この手に愛する生徒を掻き抱く寒い冬の到来が来始めた秋空の下晴天である中で、天気予報でも晴天と予測されている日に土砂降りの雨が降り始める。突然の雨の中人々は早足で店や軒下に入るなか、一ノ瀬四季は恋人の朽森紫苑との待ち合わせ場所から動かずに、木の下で雨宿り代わりに微々たる物であるが、微かに避ける雨を耐えている中で、突然男の叫ぶ様な声が辺りに響く。
「一ノ瀬四季!!!死ねぇ!!!」
突然飛んで来た刃物の山に避ける事も出来ずに腹を貫く鋭利な山に、これは死ぬなと悟りを得た四季の所に辿り着く所で合った紫苑が急ぎ、本気を出し即座に辿り着いた四季を倒れる前に抱え、腕に抱き締め寝かせる。紫苑の悲痛な叫びが辺りに響き渡り、何故か四季は彼に心底愛されている事に安堵する様な愛しさが沸いた。
「四季!!四季ィ!!死ぬなよ。今京夜先輩読んだからな…!!」
「……しおん、さん…もうむりだから…ごほっ…大丈夫…だよ……」
「何が無理だ…諦めるなよ…!!お前を失ったら俺はどうすれば良い…なぁ…四季…!!」
四季は心底幸せで合ったと言う様な微笑みを浮かべ、紫苑の頬に血に濡れた手を伸ばす。
「なぁ…おれは…しおんせんせ…にあえて…恋人にまで、ゴホッ…なれて、うれしかったよ…」
「四季!もう喋るな!京夜先輩もう直ぐ来るからな!!」
「なぁ…紫苑さん……聞いてよ…俺の話…」
────また逢おうぜ
その言葉を最後に四季の手は滑り落ち目を瞑り身体の力が抜ける。紫苑は腕の中で段々と冷えて行く四季の身体を感じ、彼が死んだ事を受け入れられずにいた。
「四季…目を覚ませ…俺を置いて行くな…お前が居なくなったら俺は…!四季!!!」
紫苑の叫び声が辺りに響き渡る。京夜と無陀野が駆けつけ、真澄が捉えた相手を捕まえ後から来た。一ノ瀬四季の死に項垂れる紫苑の様子に、彼等は目を見開き悲痛な表情を浮かべる。
奇しくも鬼神の子、炎鬼である一ノ瀬四季は、悲願である鬼と桃太郎の和解を成し遂げた一週間後に死に至った。
一ノ瀬四季享年20歳
彼の死は全鬼が悲しみ、中には桃太郎にも悲しむ者も居たのだった。
─────死んだ筈で合った。
何故か目を覚ました四季は、幼少期の赤ん坊の頃迄遡り、子供用の布団に寝かさかれていた。
思わず驚き叫び声を上げる。だが母音のみが口から出る言葉に、自身が遡った体は幼児所か、赤ん坊になってしまったのだと知った。
「あうあーうあー!?!?」
「おーどうした四季〜よしよし」
前世寄り若い親父に抱かれあやされる四季は困惑し見詰める。一体どうなってしまったのかと考え、四季の意識は気絶する様に闇に落ちた。
それから色々考えた四季は逆行していた事に気付く。赤ん坊から少年へと過ぎる時期は早く、四季は父親に頼み込み、強くなる為父親を二度と殺さない為の訓練を始めた。
然し何故か西暦が前世寄り遅く産まれ、前世と違う道を歩んでいる事に気づいた四季は、この先どうなるか分からない恐怖が常に付きまといながら生きている。
その上で忘れられない人物が常に頭に過ぎっていた。最後に置いて来た恋人の紫苑は、四季が居なくなった後大丈夫で合ったかと考え、四季は彼が三大欲求の睡眠と食事を満たしているか、人間らしい生活を送れているのか、一番は最後の生徒であり恋人である四季を喪い、彼の精神が壊れていないか心配で合った。だからこそ紫苑を時折目で追い探してしまう程には、四季は彼を置いて来た事が不安である。
月日は過ぎ高校生になり、高校が退学になり人生に迷う中、紫苑の生徒になれる年月も過ぎて、今後の父親が居なくなったであろう生活に悩む中で転機は訪れた。
