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    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

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    rani_noab

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    突然の鍾タルと北凝のバッティングWデートの話。CPです。

    恋磨の宴(れんまのえん)平素は格別のお引き立てに与り、誠に御礼を申し上げます。
    次の祝日にご用意する宴席は、この招待状を送りました方だけの特別なものとなるでしょう。
    そんな文から始まる手紙が、贔屓にしている料亭から届いた。内容は簡潔に言えば、上流階級の舌の肥えた人間を試食会に招待し、評価をもらい、新たなメニューの評判を広めてもらいたいようだった。
    料亭のステータスは申し分ない。店は仕事に絡む宴席に用いることすらあり、従業員の礼儀も行き届き、もちろん料理も申し分のないものだ。
    だが、凝光の時間を割くにはそれほど食指の動かない招待状でもある。そんな凝光を思案させているのは、その招待状が二枚あったということだ。つまりもう一人好きな人物を連れていけるということ。
    凝光は難しい表情を浮かべると、腕を組むようにして綺麗な指を口元にあて、思案をする。
    わざわざ凝光に試食会などという招待状を送るのならば、用意される料理はとりたて珍しく豪勢なものであり、料理に合う酒もたくさん用意されていることだろう。
    そしてちょうど今、南十字船隊が璃月港にとまっているところだ。
    そこまで考えたところで凝光は更に悩みだした。南十字船隊のことが真っ先に出てくるということは、自分が一緒に行きたいと思った人物は一人しかいないことの現れであるが、それを素直に認めるのがなかなか難しい。どんな物事も天秤にかけはしても、自分の利益と目的を見誤らない凝光が思い悩む時はたいてい彼女が関わっている。
    会いたいと思っているのだからさっさと招待を送ってしまえばいいとは分かってはいるのだが、どうしても悩む時間を使ってしまうのが自分でままならない。
    秘書たちに凝光様が悩むだなんて……と心配そうに見られ始めたのを察して凝光は招待を決めると、少し時間を置いてから使いを出すことにした。北斗のことで悩んでいると知られるわけにはいかないのだ。誰に対しても見栄かは分からないが、凝光は招待状をきちんと優先順位の高い仕事の引き出しへとしまった。
    使いを出してみれば、返事はすぐに来た。楽しみにしていると添えられた一言を見て、妙に反感めいた感情を覚えるのは錯覚だということも自覚済みだ。楽しみにしすぎるのを自制した反応だった。
    もちろん仕事に差し支えはなく、数日の忙しさの後に試食会の日は訪れた。
    凝光は招待状を手に、店へと向かう。
    招待状にあしらわれている特別な金箔の模様をみるに、訪れるのはそれこそ有力者ばかりだろう。となると、いつも以上に服装に気を使う必要がある。北斗に招待状だけ先に渡して何も言わなかったのは、別に言わなくとも彼女にはドレスコードが伝わると思ったからだ。北斗の目利きは確かであり、物事が良く分かる人間でもある。
    凝光といえば、結った髪に何もつけない代わりに、自分の属性である岩の光を閉じ込めた宝石があしらわれた耳飾りをかけている。蝶をモチーフにした細工は美しく、凝光の顔立ちをより引き立てていた。ドレスは青色をし、璃月の伝統衣装をベースデザインにしたものだ。裾が揺れるような形に切られた何枚もの薄く青いレース生地が足元を隠している。だが少し歩けば足のラインが浮かび、凝光をより綺麗に魅せてくれるだろう。胸元や袖は、璃月の伝統意匠が織られたレースで肌の色が少し透けている。手首はゆったりめの幅を持つせいで、手首と指のしなやかさが映える。どれも上品さから逸脱せず、凝光の持つ魅力を飾り立てるものだった。
    これなら文句は言わせまい。彼女、隠される方が好きだから。
