[22/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス アリスの脚は、会場の絨毯に縫い止められたかのように動かない。心の整理が出来ずに、思考そのものが停止しているようだった。
エースは一旦その場から離れようと歩き出す。しかしすぐさま袖を、強く強く捕まれていることに気が付いた。
「怖くなった」
線状に飛び散った血は、アリスの指の近く、エースの肘のあたりにも点々と色を付けている。
「でも。あなたがそんな風に聞いたのは何故か、の方が気になる」
エースは顔だけで振り返る。震える指先とは逆に、少女の視線はちっとも揺れてはいなかった。
「怖がって欲しい?」
剣先でも血の跡でもなく、こちらだけを真っ直ぐ見上げる少女に。エースは唇を開きかけて、閉じる。
怖がって欲しい。
怖がって、離れて。そうしてくれたら仕事がもっと、ずっと、やりやすくなる。
いとも容易く振り払えるのに、そう出来ないのが答えだ。時間を重ねる程に、出来ればこのまま剣を向けずに済んだら良いのにと考えている自分に気付く。
エースは目を逸らさずに笑った。
「他人の感情をコントロールするなんてこと、出来ないよ」
――自分の感情すら、制御出来やしないのだから。