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    とーい

    @utugixt

    👒受すきな🐸。小話ばかり。時々🥗👒ちゃんも

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    とーい

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    ファンタジーパロの話題を見ていて唐突に浮かんだ妄想をめもめも
    ラノベ系?転生もの?っぽいやつで兄ル

    ##兄ル

    転がるボールを追いかける子ども。
    空気を切り裂くクラクション。
    これまで聞いたことのないような呼び声と学ランの襟に触れた指先に、一瞬、足が止まる。それでもルフィは、衝動のまま飛び出した。

    ——ごめん。それに——。

    喧嘩したままで離ればなれになってしまう兄たちへ言えなかった言葉だけを、胸に抱いて。

         §  §  §

    「——おーい、ルフィ?何してんだ」
    「……あ、」
    思わず足を止め、息をすることも忘れていたルフィの肩を、ごついてのひらが軽く叩いた。
    何と返していいのか口ごもる様子には気が付かず、壁に貼られたお触れに視線を移した男は、ヒュウ、と調子っぱずれの口笛を鳴らした。
    「すげェ額だな。……でも、こんな命令無茶すぎるだろ」
    その額に呆れつつも驚く声が酒場内に響き、他の兵士たちもなんだなんだと集まってきた。
    「なんだこの額?!俺らの給料の何十倍だよ!」
    「百倍の間違いだろ。まあ、あれからそろそろ——1年?だっけか」
    「いや、2年はたったぜ。その間に集まった聖女がぜーんぶ偽物だって話だからな。お偉いさん方も焦ってるんだろうさ」
    「そういやあ、魔の森の魔物もだんだん手ごわくなってきたもんな」
    「ああ……ガキの頃から只のおとぎ話だって思ってたが、伝説じゃなかったってことか」
    魔法の力に守られたこのゴア王国には、古くから伝わる伝承があった。
    かつては瘴気と魔物だらけだったこの地に流れ着い亡国の王子は、何処にも安息の地などないのだと、付き従う僅かな民と共に死を覚悟した。だが、自分がどれほど傷ついても民を守ろうとする王子の姿に心打たれた神が、全てを癒す力を持った聖女を彼らの下に遣わしたのだ。
    王子と民の傷を癒し、この地の瘴気をはらった乙女は、王子と愛を育み建国の祖となった。
    しかし、その力も永遠ではない。神が聖女を介し与えた加護は、百年ごとに効力が弱まる。けれど加護が消えかけたその時、王族が癒しの力を持つ乙女と出会い愛を育めば、あわさった力が新たな加護となりこの国を悪しきものから守り続けるという。
    無論、次代によっては王族が暗君であったり、癒しの力を持った乙女が聖女と認められても当代の王族と愛を育むことが叶わなかったりした例もある。そのようなときに備え、ゴア王国では魔法教育に力を入れている。平民であれ貴族であれ、身分を問わず一定の魔力が認められれば王立学院への入学が認められるのだ。
    ただ——。
    「……おれたちにとっちゃ雲の上の話だが、さすがに王子サマたちがかわいそうになってくるよな」
    聖女の加護が辛うじて届く国の外れ、魔境に接したこの地にも、自称聖女たちによる王子を巡る争いの噂は届いていた。
    二卵性の双子であり、癒しの力を覗けば最強の属性である火魔法を操る二人の王子。国王がどちらを王太子に指名するか宣言していないこともあり、神殿が聖女降臨の神託を出した二年前から、年頃の娘を持つ貴族たちはありとあらゆる手を使って『聖女』を仕立て上げた。
    ある者は財力に物を言わせ買い占めた回復薬を聖女の御業だと偽り、ある者はそこそこの癒しの力を持つ人材を集めて影から力を使わせては使い捨てに——ついひと月前には、癒しの力どころか魔力を持たぬ娘がどうしても王太子妃になりたいと暴挙に出た。宰相である父親の力と怪しげな薬師が調合した魅了の香水を使って、二人の王子をそれぞれ体から篭絡しようとした。
    もともと、淑女の皮を被った娼婦だと遊び慣れた男たちの間でひそかな噂となっていたらしい公爵令嬢は、魅了にかかったふりを装いながらも誘いを交わし続けた王子たちによって、卒業を祝う舞踏会の場で全ての罪を暴かれ断罪されたらしい。
    いい機会だとばかりに、関係者たちの余罪も追及して王宮や政治の場から腐った膿を出し切った王子たちの活躍もあり、新聞はしばらくその話題で持ちきりだった。しかも今、その話題の二人が、聖女の力に頼るのではなく自分たちで瘴気をはらし魔を払うため、国中を回っているという。困っている者がすぐに助けを求められるように、と二人の王子の絵姿が新聞に載っているらしいという噂は聞こえてきていたが、まだ、この地には届いていなかった。
    今日、この日までは。
    『癒しの力を持った乙女を探し、我がもとに差し出せ』
    我欲にまみれた辺境伯の命令と、並べて貼られた王子たちの絵姿に呆れて肩を竦めた誰かが、こんなとこに貼るなよ、命令の方を無造作に剥ぎとった。
    「——まあ、癒しの力を持つ奴なら、ここにも一人いるけどな」
    くしゃくしゃに丸められ捨てられたお触れの横で固まってしまっていたルフィは、もう一度叩かれた肩にはっと我に返った。
    「……何言ってんだ」
    掠れた声を誰かが不審に思う前に、酒場のなかはどっと沸き起こった笑いに飲み込まれる。ルフィも、どうにか笑みをつくり、肩を叩いてきた男に応えた。
    「違うにきまってるだろ。——だっておれは、男なんだから」