    そう思いながら見えてきた店に顔を上げると、やっぱりと凝光は心の中で嘆息した。
    先についたなら先に席に座っていて構わないのに、北斗が外でたたずんでいた。凝光のことを待っている。足を早めようとして、凝光は一度足を止めた。
    北斗もドレス姿だった。こちらは璃月服のデザインが強く残っているが、黒いドレスだ。足のスリットは大胆に入っているが、危うさはない。肩や腕は出されており、彼女の健康的で強さを感じさせる体のラインが美しかった。金の線が裾にあしらわれ、黒い生地には更に濃い黒で琉璃百合の模様が入っている。シンプルに見えるが、北斗自身が花だ。自分で良く分かっているのに凝光は満足した。髪で眼帯は隠されるようにしているが、結われた髪には以前、凝光が……。
    「良く似合ってるじゃない」
    凝光の気配には気づいていたらしく、声をかけると笑って北斗が自分を振り向く。二週間ぶりに会う姿に近寄る。
    「アンタがアタシに選んだものだ。似合わないわけないだろう?」
    金色の髪飾りはいつも北斗が挿している大きなものとは打って変わって繊細な細工がしてあるものだった。
    楽し気に口元に笑みを浮かべられ、凝光も唇で弧を描く。
    黒いヒールは高く、凝光も履いてはいるものの、いつもより背が高いことが妙にぐっとくる。
    「さあ、行こうか」
    カツン、とヒールの音をさせて店の方に体を向けた北斗が差し出してくる手を取る。
    「転ばないように」
    「あら、あなたよりはヒールに慣れているわよ」
    ふ、と笑った北斗に手を引かれ、凝光は店員がいらっしゃいませとドアを開けるのに、店の中へと足を踏み入れた。



    「ようこそお越しくださいました。凝光様、北斗様」
    待っていた支配人が胸に手を当て歓迎を示すと、自ら窓際の席に案内した。
    丸いテーブルがいくつも並べられている。かけられている布は白く、どれも端に店の紋が金の刺繍であしらわれていた。見回した室内に飾られている調度品はどれもこれも一級品だ。控えめに感じるのは、これから運ばれてくる料理がメインだと言いたいがためだろう。窓から一望できる璃月の夜景は美しい。海灯祭の時は高い位置にあるこの店の予約は半年前からいっぱいだと聞く。僅かな窓際の席を一番に案内した支配人は、ちょうどよい短さで感謝ともてなしの挨拶を述べると、新たな客を出迎えにドアの方へ戻って行った。
    「良い眺めだな」
    「客同士の紹介でしか入れない料亭よ。それだけの理由があるわ」
    「ああ。どこに立つかは重要だな。商売においても、戦いにおいても」
    それから北斗は凝光を振り向いた。
    「先に言われちまったが、凝光も良く似合ってる。美味い飯に酒にアンタ、誘ってもらってから楽しみにしてたよ」
    「陸にいるときは陸の楽しみ方をするべきよ。特に私と居る時は特にね。どうせ港にいても船の上で暮らしているんでしょう?」
    「そりゃあそうさ。アタシの船だからな」
    それはそうなのだが、船にばかり居られては不服な時もある。それを素直に口に出さずにどう分からせてやるべきか、と考えたところで、凝光はふと室内がわずかにざわついた気配に入り口を振り向いた。
    「ッ」
    殺しきれなかった驚愕に北斗も入り口の方を振り返る。立っている男二人はどちらも、ある意味でよく知っている男たちだった。
    璃月の正装に身を包んだ男の一人は鍾離という名だ。濃茶の璃月衣装に身を包んでおり、金であしらわれた模様もデザインも、上等で文句のつけがたい複雑な様式を完璧に纏っていた。整った面立ちと、知識人然とした佇まいに良く似合っている。
    問題はその隣に居る男だった。
    「公子」タルタリヤ。璃月に混乱と危機をもたらしたファデュイの執行官の男の名は、凝光が一番璃月で目の敵としている男だった。おそらく鍾離に仕立てられたのだろう。璃月衣装は異国スネージナヤの面立ちとのギャップを魅力的に飾り立てている。見てくれだけは最高だった。見てくれだけは。
