いっけなーい!みほよみほよ!
俺、颯間ハル!オタクなぬるゲーマー。どこにでもいる至って普通の男子大学生!脳死バイトで連勤17日目、日曜深夜なのに週ボス終わってないことに気づいちゃった!タルタリヤ(素材)の自給自足で大変なのに、黄金屋に行ったら寝落ちしちゃって?!一体俺、これからどうなっちゃうの~!??!!?!?!?
どうなっちゃうのって、黄金屋イズヒアなんですが、俺夢でも見てます?????
目が覚めたら青い光の亀裂が入る床。良く知ってる床が抜け落ちるギミックに巻き込まれて空中に投げ出された俺の腕を誰かが掴んでくれた。支えてくれているその少年を唖然と見上げる。力強い手は、ぶらぶらと揺れる体を支える命綱だ。落ちたら死ぬかも、と思いながら恐怖よりも、俺はその金色の目から視線が離せなかった。
「ちゃんと握り返して!引き上げるから!」
必死の表情に、何が起こってるのか分からなくてぽかんとしながら頷くと、その少年、空君は俺を引き上げて、もうほとんど床が残ってない端に立たせてくれた。
「えっと、」
「ごめん。話はあと、ちゃんと迎えに来るから、待ってて」
そういうと空君は、抜けた床の底へと飛び込んでいく。
軽やかすぎる身のこなしに、慌てて下をのぞき込むと、魔王形態のタルタリヤが浮かんでいるのが見えて目を見張った。
ま、マジモンの黄金屋だ!!嘘!!どうなってんの!?!?
寝落ちしたからってこの展開面白すぎるわ。俺の貧困な想像力にしてはすごい再現率で自分で感心してしまった。やっぱり週1通ってるとちげえんだな。想像力が。
目の前で繰り広げられる戦闘をわくわくとこぶしを握って観戦する。俺が幼児だったら声をあげて応援していた。
空君は、しっかりタルタリヤの動きを分かっている動きで、攻撃を交わしては一撃を入れていく。
やがて敗北の台詞とともに、タルタリヤの姿が消え、床から地脈のつぼみが生えてきたのを眺めた。空君はその花の前に立つよりも先に、俺の下あたりまでやってくると、両手を広げる。
「え?」
「大丈夫。飛び降りてきて」
飛び降りるってこの高さを?!怖気づいて首を横に振ろうとした俺は、そこであっと気づいた。これ夢じゃん。夢だったわ死なないわ。正直空君の体格で俺を受け止められるか疑問だったけど、まあ夢だし何とかなるんだろ。こんな高さから飛び降りた経験なんて罰ゲームのバンジージャンプくらいしかない。いやバンジージャンプあったわ。
華麗に飛び込んでやるぜ!とばかりに、飛び降りようとしてつんのめった。
「わ!?」
ダッッッッさ!!!!
なんでバランスを崩したのかよくわからずに、足からではなく頭から落ちた俺は、体勢を整えることもできずに無様に落ちて、力強く受け止められる。
「お、おー……?」
軽々と俺を腕に抱きかかえた空君にびびった。いや空君の腕力にビビったんじゃなくて、空君の思ってたよりずっと大きな体格にびびった。いやちがくね?これ俺が縮んでね?
目を丸くしている俺をそっと床に立たせてくれた空君は、かがんで目を合わせてくれる。
「大丈夫?」
「うん……」
頷いた俺の声は自分で聞きなれているものよりも高い。これはあれをやるチャンスじゃん!
俺は大学生ゲーマーの颯間ハル!黄金屋挑戦中に寝落ちして、目が覚めたら体が縮んでしまっていた……!?
うろ覚えなのでそこまでしか考えられなかった。
ふわふわした感覚のせいで妙に現実感がなく。思考が脱線しまくってるけど、空君を見上げるっていうと、結構小さいと思うんだけど、どれくらいの年になってるんだろう。鏡ないから全然わからん。
「追憶の黄金屋にどうして……」
考え込む空君は、それからもうちょっと待ってて、と言って花から素材を回収すると(花が咲く光景はめちゃくちゃ感動した)俺の手を握って一緒に外に出ようとワープポイントの方へ行く。なんかパーティ組んでねえのかなって思ったら、そういやゲーム内だと追憶ってことになってるんだったよな。空君はソロ挑戦してるんだろうか?