    酒が足りなくなったから補充してくる、と義父に言いおいて外に出たルフィは、ひとりきりになってようやく体から力を抜いた。
    それでも、モノクロだというのにその眩さが褪せない王子たちの笑顔が頭から離れず、心臓は大きく鼓動を打ったままだ。
    「……エース……サボ……」
    そんなはずはない、と解っているのに、二人の王子は、あまりにも似すぎていた。
    ここではない地——いや、恐らく空間さえも異なる世界で、ルフィの兄だったふたりと。
    事故にあい命を落としたはずのルフィは、神と名乗る存在の声を白い世界で聞いた。
    その優しき心がなんとかかんとか——よく覚えていないが、強い光にぎゅっと目をつぶった次の瞬間には、この世界の、何故か魔物と人間が戦う最中に落ちていた。
    訳も分からぬままに、体にまとわりついていた光の残滓が魔物たちを森の奥へと追いやり、劣勢だったらしい人間たちの傷を癒したことで、ルフィはただの不審者ではなく癒しの力を持った異邦人として辺境を守る兵舎にほど近い村に連れていかれた。
    始めのうちは戸惑いしかなく、あちらの世界を懐かしんでちょっぴりベッドで泣いてしまったこともあったが、ルフィの身元引受人として義父となってくれた酒場の爺さんや、気のいい村人たちや兵士たちに囲まれて過ごすうち、何とか新しい暮らしに慣れていった。まるでファンタジー系のゲームのような世界で、言葉だけは最初から通じたし読めたことも大きかっただろう。
    向こうの世界のことは忘れよう——そう何度もいいかせて、この地で生きていく覚悟がようやくできた頃に目の前に現れた、二人の王子。
    その存在が、捨てきれなかった想いの強さが見せた幻影にも思えて、ルフィは力なく笑みをこぼした。
    と、突然、遠くで騒めく声があがった。
    魔物の襲撃かと身構えたが、耳をすませば、聞こえてくる声はどうも歓声のように思える。そういえば、強さを増した魔物に対応するため、魔法師団の派兵を願い出たらしい、と誰かが話していたことを思い出す。
    援軍が来れば、魔物のせいで傷つく人も減る。ほっと息を吐いたルフィが、仕事に戻ろうと気合を入れて頬を軽く叩いた、その時。
    「——やっと、見付けた」
    「こんなところにいるなんて、な」
    懐かしいふたつの声が、ルフィ、と呼びかけてきた。
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