[21/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス 三回目に訪れたカジノ会場では、運良く早々に遭遇することが出来た。
「アリス、気を付け」
「え」
「あと、目は瞑った方がいいかな」
笑顔を崩さぬまま歩み寄ったエースは、アリスが目を閉じるよりも早く剣を抜き――投げた。両手持ち用の、騎士のあの大剣を。まるで投げナイフのように。右手一本で、ぶんとアリスの後方に向かって投げつけた。
閉じろと命令する間もなく、反射で瞼が落ちる。ほとんど瞬きの速度で、開いたアリスが振り向いた先。胸に剣の突き立った大柄の男が、仰向けで倒れていた。
周囲の悲鳴を聞きつけた黒の領土の警備隊が、方々から集まってくる。最初に駆けつけた者へとエースは端的に状況説明を済ませ、面倒くさそうに倒れた男から剣を引き抜いた。
血飛沫が、白いスーツにびしゃりと跳ねる。
「君をつけていたみたいだから、誘拐して領主さんにお金でもせびろうとしてたんじゃないかな」
頬に飛んだ返り血を袖で拭うエースを前にして、アリスは微動だにしない。
それは、人ではない何かを目にした時の、硬直に良く似ていた。
「……怖くなった?」
血溜まりではなく、己に向けられている視線だと分かった上で。エースは静かに、アリスへと問い掛けた。