ワープに入ったら目が冷めちゃうんだろうな、と定番の展開を想像しながら、俺は急にどっと疲れが出てきたのを感じる。疲れて寝落ちしてこんな夢をみたらそりゃ疲れるわ。目をこすってよたよたと歩くと、空君が大丈夫?と聞いてくれた。
「ん……」
夢の中だけど、好きな主人公の空君が優しくて良かったわ。さすが主人公。うとうととして足を止めた俺を、空君が抱え上げるのを感じる。
「おっ!空!戻ってきたのか。ってあれ?その子誰だ?」
そんな聞き馴染みのある声を聞いたのを最後に、眠気にあらがえず、意識は暗闇へすとんと落ちていった。
いや。最高の夢でしたね。俺としては推しの凝光様に出会えたらもっと良かったんだけど、そこまで都合の良い夢にはならなかったらしい。目が覚めてなんだかまだ眠いと思いながら、体を起こして俺は固まった。
ど こ だ こ こ 。
なんだか棚の作りとかデザインがちょっとファンタジックというか中華な印象の見知らぬベッドに寝かされていたのに驚いてきょろきょろとすると、何かとばちっと目が合う。
「うわ」
「うわってなんだよ!失礼だぞ!」
「オイラ……」
現実でその一人称はネタ以外で聞いたことがない。
空中にふよふよと浮いているその生き物を凝視すると、パイモンも腕を組んで俺を見つめる。
「なに見つめ合ってんの?」
そんな声とともに近寄ってきた気配に視線を向ければ、それは空君だった。
「なんか驚かせちゃったみたいなんだ」
「まあ空を飛ぶ非常食って見たことないだろうしね」
「オイラは非常食じゃないぞ!?」
掛け合いにぽかんとする。よく見る光景(二次創作)だ。この夢よく出来てんな、と感心した。その俺の視線を感じてか、空君が俺と目を合わせる。
「見たところ怪我はなさそうだったけど、具合が悪いとか、どこか痛いところは?」
「な、い……と思う」
空君は俺が寝ていたベッドのふちに腰かける。パイモンもその横に近寄ってきて、俺をじっと見つめた。
「名前は?」
「え……と、ハル、です」
「俺は空」
「オイラはパイモン!追想の黄金屋にいたって聞いたけど、なんでそんなところに居たんだ?挑戦した人間しか入れないはずだろ?」
そんなこと聞かれても、夢なのでつじつまが合ってるわけがない。とか夢の中で説明するのは空気が読めないので当たり障りがなく返事をした。
「分からない……」
この展開ちょっとハーメルンとかで読みたいやつ。なんて思っていると、うーん、とパイモンは難しい(かわいい)顔で悩むような声をあげた。リアルパイモンマジでかわいい。マスコットじゃん。
「何かで巻き込まれたんだと思うんだけど、じゃあ家族は?」
聞かれて首を横に振る。
「どこに住んでたの?」
「わかんない……」
俺の夢なんだから設定くらい思いついとけよなあ!と思うんだけど、読み専に難しいことは考えられない。俺の返事にだんだんパイモンの顔が心配するものになって、空君の顔が難しいものになる。
「記憶喪失……とか?」
うなだれた俺に、空君とパイモンは顔を見せてそう受け取ったようだった。ご、ごめん空君たち。俺には上手いごまかし方が思いつかなかった。流石に俺イン原神ワールドのシミュレーションをしたことがない。
「なあ、どうするんだ?こいつ」
「とりあえず、みんなにこの子のこと知らないか聞いてみよう。冒険者協会にも頼んでみる」
「み、見つからなかったら?」
不安な面持ちのパイモンに、空君は腰に手を当てる。
「俺が連れてくよ」
「ええ!?空!?」
パイモンの大きな声に、俺も同意だった。ずっとぽかんとした顔をしている気がする。でも展開のリアリティというか説得力が薄くてやっぱり夢だなこれ。俺が面白いやつ。
「でも、こいつこんなに小さいのに、旅なんかできないと思うぞ」
空君はじっと俺を見つめる。俺も息をのんでじっと空君を見返した。
「大丈夫だと思う」
「空がそういうなら、そうなのかもしれないけど……」
夢だから強引なだけで、根拠がない話を空君にずっとさせているのが申し訳なくなってきた。
握った両手を胸の前に引いてパイモンがもどかしそうに言うのにはっとする。そのモーションよく見るやつ!目の前の光景にオタクの俺は興奮してしまうわけで、でも空君たちに名に興奮してんの?とか突っ込まれるのはかっこわるいし、毛布を握りしめてにやけるのを耐えた。
空君の旅についてけるなんて最高じゃん!17連勤したご褒美に脳が見せてくれてるのかもしれない。にしては疲労キマりすぎだが。
「とりあえずハルの知り合いを探してみよう」
結論を出した空君は、少し心配そうに俺を見る。
「これから街に出て君の知り合いを探そうと思うけど、歩けそう?」
「歩ける!」
意気込んでしまった。というか、黄金屋から空君がこの部屋?に運んでくれたって行間になるよな。うわ空君に運んでもらっちゃったわ。七歳で良かった。というかそれが俺の無意識の願望だったのだろうか。それはちょっと引くわ俺……。
「なんで助けてくれるの?」
夢だとはわかっていつつも、なんとなくそう問いかけると、空君はきょとんとした顔で返事をする。
「だって、黄金屋で持ち帰れたものだから、ハルは俺の報酬ってことでしょ?」
「え?」
「大事にしないと」
「え?」
今までで一番間抜けな顔をしたと思う。
当たり前のことを言っているなんて顔をしている空君に、パイモンがそうかあ?という顔をする。そうかあ?どころじゃないんだが。パイモンいつものもっとキレの良い突っ込みをくれ。プレイしてた時、画面の向こうとこっちという差はあったけど一緒に突っ込んだ仲だろ?!
突っ込みのタイミングを逃してしまって、空君は俺が納得したと思ったのかそれ以上は何もう言わない。あの空君?俺の扱いって……?なんて聞けそうにない。
どうやら、この世界の黄金屋の週ボス報酬は俺のようです。