    おそらく鍾離がつれてきたのだろうが、パートナーにタルタリヤを選ぶとは、やはり腹の底の読めない男だった。タルタリヤはざわついた室内を一望し、そしてまっすぐに凝光と視線を合わせた。凝光の表情にはこの場にふさわしく敵意やその他、攻撃的な感情は宿っていないが、視線に潜ませるものを和らげることまではするつもりはない。
    タルタリヤはそれから鍾離を置いて先に凝光の方へ歩き出す。隣の北斗がゆるりとした仕草で、すぐに立ち上がれるよう姿勢を変えたのが分かった。
    タルタリヤは凝光の前で足を止めると、右手を胸に当てる。
    「「公子」タルタリヤより「天権」にご挨拶申し上げます」
    慇懃な声音。場を弁えた仕草に見返される視線に敵意はない。底知れない青い瞳が凝光を見返すが、凝光の視線を受け止めてそのまま流すように、攻撃的な感情は含まれていなかった。
    タルタリヤの挨拶は璃月というよりスネージナヤの口上だが、それはこの場を悪意で乱さないという表意でもある。
    「どういうつもりかしら」
    遠回しな応酬をするつもりもない。凝光の問いかけに、タルタリヤは笑みを浮かべる。
    「お互い、大事な相手に迷惑をかけたくないだろ?」
    ちらりとタルタリヤが背後から追いついてくる鍾離を見やったのに、凝光はタルタリヤがいわんとすることを察した。鍾離との関係性の吟味についてはまたあとで行うとして、鍾離がこの場に連れてくると決めたのであれば、確かにこの場を台無しにはしないだろう。そしてこの挨拶。信じはしないが、受けないのも度量が狭いというもの。
    「北斗」
    凝光が呼びかけた声に振り向いた北斗は、凝光がみなまで言わずとも頷いた。
    「勿論いいさ。凝光が良いならな」
    では、と凝光はタルタリヤを見据える。
    「一つあなたに「お願い」をしましょう。相席をしてくれないかしら?私の前に現れたあなたから目を離すわけにはいかないの」
    「勿論、かの天権と同じテーブルにつけるだなんて光栄さ」
    うそぶくタルタリヤは隣に立った鍾離に声をかける。
    「先生、彼女たちと一緒の席でも良いよね」
    すぐに状況を察したらしく、鍾離は頷いた。
    「ああ。俺としても光栄だ。天権と、あの海山を倒したとされる北斗殿と相席できるとは、今夜は良い縁に恵まれた」
    この状況をもって良い縁とする鍾離に、凝光は微笑を浮かべると、店の者に椅子を用意させる。
    四人は、それぞれの笑みを口元に、テーブルを囲む。
    「楽しい夜になりそうだ」
    北斗の声を皮切りに、かくして、奇妙な宴席は始まった。



    「そう、どうしてもその海域を通らなきゃならないが、その大鮫にはどうしても出会う」
    楽し気な北斗の声がこの席で朗々と響いている。武勇伝を語る彼女の姿は嫌いではなかったが、今夜に限っては状況が違った。
    「アタシの船をこれ以上壊させるわけにも、この航海をあきらめる気もない。だからアタシたちは釣りをすることにしたのさ」
    「釣り?」
    相槌を打つのはタルタリヤだ。楽し気に話を聞く姿は、まるで友人同士のようで、宴席は予想とは異なる展開を見せていた。
    「そう。大鮫が近づいてきたところを急旋回し、碇に引っ掛けてやったのさ。船は大きく傾いだが、海面まで引き上げればこっちのものだ。仲間とその大鮫を打ち取ったんだ」
    凝光もその戦果を港に持ち帰った話を聞いていた。
    「君の船を見たことがある」
    会話を続けるタルタリヤという男が、噂とは違い話がだいぶ通じる男であることが気にくわないが、話を遮るような不躾なふるまいは出来ない。そもそも、凝光はこの男が頭のおかしいならず者だけであったなら、このように手をこまねいていることもない。
    タルタリヤが凝光の相席に同意したのは、この場にいる人間がこの試食会を楽しめるようにと考えたからだ。かの天権が向かいに座る中で、ファデュイのたとえ執行官だろうと璃月の民に手出しすることは出来ないという信頼を感じている。その証拠に最初こそ緊張感があったものの、今は和やかさを取り戻している。
    「あの大きさの船を自分の手足のように動かせるなんて、君は部下に信頼される良い船長のようだ」