前世と同じく、父親を殺した同僚である桃太郎、五月雨が訪れたのだ。その上前世と同じ形で事は起きた。
父親と車に乗り逃げた倉庫で五月雨と戦い、前世と変わらず相変わらず歯が立たない相手に、暴走する事無く致命傷を追わせ何とか追い払えた。然し四季も致命傷を負い、炎鬼の回復力があれど、父親も死ぬ程では無い重症を追う中で意識が朦朧とする中何がが滑る音が響く。
奇しくもそれは、前世聞き慣れた他クラスの四季を自身の生徒寄り贔屓にしていた教師のローラーブレードの音に似ていた。
「……っ、総師隊長相手に致命傷を追わせるも、自身も致命傷を追うが死人を出さずに済ませた。頑張ったじゃないか」
男は即座に四季の意識を落とし、四季を抱え剛志にも声を掛ける。
「貴方の子供は鬼機関で預かる。だが鬼である四季を機関に所属させると、貴方の命も危ない。この子が一人前になる迄は一緒に来て貰う事になるが良いでしょうか」
「……鬼が預かんなら、まぁ良いだろうな…アンタに着いていく。今はそれしか道がねぇからな」
剛志は身体を起こし男の後を着いて行く。
奇しくも一ノ瀬四季の人生が変わり、前世と同じく鬼機関に所属する事になる始まりの日で合った。
四季は試験を合格し、無陀野の生徒になった。クラスメイトの仲間とも打ち解け、最初は厳しい態度で合った皇后崎の態度も柔らかくなり、矢颪とは華厳の事が解決し打ち解け、気が合う為に一番仲良くなり楽しい日々を過ごしている。
無陀野や京夜に真澄も合い、相変わらず前世の記憶を持つ彼らに翻弄されつつ、紫苑の同期で合った馨や印南に猫咲も同じく記憶があり、時々羅刹に会いに来る彼等共楽しく過ごしていた。
然し紫苑の事を聞いても、誰も教える事は無く、紫苑の事は何も知れずに居た。その様な思いを持つも、毎日快活に過ごす四季は次の実習が決まり、その実習先を知る授業を受けるのに現在教室に向かうので合った。
場所は変わり杉並では、杉並区隊長朽森紫苑は酒を煽り廊下の壁に寄り掛かり人気の無い廊下を呆然と見ていた。
彼には前世を生きた記憶があり、産まれて自我を持った時から、四季が亡くなり怠惰にその後の人生を生き、酒の飲み過ぎで死ぬ迄の記憶が頭に残り現在生きている。そして一ノ瀬四季に非常に強い執着を持ち、同期で合った仲間にも指摘される程に強く重苦しい執着を、一ノ瀬四季に向けていた。
今世では合った事無い四季だが、練馬で活躍した辺りから炎鬼の鬼神の子が苛烈な戦いをしたと、情報が入り紫苑は炎鬼の鬼神の子と聞いた事に、情報を調べ出した。
前世から生徒を失うと理解するも、四季と出会う為に生徒を育て今世も生徒を全員喪い、限界が来て杉並区に隊員として移り、二度目の隊長へと上り詰めた。隊長になる気等無かったのだが、上からの指示は断れない為に仕方なく始めたが、今では隊員を想い生活している。
然し四季を探す事は辞めず、練馬の情報から無陀野の生徒へと辿り着き、羅刹から秘密裏に取り寄せた資料で、四季が今世は無陀野の生徒になっている事を紫苑は知ってしまった。
非常に怒りが沸き上がり、人には見せられないだろう顔で資料を見つめた紫苑は、即座に資料を強く握り締め、無陀野へと強い嫉妬を抱く。
その席は自分だった筈だ。四季の教師は自身だけなのだ。四季の生まれた時期が何故遅いのか。
何故何故何故、頭に浮かぶ疑問と怒りが尽きる事無く、其れから紫苑は暫く無陀野に怒りを抱き、同時に情報を寄越さなかった、馨と真澄にも怒りを抱いた。
時折杉並に来る京夜すら、四季の話題を出さず羅刹の生徒の話をする彼にも酷い怒りを抱く。
同時に印南と猫咲も四季を知る事に気付き、彼等が杉並に来る度に四季の話題を避けている事にも怒りを抱いた。
