宵闇の粛清日和その日は不運な一日だった。朝の道路では自転車に水を掛けられ、黒猫が道を通り、自動販売機のジュースは押したのと違うのが出て、帰り道では車に轢かれそうになった。友人と帰っていた時で、不良被れな彼等の苛立ちは溜まり確かに溢れ今にも爆発する瞬間に彼等が話しかけて来たのだ。
「ねぇ、ちょっと道を聞いて良いかい?」
「あ"ぁ!?」
そう彼等に話掛けられた所がこの者達の運の尽き、回り回った巡り合わせ彼等のツケが回ってきたのだ。この世には一つの歯車が狂うったタイミングで色々な不運が起こる日がある。何を言いたいが、此処が彼等の運の尽き。過去にやらかした布石を払う日が来たのだ。
数時間前
蘇枋は学校の廊下を歩き珍しく機嫌が良い笑みを浮かべていた。普段の張り付けた笑みとは違く、心底楽しそうに浮かべる笑みは何処か恐ろしいものにも見え、その様な蘇枋を歩む先に有る階段から桐生が愉しげに見ている。
「おょ、すおちゃん機嫌良さそう〜」
「それは桐生君もでしょ」
「わかっちゃうか〜そりゃすおちゃんと同じでね。今日はあれがあるからねぇ」
「久々のアレだしね。楽しまなきゃ」
「うんうん。あれは心底楽しまないと損だよ。その分怒りもすごいんだけどね」
蘇枋と桐生の会話を聞いた者は知らぬが仏と素通りし、触れない様に通り過ぎる。彼等がら話す内容は風鈴の全体が知っており、知らないのは桜だけである。桜の耳には入らない様に彼の居ない所で会話が行われる様彼にのみ箝口令を敷かれており、現在も知る事は無い。
そして蘇枋と桐生が話す内容は桜が関わっており、多聞衆一年一組全員が変わっていた。他には桜を可愛がる四天王に梶やその他先輩、勿論総代の梅宮始め、獅子頭連の十亀に兎耳山に他メンバー、そして国崩大火を仕掛け今では桜を溺愛する棪堂と焚石。彼等を繋ぐ中心は桜であり、桜が関わる事で他チームと繋がる絆が繋がれた所があるのだ。そんな彼に隠す程の何を皆隠すのか、彼に知られたら悲しませ万が一にも無いが嫌われてしまう可能性を懸念し隠され、何より彼に要らぬ心配を掛けてしまう為に隠された。
その出来事とは、桜遥の過去に関わる彼に過酷な対応をした者を一人残らず粛清して行く行動である。ある意味祭と彼等は呼び、桜の過去を粛清する行動は一週間に一度担当制で各人物に分散され、一年一組のその日の話し合いで決めた人物、四天王及び総代、梶と彼の副級長達、 獅子頭連、棪堂と焚石である。彼等が週替わりで桜の過去に関わる人物を粛清して行くために桜を蔑ろにした事を後悔させ地獄を見せる為に彼等は動く。全ては桜遥の為に。
そしてこの日は蘇枋と桐生を初め、楡井柘浦杉下を含めた面子で放課後に粛清に行く予定である。
放課後になり桜と共に帰った杉下抜いた四人は、桜を送り届けた後に再び学校に集合し人が居ない教室に集まっていた。
「さて、久しぶりの粛清会だね」
「一ヶ月ぶりですね!!俺この日を楽しみにしてました!!」
「桜ちゃんにバレないようにするの大変だったね〜」
「ワシ何度言いそうになったかぁ!桜君の為にも言えんわ!!」
「ふん、別にアイツの為じゃねぇ」
蘇枋なクスクスと笑みを浮かべると、嬉色が乗り唄う様な声で話し出す。
「皆楽しそうだね。やる気が満ちてなによりだよ。なら行こうか」
「すおちゃんも楽しそうな癖にー。じゃあ行こうか」
蘇枋は一つ目を瞑り、桐生は笑みを浮かべその瞳に炎を揺らし楽しげに蘇枋を見つめる。
「桜君に手を出した愚弄共を潰しに」
その日は✕✕✕学校の生徒である彼等は不運が続き機嫌が悪かった。悪友達とそこら辺の雑魚でもカツアゲしようかと街に繰り出し、路地裏で小物を締め上げていた時だった。中々財布を出さない冴えない奴に拳を振り上げようと腕を上げた瞬間、風を着る前に腕が掴まれる。
