[30/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス 空間の瞬きが増える。ハート、クローバー、ダイヤの欠片に囲まれたあの、暗く深い水の底へ転送されないことをアリスは強く祈る。
一方のエースは平然と――それどころかどこか慣れた様子で、不安定な色彩のざわめきを眺めていた。不意にアリスは、ひとつの可能性へと思い至る。
きぃんと響く、長く強烈な耳鳴り。
「ねえ、私が記憶喪失になったのって……もしかして今回が初めてじゃなかったりする?」
高音に擦り潰されぬよう、ほとんど叫ぶような形で。尋ねたアリスは、エースの唇が動くのを見て必死に耳を澄ます。
「この約束をくれる『君』も、今回が初めてじゃなかったりして」
掲げる小指に結ばれた水色が、アリスの見た最後の景色だった。
856