酷い嫉妬で焼け死にそうな程に、苛立ちが募る日々を過ごしていた紫苑も多少は落ち着き、四季の華厳の活躍も調べ、一度羅刹へと行く日があり、生徒の墓参りをする中で四季を探してみたのだ。
羅刹学園の渡り廊下で仲間の生徒と仲良くする四季を見て、思わず目を見開き口元に手を当てる。無意識に口元に笑みが浮かぶのを隠す様に、紫苑は四季を見つめ今は一目見るだけで良いと思うも、四季が何かに気付き此方を見ようと顔を向け紫苑に後一歩で気付くと言う時に、無陀野が四季に声を掛けた。
「四季、此方へ来い」
「ムダ先!」
即座に顔を逸らし無陀野の方に走る四季に、紫苑が思わず表情を落とし無へと化す。怒りを載せ顔や首に血管を何本も浮かばせる紫苑は、無陀野の邪魔に彼が態と四季を読んだ事に気付く。瞬間無陀野が紫苑の方を向き、目を合わせ逸らした事に、今は自分の生徒だと語る様なその瞳に、紫苑は絶対に無陀野を許すものか、復讐を果たしてやると思いを抱き羅刹を後にする。
四季に会えた嬉しさを抱きつつ、無陀野に邪魔された怒りは消える事無く、四季と再び見舞える迄は羅刹に行かない事を決めたのだ。
四季を思い出させる事を胸に秘めた紫苑は、再び四季に出会える時迄、邪魔をされずに四季に会え尚且つ思い出させる方法を考え暗躍するのだ。
四季は次の実習先が杉並になり、紫苑は前世杉並の隊長に着いていた事を思い出す。もしや紫苑が居るのでは無いかと淡い期待を懐き、杉並の変わらぬ地下を歩いて行く。
瞬間辺りに渇いた音が響き、女の金切り声が聞こえて来た。四季はその変わらぬ背中を見て、女にだらし無く、ギャンブルもし、酒や煙草を浴びるも、何処か凛とした芯のある姿を再び見て、花が綻ぶ様な笑みを浮かべ小さく呟いていた。
「……紫苑先生」
瞬間四季の声を聞き逃す事無く聞いた紫苑が、振り向き女を放置し四季の元に迄即座に走り来る。数秒で距離のある中四季の元迄駆け付けた紫苑が四季を見て感極まる様に呟いた。
「……四季」
「……紫苑先生」
「…本当に四季なのか」
「俺に決まってんじゃん!紫苑先生の生徒の四季だぜ!」
瞬間強く抱き締められた四季は、紫苑の吐き出す音を聞きながら、強く低く安堵した声で呟かれた言葉を聞いていく。
「馬鹿野郎…俺より先に死にやがって……俺がどんな思いで後を生きたと思ってんだ……」
「うん…紫苑先生…ごめんな。だけど紫苑先生なら生きてくれると信じていたぜ……」
「お前ならそう言うと思ったからな」
「うん合ってる。俺が死んで寂しかった?ちゃんと生活出来た?」
「寂しいし最後は酒に溺れて急性アル中で死んだ」
「ダメじゃん!!一番ダメな死に方だろ!!」
「お前に言われたくない」
「うっ、そうだけどさ……」
紫苑が強く抱き締め肩に埋めた顔を首元に擦り寄せ呟く。
「もう二度と死ぬな。俺が死ぬ迄生きろ四季…もうあんな想いはごめんだわ…」
「うん…ごめんな紫苑さん。俺生きるよ」
二人が再開し、強く抱き締め合う中でもう少々此の儘で居たいと思った紫苑だが、そうは問屋が卸さない事に気付かないでいた。
「おい紫苑、そこまでにしろ。時間の無駄だ」
無陀野の冷えた声に、紫苑は四季の肩から顔を上げ鋭く細めた冷えた瞳で笑みを浮かべる。
「無陀野先輩ぃ…いい加減にして下さいよぉ…何時も邪魔しやがって」
「俺が何時邪魔をした」
「羅刹の渡り廊下の件忘れたとは言わせませんよ」
「…………」
「無言は肯定と受け取りますけど」
「それがどうした。四季は今や俺の生徒だ。お前は元生徒だろう」
「それ本気で言ってます?四季は元だとは言え俺の生徒です。いや今も生徒だと言っても良いですけど…四季と貴重な再開の邪魔をしないでくれませんかね?