「幼気な一般人を安易に痛みつけるのは好みじゃないなぁ」
パシと掴まれた手は力強く、今にも彼の手を握り潰してしまいそうな程に力が込められていた。まるで怒りに身を任せる様に。
「あ"ぁ"!!突然割り込んで来てなんだテメェ!!」
「わー声大きい。典型的な台詞だね」
「舐めてんのかテメェ」
「舐めてないよー唯オレなら君達を瞬殺出来るってだけだけどね」
「てっめぇ好きに言わせてりゃあ調子乗りやがって!!お前ら行くぞ!!」
蘇枋に殴り掛かろうとした瞬間彼の周りにいつの間にか居た仲間と眼帯の男に男達は薙ぎ倒され、地面には目の前には見覚えの無い制服の彼等だけが立っていた。
「お前ら…何者だよ」
瞬間顔色を悪くした仲間の一人が呟いた言葉に、男達に戦慄が走る。
「まさか…その制服…風鈴……」
震える声で呟かれたその言葉に、現場は騒然と会話が囁かれ風鈴と言う言葉に男達が恐れだした。
「風鈴……あの…」
「盆も正月も喧嘩をしていない日は無い…」
「治安が最悪って言う街の…」
「な、なんでそんな奴等が俺らを…」
その言葉に蘇枋が口角を上げ張り付けた胡散臭い笑みを浮かべたのに男達は恐ろしくなり。良く見るとピンク髪の男は読めない笑みを浮かべ、金髪の男は無表情に頁を捲り、オレンジ髪の男は怒りから腕を鳴らし、長髪の男は凄まじい怒気を表していた。男達は彼等に面識が無く何故此処迄彼等が怒るか等理解出来ない。それ以外考えられない程に男達の雰囲気は恐ろしく、眼帯の男は笑みを浮かべているのにその目は笑って居なく、ピンク髪の男は浮かべていた笑みを潜め冷徹な表情を張り付けていた。
男が一歩歩み出す。カツンカツンと靴音が辺りに響く。
「ねぇ君達に用があるんだ。調べは着いてるから確認するだけなんだけどね」
「桜遥って人を知ってるかな」
「桜?あぁあの気持ち悪い奴か。彼奴は何しても表情変わんねぇからつまんねぇんだよな」
「あぁ、あの白黒のあんな見た目してるのが悪ぃ」
「目も違うし本当に人間かよ」
「俺達が可愛がってやったから感謝して欲しいぐらいだよな」
先程と打って代わり下品に笑い出す男たちに、その場の空気が一段と重くなっている事などに気付かずに好き勝手語っていく。曰く桜のせいにしてでっち上げた事や、教師に罪を擦り付けた事や、彼等は数々の地雷を踏んでいる事等に気付かず語り続ける。
瞬間空間に声が響いた。
「やはり君達何だね桜君に愚弄を働いた奴は」
「桜ちゃんを貶めた事を認めるんだね」
二つの声が響男達は顔を上げる、二人の男はその綺麗な顔からは表情が抜け無表情に浮かべた眼は冷酷な程に怒気を静かに浮かべた冷えた目は笑ってなく。男達はその恐ろしい程の綺麗な表情に憤慨する彼等に思わず後ずさった。
「君達は野放しにしておくと何しでかすかわからないし。何より桜君に害を与えたそれだけで十分だ」
「オレは別にお前らなんてその場で野垂れ死のうと構わないんだけど、桜ちゃんを貶めたのだけは許せないんだ」
眼帯の男が男達の前に立ち死刑執行人が残酷に刃を下す。
「さぁ理由はできた。粛清を始めよう」
男は目を覚ますと冷たい床に寝かされている事に気づいた。起き上がろうとすると身体が動かず、じゃらと音が響く事から鎖で芝られている事に気づく。回らない頭で廃倉庫の様な場所にいると理解した男が身動きする中、聞こえてきた足音に自然と顔を向けた。
「あっ起きたー?」
はくと声に成らない声が出た事を確認した、その男は興味無さそうにスマホを弄り男を一瞥した後、笑みを浮かべたのに男は希望を持つが次の瞬間地の底迄叩き落とされる。
「だけど自業自得だから仕方ないよねぇ。そのまま寝ていてねー」
男が満面の笑みを浮かべ告げスマホに向かい彼等を見る事が無い姿に、恐怖を覚えていると歩く音が聞こえその音は目の前で止まり恐怖から身体を勢い良く跳ねさせる。