    純粋な称賛を惜しまないタルタリヤに、内心だけで眉根が寄って行くのが分かる。
    「ははっ、アタシだけの力じゃない。乗ってるのは自慢の仲間さ。みんな精鋭ばかりだよ」
    北斗の誇らしげな声に、タルタリヤも笑みを浮かべると、表情を確かめるように首を傾ける。
    「君なら、世界中の海を渡れるんじゃないかい?それこそ征服しに航海も出来る」
    「確かに。でも、アタシの故郷は璃月だ。それにここには凝光もいる。帰らない理由がないのさ」
    北斗の台詞に、目を見張るタルタリヤと同時に、凝光も目を見張る。
    彼女が璃月に帰ってくる理由に自分がいるとはっきりわかって凝光は妙にうろたえそうになった自分を抑え込んだ。
    「アハハ、まさかこの状況で惚気のダシにされるとは思わなかったよ」
    おかしそうに笑うタルタリヤに、凝光は認めてはいないものの、この展開を違う方へコントロールするのをやめた。
    それとは別に、先ほどから気になっているのは、タルタリヤの所作だ。
    箸の使い方は不慣れさが出ているものの申し分なく、皿の扱い方や料理の手の付け方まできちんと身についている。
    おそらくその理由は、と鍾離に視線を向けると、それを感じ取ったのか杯を手にしていた鍾離が顔を上げた。
    「まさかこのように食事に同席することなんて思いがけなかったわ
    すると鍾離は先ほどまでの表情の見えない澄ました様子から、思いがけず友好的な笑みを浮かべる。
    「このような場だからこそ、というのもあるだろう。俺のような凡人が、天権の値千金の時間に同席できるとは思わなかった」
    この男が口にする凡人ということばにいささかの違和感を覚えるが、含みのないさらりとした言い方に、本気でそう思っているのだろうとも感じる。璃月でも知る人ぞ知る知識人である彼の姿勢は、凝光の気に入るところだった。
    「あなたが彼と親しいのは知っているけど、彼を連れて来るのが意外だわ。今一番あなたが興味があることが、彼なのかしら」
    「彼はあれでいて璃月の伝統や作法を学ぶことに意欲的だ。些細なきっかけで俺が知るところを教えることになったのだが、せっかく招待されたこのような機会だ。経験させてやるのも良いと思った」
    凡人という謙虚さがあるわりには、どこか優位者の話しぶりもある。
    「成程。申し分ないとは言えないけど、十分見栄えはするわね。彼はあなたのような見識高い人ならば、話を素直に聞くのかしら」
    「はは。公子殿は手綱がある人間ではないさ」
    凝光が遠回しに手に負えるのかと尋ねたのに対して、鍾離は素直な返答をする。
    「公子殿は情が深い男だが、例え璃月に馴染んだとして、目的を見失うような男でもない」
    璃月のための懐柔ではないとなると、仕込んだのは、鍾離の彼に対する様々な期待ゆえなのだろう。
    「やっぱり良い趣味ね」
    「玉石は磨くことにも喜びがある。貴殿にも覚えがあるだろう」
    穏やかな笑みを浮かべたままだが、その背後にあるのは彼への好意だ。思った通りの関係ならば、どちらも己と立場を見失わないままで成り立たせるには、だからこその情熱がありそうだった。
    「否定はしないわ。彼も大変ね」
    「貴殿と北斗殿も、一見すると対岸に聳える尖岩のようだが、その実、陸は続き、お互いに向かい合っている。異なる立場の者がお互いを知り、懇意にしていることにはその者の器や見識、そして情のある心を持っていることが分かる。話に聞くばかりだった貴殿たちと、今夜、出会えたのは俺にとっても良い刺激になるだろう」
    「そうね。彼女との間にはいろいろなことがあったけれど、こうして珍しい機会を共にしたいと思うことは分かるわ」
    そういったところで、隣から視線を感じて凝光が振り返ると、北斗が嬉しそうに唇に笑みを浮かべて凝光を見ていた。
    「なあに?」
    何か文句でもあるのか、と視線に込めると、子猫にでも睨まれたように柔らかく目を細める。
    「いいや。凝光がアタシ以外にアタシとのことを話すのは珍しいだろう。思いがけず宝箱を開けた気分だよ」