後杉並に置いて行っても良いんですよ。俺が確り育てますんで」
「寝言は寝て言え。お前が育てたら四季が死ぬ」
「寝言はどっちだ。四季は俺の生徒だ。アンタのじゃない」
無陀野と紫苑が睨み合う中で、四季は羅刹の仲間達に紫苑の元から連れられ囲まれていた。慌て止めようとする四季から意識を逸らす様に、彼等は話し掛ける。
「おいバカ四季、お前明日訓練だろ。こんな事してる場合じゃないだろ」
「一ノ瀬さん!凄い髪型の人居ますよ!あっ私なんかがそんな事言ってすみません!土になります!」
「四季ィ構えよ〜俺と話す約束してたろ〜」
「四季君凄い本を見つけたんですが、後で是非貸して話し合いたいのですが良いでしょうか?」
「四季君…杉並の美味しいスイーツのある店、漣さんが調べてくれたんだけど…皆で行かない?ひっ心臓が速くなった…なんかの病気!?」
「ロクロがそう言ってんだ勿論行くだろう!!」
彼等が四季へと声掛け四季の意識は完全に、無陀野や紫苑から逸れ彼等と話を始めるのに、無陀野と紫苑が怒りを乗せ彼等へと言葉を放つ。
「お前ら静かにしろ。今大事な話をしてるんだ。後四季に構うな」
「お前ら四季から意識を逸らそうなんて良い度胸じゃんガキ共?……覚悟は出来てんだろうな」
無陀野と紫苑の怒りに、負けじと子供達も意見を返し彼等へと反論する。
「黙れ。大人だからって指図すんな。四季は俺らのものだ」
「すみませんすみません!一ノ瀬さんは皆のです!私なんかが意見してすみません!」
「四季は俺らのだろ。お前達のもんじゃねぇよ!」
「端的に言いますと…四季君は皆のものです。誰かのものには慣れません」
「……四季君は皆のだから…ひっ心臓が…」
「ロクロが言ってんだ!!このバカは皆のもんだろ!!」
子供達の言葉に、無陀野と紫苑が怒りから血蝕解放をする衝動を必死に抑え、無陀野は指を切る動作迄行き、紫苑は何時でも指を噛める様に手を上げている。
この場を見ていた隊員が大我を呼ぶ迄一触即発の空気は続いたのだった。
漸く四季と共に二人で居られる時間を作れた紫苑は、四季を膝に乗せ前を向く四季を背後から抱き締めていた。息を深く吸い吐きと四季の香りを堪能する紫苑は、安堵する温かい体温と四季の香りに、漸くこの手に四季が戻って来た事に安心し溶けてく胸に鎮座する氷の様子が分かり、四季をこの手に抱ける事に愛おしさを感じている。
紫苑が暫く無言で、四季を堪能する事に四季は紫苑の部屋を見詰め、前と変わらず物が余り置かれない、最低限の家具のみが置かれた部屋に、生徒の写真立てが伏せられた光景が異様に映り、そこに自分の仲間も居たのかと思うと焦燥感が湧き上がり四季の胸を焼いた。
「お前今誰の事考えてんの。俺に集中しろ」
「……俺の元仲間達」
「……お前の仲間達は…もう………」
「知ってる覚悟はしてた。だから言わなくていい」
「…………」
「俺は今の仲間も大切だし、だけど前の仲間も同じくらい大切なんだよ。そこに差はなくて、だけどもう居ない事は分かってる」
「……お前が居なくなって無い事に安心したわ」
「…………」
「お前迄失っていたら…今度こそ俺は立ち直れなかった。だからもう俺の前から居なくなるのはダメ」
「俺が死んだら紫苑先生はどうなるの?」
「今度こそお前の後を追う」
「紫苑さん死なせたくねぇから生きないとな。今度はおじいちゃんになるまで生きてみせるわ」
「……あぁそうだな」
四季が身動ぎをし、紫苑と向き合い艶やかに笑う。昔四季が紫苑を誘う際にしていた表情に、紫苑も意地悪い笑みを浮かべ、辺りに淫靡な空気が漂い始めた頃に四季が囁いた。
「ねぇ…俺は紫苑さんのものになっても良いんだけど、紫苑センセはどうなの?」
「ハッ、嬉しい事言うな。俺の答えなんて知ってんだろ?お前は俺のものだし、俺はお前のもの。それは決まってること」
紫苑の言葉に、四季が触れるだけのキスを返す。何度も角度を変え重なる唇に、舌を絡め合い激しいキスを貪り合う紫苑が四季の服に手を掛けようとした所で、四季が紫苑の手を制する。
「待って紫苑先生…俺卒業迄誰にも抱かれない約束をしてるから、抱かれたら紫苑さんが殺されちゃう」
「……お前何人誑した」
「誑し?かは分かんねぇけど、ムダ先に京夜先生と真澄さんは覚えてるし今でも俺の事可愛がってくれてる。あっ後馨さんに印南さんと猫咲さんに大我さんも覚えているし俺の事相変わらず構って可愛がってくれる。