「あ?目覚めた案外遅かったね。喧嘩慣れしてないんだね」
男が背中に手を回し笑う姿に、男の周りの奴等も震えながら見つめるのに男が声に嬉色を乗せ告げる。
「桜君に暴虐をした奴等を俺達は一人ずつ探して粛清しているんだ。裏付けも取って逃げる事が出来ないように追い詰めて最後にこうやって現れる」
瞬間目の前の男の腹が勢い良く蹴られ唾を吐く。咳き込む男に彼は笑みを浮かべた儘残酷に罪人の罪を裁くが如く語り出した。
「モブ田裕太✕✕高校普通科に所属。同じ普通科の中学からの友人とは高校が同じで、桜君をいじめていた同士である。身長164センチメートル、女子より小さい事がコンプレックスで女子を馬鹿にする。体重✕✕キロ、最近の武勇伝はカツアゲした金額が最近で一番多いこと。こんな所かな」
「すおちゃん良く覚えてんねぇ。俺なんか覚えたく無くて読んでなーい」
「桐生君はそんな事言いながら影で記憶してたじゃないか。桜君の眠る隣で紙を睨んでた癖に」
蘇枋の返しに桐生は笑みを崩す事無く、蘇枋を見つめ二人の間に火花が散る。だが直ぐに顔を逸らし、男達を見ると桐生は何事もない明日の天気を語る様に告げた。
「だから余罪たぁっぷりな君達は死刑。そして死刑執行人の俺らは君達を好きにする」
男の口が戦慄き震える声は声にならずに消える。蘇枋と桐生が近づて来ると、笑みを深めた儘愉しげに目の前に立った。良く見れば周りに先程迄居なかった三人の男達も歩いて来た。
「さて罪人は四人、罪状は彼に暴虐を働いた罪」
タッセルピアスを音を立てて揺らし男が愉しげに残虐な笑みを浮かべ告げる。
「執行人は俺達、判決は死刑。君達が俺達に気が済むまで殴られること」
緩んだ制服を肩迄着込んで往く男が愉しげに声色を弾ませ告げる。
男達は歪んだ顔に絶望を浮かべ後悔をした。
罪状は挙げられ死刑が執行される。処刑人は鎌を振りかざした。
廃倉庫を後にした五人が歩く道は軽く、清々しげに笑みを浮かべる彼等は楽しげに話を弾ませていた。
「──でさぁあの時の絶望顔が最高だったよねぇ」
「オレは顔を蹴られた時の顔かな」
「すおちゃん性格わっる」
「俺は蘇枋さん達が蹴り飛ばして吹っ飛んだ時っすね!」
「にれ君も強くなったから参加してたね。楽しそうで良かった」
「ワシは刃向かって来た時が最高やったな!」
「……ふん」
彼等が話す顔色は明るく、頬には血が飛び散り歩く姿は粛清の跡が分かり態と人気の無い道を選び歩いている彼等は慣れているのが見て取れる。
「おいアイツはどうしてる」
「アイツって桜君のこと?」
「桜ちゃんなら今散歩してるよ」
茜色と濃紺が混じる黄昏の中、スマホを付けた桐生はGPSで動くマーク見ると愛しげにその動く様子を眺めた。
「桜君は散歩してるのか。何処にいるのかなぁ」
「猫と歩いてるんじゃないかな」
「相変わらず可愛いねぇ桜君は」
蘇枋と桐生が楽しげに目に執着を隠す事無く語る姿を杉下は一瞥し、構う事無く話を戻す。
「おい…アイツは……」
「桜君は大丈夫だよ。反抗出来ないように程にやり込んだから」
「そうそう桜ちゃんに危険が及ぶことは無いよぉ………まあそれでも危害を及ぼすなら…もっと酷い目に合わせるだけだね」
そう告げる桐生の目は昏く、蘇枋も光を浮かべる事が無い瞳で杉下に笑んでいた。
杉下は触らぬ神に祟りなしと彼等から顔を逸らすと、帰路を今だけ共に歩む。もうまこち街に入る前の風景になり、彼等は顔に付いた血を袖で拭った。
粛清行為に彼が笑顔を浮かべる事が無くとも、続けるだけだと全員が胸に刻む。
空は宵闇に染まり星が散らばり見える。
今日も天気は良く、闇に染まる空は三日月が彼等の行動を祝福する様に薄灯りを照らしていた。