    「俺たちはお互いには隠さないから、その話は面白いね。でも、『鍾離先生が手綱を握ってるらしい公子』の噂が否定されるのはちょっと困るな。鍾離先生の信頼を損ねたいわけじゃあないから」
    話ながらもこちらの話を聞いていたらしい。
    思いがけず鍾離のことを考えているタルタリヤに、だから璃月に滞在するファデュイが厄介な理由を感じ取る。
    「そんな無粋なことを私はしないわ。もちろん北斗もね」
    視線を北斗に向けると、その通りだと北斗は頷く。凝光が自身を理解していることに喜んでいる様子だ。これくらい分かるに決まってるでしょう、と思いながら凝光は続ける。
    「私が天権の座を勝ち取ったのは、私が築き上げた力によってよ。だから、」
    「俺たち(ファデュイ)のことも、私的な小細工抜きで対処するって?」
    タルタリヤの口元に好戦的な笑みが浮かぶ。今夜ようやく垣間見せた自身の本性に、凝光も唇を釣り上げる。傍から見ればつややかなそれは、自分の美しい面立ちに乗せれば、ある意味で相手を気圧させることを凝光はきちんと知っていた。
    「それは実に楽しみだ。天権のお手並み拝見と行こう」
    「あら、随分な自信ね。今の璃月の盤石が何で成り立っているのか、あなたは知っている?」
    仙人の手を離れ、様々な危機に直面した今、璃月の民の覚悟や団結は以前とは別の強さを持ち始めている。するとタルタリヤはにこりと笑った。
    「いいね。君たちのことを知ったからこそ、こちらも無粋なやり口はしたくない。今のところは鍾離先生とこうして定期的に食事を楽しむ予定しかないけどね」
    「そう?何か始めるときは、今夜の縁で教えてくれても構わないわ」
    「冗談、信じないだろ?」
    笑うタルタリヤに、北斗の制止が入らないところをみると、今夜だけの冗談の体を保てているようだ。周囲の人間の目や耳もあるが、問題はないだろう。
    そうこうしているうちに、食事は進み、デザートへと進む。
    ついつい話に集中していたが、料理もしっかりと楽しんでいた。素晴らしい味付けと見事な盛り付けは、これからの璃月の美食の話題にあがることだろう。
    そしてこの場もそろそろ終わりということになる。
    やってきた支配人に、重い重いの感想とねぎらいを述べる。
    「今夜は楽しかったよ。特に大鮫釣りの話は気に入った。俺も釣りが好きだからね。海の魔獣と戦う機会があるのは羨ましいよ」
    「次に縁があるのなら、アンタが倒した魔獣の話を聞かせてくれ」
    「勿論」
    懐っこくひらりと手を振ってタルタリヤは一番先にテーブルを離れていく。
    「では俺もこれで失礼させてもらう」
    そう言ってから、ああ、と鍾離は凝光に視線を向けた。
    「先ほどの玉石の話だが、彼は俺の手で磨くのが一番よく見えると思っている。彼の魅力である奔放さを生かしたまま、いかに仕上げるか、それが今俺が一番興味を持っていることだ」
    そう告げて、鍾離が手を胸に当ててから去っていくのを、凝光と北斗は目を瞬いて見送った。
    「あははっ、これはやり返されたね。アタシが最初にのろけたから、さては機会を伺っていたな」
    「食えない男ね。でも構わないわ。たとえ手綱が握れなくとも、枷になることもあるでしょう」
    立ち上がった北斗は凝光を振り返る。
    「さあどうする。夜はまだ長いぞ」
    「そうね。たまには波に揺れない夜を過ごしたら?」
    「良いねえ。勿論酒は用意してあるんだろう?凝光と二人で食事をするのを楽しみにしていたのは、本当だったからな」
    「知っているわよ。そんなこと」
    連れ立って店を後にする。璃月港を通り過ぎていく海風が凝光たちの頬を撫でていく。
    北斗の手にそっと指を絡めると、ぎゅっと握り返された。そう、あの男たちにはこんな風に外で手をつなぐことなんてできないだろうと少しの優越を抱いて歩く。


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    白銀の中に広がる赤。雪の降 1174