後桃の方も、唾切や黒馬に右京さんに月詠さんや後冬呉も覚えているし、今上げた全員に恋人候補に立候補されてんだけど、俺には紫苑さんだけだから断ってる。そしたら条件つけられちまってさ〜」
「条件?」
「俺が羅刹卒業する迄誰にも抱かれないこと。抱かれたら俺も全員に一気に抱かれた上に死ぬし、抱いた人は酷い目に合って死ぬ。俺はそんな死ぬの嫌だし、紫苑さんにはそんな死に方して欲しくねぇから…だからまだだーめ」
四季が唇に指を立て目を細め微笑む。その婀娜めいた表情に、紫苑は酷く沸き立つ欲求を必死に堪え、四季に出された条件が自身の当て付けの様に感じ怒りが湧くと共に、四季の為に我慢をする事に決めた。
四季が誰かに抱かれるくらいなら自分が抱いて一緒に死ぬと思う紫苑は、卒業迄と言う長い期間四季を抱けない事に不満を覚えながらも、その間に出来る幸せを積むことを考え、四季の唇に触れるだけのキスを重ねた。
重なる唇が顔を傾け再び唇を重ね触れるだけのキスを繰り返す。かさついた男の柔らかくも無い唇に酷く興奮し、四季の変わらぬ蕩けた愛おしいと言う表情を見詰め、舌を捩じ込み迎え入れる四季を貪る。
幸せで、只管甘い時間は過ぎ四季が紫苑の肩に寄り掛かり眠りに付き、紫苑は今日の事を振り返った。
四季が紫苑の名前を読んだ時には、どんなに女の金切り声で煩かろうと声を拾い、女等構わず四季の元へ走った。何時でも紫苑の一番は四季であり、四季以外には存在しない。
覚えていた四季を抱き締め、再開し堪能している中無陀野が邪魔をし、何時でも紫苑の邪魔をする男が前世から他と離そうと画策し、特に真澄と京夜が計画を立て、四季を掠め取ろうとして来た事に紫苑は酷く腹を立てていた。現在もそうだろうと思うと、酷く苛立ちが募る。
しまいにはあの発言である。
『それがどうした。四季は今や俺の生徒だ。お前は元生徒だろう』
紫苑はあの発言にブチ切れていた。血蝕解放する事が無かっただけ理性を保てたと思える程には、無陀野の発言には四季を攫い誰にも見えない場所に監禁してやろうかと思う程には怒りが沸いた。だからこそ無陀野の発言は許す事等無い事は決めている。
羅刹の四季の現仲間達は、誑されたのか独占欲が強い者ばかりで合った。四季は紫苑のである。お前達の四季では無いと後に突き付け無ければならない。彼等の前でキスでもしてやろうかと紫苑は思い計画の一つして組み込んだ。
そして四季と二人に漸くなれ、四季と共にキスをし行為に傾れ込もうとした際に言われた言葉は、紫苑の怒りを天元突破させた。普段は怒りのボルテージが低く、誰に対しても怒る事等無い紫苑が、憤慨する事に彼等が付けたあの条件は紫苑への当て付けてあるのだ。
四季を狙う鬼と桃で会議をし、協定を結び紫苑を嵌める為の罠を仕掛けたのだろう事は理解出来た。四季が紫苑の元に行く事の腹癒せと、その隙に四季を掠め取り自身のものにしようとする思いがあるのだろうと思い、無駄な行為をするなと紫苑は思う。
紫苑は四季しか選ばないし、四季も紫苑しか選ばないのだ。そこは何度転生しようと決まっている事であり、四季の記憶が無かろうと紫苑は四季を惚れさせ恋人にする。だから無駄な抵抗等辞めて、早く諦めてしまえば良いと紫苑は思っていた。
四季が紫苑の肩に寄り掛かり眠り、突然扉が開き無陀野が入り来る。
「矢張りこの様な結果になったか」
「俺がこうなる事を見越してあの条件を付けたんですか」
「そうだが。四季を想う鬼と桃全員で会議し決めた事だ」
「腹癒せすか」
「どうだろうな。何時でも奪おうと思えば四季を奪える」
「四季は俺のすよ。四季は俺だけが好きで、俺も四季から離れる事は無い。それに絶対に奪わせる訳が無いので」
「…まぁ、精々その裸の玉座を必死に守る事だな」
無陀野が四季の身体を抱き上げるとその場を去って行く。その行為すら紫苑には強い嫉妬を懐かせる物で合ったが、今は目を瞑り一人になる空間で、手を煙草に添え火を付け、深く肺に煙を入れ堪能し、吐き出すと煙を吐き出すと共に呟く。
「守るさ…この身全てを使ってでも四季を繋ぎ止める為なら、何も厭わないぐらいには……俺は四季が居ないと駄目なんだ」
愛する四季が誰にも取られない様、必死に要塞を建て高い塔の天辺に閉じ込め足枷を鎖で繋ぎ、その手に抱き留める。
四季は誰にも渡さない。この俺だけが此奴をこの手に抱き締める権利があるのだ。
この少年は紫苑のものだ。
それこそ生徒として紫苑の元に入って来た時から、紫苑が見つけた時に輝く光を纏う四季を見遣った時から、四季は紫苑のものなのだ。