[10/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス カジノに併設しているバーカウンターで酒を煽っていたエースは、ポーカーテーブルの間を右往左往する少女の姿に気が付いた。人々の隙間をかいくぐって、ゲームの進行を見るでもなく場を離れ、また別のテーブルへと向かう。それをテーブルの数だけ繰り返していた。
最後のテーブルを離れ、振り返ったアリスと目が合う。ぱっと一回り大きくなった、翠の瞳。うろうろと彷徨っていたそれまでの挙動が嘘のよう。迷い無く真っ直ぐに歩を進めるアリスに、今度はエースが目を見開く番だった。
「俺のこと、探してくれていたんだ?」
「だって顔を見せないとあなた、次に会った時に煩いじゃない」
「はは、君がそういうことにしたいならまあ、それでいいか」
エースは脚の長い丸椅子の座面をぽんぽんと叩き、隣に座るよう促す。
「お礼に一杯奢るよ。何がいい?」
「お礼じゃなくてお詫びでしょ。見つけるの、大変だったんだから」
「お礼だよ。俺を、広ーい会場中ずっと。一生懸命、探し回ってくれたお礼」
句読点に十分な間を取って強調された言葉。
いつから見られていたのだろうか。即座に羞恥がアリスを襲う。加えて言外に、そうまでして会いたかったってことだよな? と含まれた気がして。
「い……一番高いお酒ってどれかしら?」
アリスは隣の男からバーテンダーへと、慌てて視線を逸らした。