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    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

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    rani_noab

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    突然だが、僕には双子の姉がいる。
    彼女は僕と同じく妙論派の学者であり、専門は機関術だ。彼女の発明した機関は様々な専門職から依頼されて製作するもので、彼女が書いた設計図は美しく、それでいて実用的な機関が出来上がるのだから、僕の姉として誇りに思う。
    彼女は僕と同じ柔らかな金色の髪に意志のはっきりした赤い瞳をしており、贔屓目なしに美人だ。僕の製図や建築物を見て絶賛してくれるし、僕のことを尊重してくれる。無邪気なところもあって、新たな発想が浮かんだ時に、はしゃいで報告してくる姿なんて反則的に可愛い。彼女の話をすると僕がシスコンだって言う奴もいるが、僕に言わせれば彼女が姉なら誰でもそうなるに決まってる。そこらの男に渡す気はないし、僕以上の経歴や物事の妙論派への造詣、特に建築美学への理解がない奴なんか論外だ。
    だというのに!
    ……彼女の唯一の欠点は、人を見る目がないところだと思う。
    だって。
    「カーヴェ」
    彼女にではなく彼女が陥っている状況に理不尽な腹立たしさを覚えた時に、呼びかけられた声音に振り向いた。
    そこには僕を見て嬉しそうに近寄ってくる姉の姿があって、僕の方が勢いよく駆け寄った。
    砂漠で遺跡に使われている機関術の研究に行くと先月出かけた彼女は、特に怪我もしてる様子もなく、いつも通りに可愛くて美人だ。
    「姉さん!いつシティに戻ってきたんだ?」
    「ついさっき。カーヴェが教令院に来てるって後輩たちが教えてくれたから、探してたの。カーヴェが元気そうで安心した」
    「僕はもちろん元気だとも。今夜の予定は?今回はどんな発見があったか教えてくれるんだろう?」
    彼女はフィールドワークに出るたびに何かしらの成果を持ち帰る。その話は興味深く、いつも僕にロマンを感じさせた。
    今回も何か土産話がある筈だと問いかけると、彼女の視線が僕の背後に向けられる。
    「あ……」
    その戸惑った様子を見て、僕はすぐさま嫌な予感に目を細めた。振り返るとそこには思った通り……。
    「アルハイゼン。今は遠慮してもらえるか?姉弟の久々の再会なんだ」
    運がいいと思ったら今度は間の悪い。
    一番会わせたくない男がすぐ近くまで寄ってきて足を止める。
    「君が建築物は壮大なものが多いが、君自身の器がそれほど小さいとは、大建築家の名が泣くな」
    「この……」
    いいながら僕はちらりと彼女の方を向く。彼女は僕に向けていた親しげな笑顔をすっかり引っ込めてしまっていた。彼女らしくない反応で、彼女が気を張ったのが分かる。姉さんはアルハイゼンにだけ、少しだけ慎重な態度を取るし、言動に気をつけている。でも、喜んでいることもわかってしまって、盛大なため息をつくのを堪えた僕は褒められるべきだ。少し視線を下に落としていた彼女は、それから僕にだけわかる表情で意を決したように視線をアルハイゼンに向ける。
    「アルハイゼン、久しぶり。以前にも増して活躍していると会った人たちが賞賛していたわ」
    「久しぶりだな。だが、俺は俺の仕事をこなしているだけに過ぎない。賞賛されるようなことは君が出かけてから覚えがないが」
    「そ、そっか……」
    僕だけが分かることだが、姉さんはアルハイゼンのその言葉に落ち込んだようだった。
    基本的に朗らかな姉さんがこんな些細なやりとりで落ち込むことなんてないのだが、というかアルハイゼン!姉さんが誉めたんだから素直に受け取れ!
    まあ双子の僕だから分かることがアルハイゼンに分かるはずもない。
    「先ほど、カーヴェが今夜の予定の話をしていたな。もし良ければ、今回のフィールドワークの話を聞かせてもらえないだろうか」
    そう提案したアルハイゼンを姉さんに気づかれないように睨みつける。アルハイゼンはすました顔のままだが、僕には分かる。これは真剣に約束を取り付けようとしている声音だ。そもそも僕には人を小馬鹿にしたような態度しか取らないくせに、この態度の落差。先輩に対する敬いが全く見られない。
    そのアルハイゼンに、姉さんは迷っているようだった。
    「ええと……、アルハイゼンにはそんなに面白いものじゃないと思うけど……」
    姉さんは日頃僕が、アルハイゼンが建築美学やロマンが一切通じないつまらない男だと言ってるせいで、気後れしているのだろう。それについては……ちょっと罪悪感がなくもないが、というかそもそもアルハイゼンから人を食事に誘うなんて珍事は滅多にない。自己中心的なアルハイゼンが他人のために自分の時間を割くことなんてそうはないからな。姉さんを相手にしたとき限って、アルハイゼンは友好的な態度を取る。それが指し示す結論なんて考えるまでもない。が、姉さんはそのことを知らない。
    余計に腹正しくなってきたが、姉さんがもし食事に行ってその場の空気を悪くしてしまったら、と悪いように考えているのが手に取るように分かった。
    姉さん、そのまま諦めた方が良い。姉さんにアルハイゼンは絶対に似合わない!と、思うんだが。
    「その食事、君が奢ってくれるんだろうな」
    腕を組んで呼びかけると、アルハイゼンがこちらを見る。
    「そもそも君は誘っていないんだが」
    「姉さんを誘うなら僕を通してからにしてくれ。というか僕も絶対に行く!じゃなければ姉さんは君と食事になんて行かないからな!」
    「彼女の予定をどうして君が決めるんだ?」
    「うるさい、とにかく、君は僕と姉さんに酒を奢って……」
    そう言ったところで、姉さんからくすくすと笑う声がして、アルハイゼンと同時に振り返った。
    「仲が良いね」
    おかしそうに笑うその顔は、贔屓目なしに──可愛くて、僕は落ち込んでた姉さんが笑ってくれたことに抗議しようとした言葉が宙ぶらりんになる。
    「君の目にはそう見えるのか?」
    アルハイゼンの否定のない控えめな問いかけに姉さんは笑って頷く。
    「うん、じゃあ今夜、一緒にご飯食べよう。もちろん、私とカーヴェの分は私が払うから」
    「俺が言い出したことだ。君が気をつかう必要はない」
    スムーズに滑り出した会話に、僕は半眼になる。
    どうにかしてこの和やかな雰囲気をぶち壊して姉さんを一刻も早くアルハイゼンから引き離したかったが、姉さんが嬉しそうに笑うので、僕は大人になるしかない。
    でも姉さん、やっぱりアルハイゼンはないんじゃないか!?
    僕の内心の嘆きを抱えながら眺めた、姉さんはいつもよりも美人に見えた。








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