと我々も困るんだ」
だから保険として私を保護するということか。
「あの……、そういうことでしたらー」
私はその場で断ろうとした。その時、外の廊下が騒がしくなった。
「ダメですよ!学長は来客中なんです!」
「だーかーらー!すぐ終わるってぇ」
「いくらすぐでもダメったらダメです!!私が怒られます!!」
「俺が謝っといてあげるから!」
「そういうことじゃないんですよ!」
バンっと勢い良く学長室のドアが開く。
「学長!!今日はもう帰ります!!」
私たち3人の視線を浴びて悟が固まる。
「親父、実……なにしてんの???」
「……面接……」
「は……?」
悟は学長の隣にドカッと座った。
「五条くん。さっき言ってた事だが。まだ全然定時じゃないよ?」
「だから許可をもらいにきたんですー」
「実さんが札幌から来てるからか」
「親父も実も来てるなら連絡くらいよこしてよ、もぉー!学長!!俺たち会うの2年ぶりなんですよ?!」
「まったく……噂に違わぬ関係なんだな」
「学長それ問題発言」
とにかく、と悟は言った。
「任務は終わってから帰って来てるし、次の任務もない。帰っても問題ないでしょ?」
「構わないがまだ午前中だから今日は欠勤な扱いな」
「えぇーーーー?ひどくないですか?」
「この話は終りだ」
悟はまだ悪態をついている。
私とパパは呆然と2人のやり取りを聞いていた。
「話は戻るが。どうだい、実さん。経理やってくれるかい?」
「はぁ、あの……」
チラッと悟を見る。
「経理?!うちで?!そんな話なの?!なんで親父は俺になんにも言わないの?!」
「五条くんうるさい」
学長から殺気を感じる。
「ここなら彼女は安全だろう。」
悟は全てを察したようだった。
「実は働きたいの?働かなくても大丈夫だよ?」
この親子はおんなじ事を言うのか。
「冗談じゃなく、五条くんはこれから『億』単位で稼げるようになるよ?」
学長がさらっと言う。
「億ぅ?!」
私は耳を疑った。
「だから実は無理して働かなくていいんだけど」
悟は私の体のことも心配してくれているのだろう。
「悟が稼いだお金は悟のお金ですから……。私は、とにかく働きたいです。ただ、完全に自由の身ではないから、ここでお世話になれるならお願いしたいです。」
あぁ、言ってしまった……。
ここで働くつもりはなかったが、なんとなく流されてしまった……。
「あー良かった!これで一安心だね!」
パパが朗らかに言う。
「じゃあ、この後経理と人事の人間から話を聞いてもらって、雇用契約書なんかもその時もらっておいてくれ」
「分かりました」
うぅ。後戻りできない。
「あぁ、五条くん」
と学長に言われ、
「はい」
と三人が声を合わせて返事をした。
「なんだこいつらめんどくせぇ」
と学長がぼやく。
全員で笑った。
「悟くん。彼女が勤務を開始しても、必要最低限の接触にすること。彼女の仕事の邪魔をしないこと。彼女とは遠縁で通し、間違っても許嫁とか言い出さないこと。どこから彼女の存在が変なのにバレるか分からないからな。あと、生徒や同僚の前で彼女にむやみやたらと触らないこと。分かったか?」
「俺に対するセクハラ発言があった気がする」
「分かったのか?」
「はぁい」
「最後に!みんなの前で彼女を呼び捨てにしないこと!」
「分かりましたぁ」
絶対納得してない顔だった。
私はそのあと一人で経理と人事の人から勤務時間や給与体系等の説明を受け必要書類も受け取った。
人事の人には「あの五条さんの親戚っていうからどんなはちゃめちゃな人が来るかと思ったら普通の方で良かったです」と言われ、え?はちゃめちゃ?と首をかしげた。
昇降口で待ち合わせをしていたので向かうと悟が待っていた。
「あれ?パパは?」
「学長とまだ話してるよ」
「そっか、一人で待たせちゃってごめんね?パパはまだかかるかな?」
私は小走りで悟の方に向かった。
「ストップ」
「は?」
「高専でそれ以上近づいちゃダメ」
「…って2メートルくらい離れてるけど?」
「それ以上近づいたら多分俺も実もなーんも考えずに手を繋ぐ」
「間違いないね……」
「うん。でも、そのリクルートスーツ姿をちょっと離れて眺めてるのはいいね」
「似合う?」
「似合う。できることなら今すぐ押し倒したい」
「大真面目な顔で言うセリフじゃない!」
「あ、お待たせ~帰ろうか~」
パパが戻ってきたので3人で帰途についた。後部座席に悟と座り、高専がまったく見えなくなってしばらくしてから悟は手を握ってきた。
「あぁ、久しぶり」
「だね」
「しかし、実を実って呼ぶなって言われてもなぁ」
「五条さんでいいんじゃない?実際五条さんだし。」
「みーちゃんって呼ぶわ」
「さとるんにするわ」
「それは嫌ー!」
「いや~賑やかになっていいねぇ」
パパはいつでもマイペースでほんわかしている。
その後は絶対に聞かれるであろう事をいくつかピックアップして、2人の答えが合うようにした。なかなか面白い作業だった。
こうして私は高専に就職することになった。