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    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

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    rani_noab

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    凡人装6 前半
    めちゃくちゃ面白くない!?

    連れて行かれたのは、なんと往生堂だった。
    今度は入り口にあの女の人が立っていて、鍾離先生と俺を見て丁寧な仕草で戸を開けてくれる。
    中に入れば少しだけ薄暗い室内は香の香りがした。あの胡桃のことだから、妙な飾り付けでもされているのかと思えば、妙な静けさと重々しさがある。
    璃月建築の美しい内装はよく手入れをされていて、年月を感じさせはしても古びた印象は受けなかった。
    「こちらだ。客人の間がある」
    案内されて一室へと入る。部屋に足を踏み入れた俺は、いくつかの本棚と中央のテーブル、そして4脚の椅子が用意されているのを見る。葬式の相談をするために使われているのだろうか。
    「今、渡し守殿が茶を持ってくる。くつろいでいてくれ」
    「本棚を見ても?」
    「構わない」
    許可をとってから、並べられている本を眺める。
    『初めてのお葬式ガイド』『意外と知らない葬具の名前』『幽霊だって恋がしたい!』『悪霊の見分け方』『絶対に呪われない肝試し入門』
    妙なものが混ざっているのを、鍾離先生になにこれと聞くこともできずに俺は本棚から視線を離した。誰が書いたんだこんなの。
    鍾離先生は特に俺を警戒する様子もなく、立って外を眺めている。ああ、俺が座らないから座らないでいるのかもしれない。それは悪いと思って俺が椅子に近寄ると、先生もテーブルに近寄ってきた。
    2人で席に座る。
    「璃月には慣れただろうか」
    「はい。スネージナヤに比べれば、生活はずっとしやすいですね」
    「気候の話なら確かにそうだろう。だが、多くの者が他国での生活に慣れた頃に郷愁の念にかられると聞く。貴殿もそう感じるか?」
    「俺は……」
    帰りたくない。そう言おうとして、流石にほぼ初対面の相手にそんな話をするのもどうかと踏みとどまる。
    「どちらかというと、もっと色々な国に行きたいですね。でももうしばらくは璃月に留まりたい」
    「璃月を気に入ってもらえたようで何よりだ」
    笑みを浮かべる先生に、そういえば結構笑うんだよな、とゲーム中に感じたことを思い出した。
    そこでノックの音がする。振り向くと、部屋に入ってきた渡し守が湯気の立つ湯呑みを俺たちの前においた。胸に手を当ててから出ていく姿が妙に洗練されている。
    お茶からは璃月でよく飲むお茶の香りがする。霓裳花がどうとか聞いたが、ブレンドにこだわりがある人が多く、店によって味が違うことが多い。
    香りの良いお茶に惹かれて手に取る。少し熱いお茶は美味しかった。
    璃月の茶の淹れ方は全くわからないが、ティーバッグだったら欲しい味だ。ただ、きっとこんな香りはでないだろう。
    「美味しいですね」
    素直に感想を口に出せば、鍾離先生は頷く。
    「ああ。俺が気に入ったブレンドをわざわざ作ってもらっている」
    「なるほど……」
    教養のある男を羨ましく思わないでもないが、俺向きじゃない。それに別に鍾離先生と友好関係を築きたいわけでもないので、仕事はさっさと済ませるに限る。
    「本題に入らせてもらいますが、今回はご依頼をしたくて伺いました」
    「依頼?」
    「はい。実は以前の北国銀行には返済時に価値のある骨董品や芸術品をモラの代わりに受け取ることがあったのですが、それを市場に出す伝手がありませんでした」
    「ああ、今の璃月、というより天権凝光殿のファデュイに対する姿勢を考えれば、そうだろうな」
    「璃月の商人たちは客の視線に敏感ですから、ファデュイと関係があると思われたくないのでしょう。良いものを適正な金額で交渉するにはいささか不利な状況にあります。各方面への造詣の深い鍾離先生の鑑定がつけば、状況が改善されるのではないかと考えました」
    「買ってもらえているのは光栄だが、一つ疑問がある」
    「なんでしょう?」
    理由としては筋が通っていると思うんだが。内心で身構えた俺に、鍾離先生は言った。
    「何故貴殿は俺をそうも信頼している?」
    「え?」
    「説明するまでもないかも知れないが、璃月では多くの鑑定士が七星庁の鑑定試験を受け、その合格証を持っている。俺は確かに自身の買い物の際に鑑定の知識を使うことがあるが、商売として鑑定のみを対価に金銭を貰ったことはない。だから何故、貴殿が俺に声をかけたのかが知りたいと思ったんだ」
    まずいな。自分の失態を理解して俺は思考を巡らせた。
    タルタリヤはおそらく、俺がその情報を分かっていると思って俺を送り出しているはずだ。情報を共有しなかったというより、タルタリヤの俺への信頼が裏目に出た。
    単に知識人として頼るには、初対面の人間への信頼が強すぎる。
    俺はゲームでの鍾離先生の知識があるから、疑問に思わなかったが、確かに言われた通りだった。
    「お話ししにくいことではありますが」
    俺はゆっくりと口を開く。
    「往生堂の客卿という立場を除けば、鍾離先生の肩書きは『稼業人』だと聞いております」
    「ああ、その通りだ。……なるほど、稼業人という大手を振って表には宣言できない面を利用しての依頼ということか」
    「ええ。稼業人でありながら、璃月の方の信頼も厚い。それならば、ファデュイからの依頼を受けようと、それほど鍾離先生の評判を損ねることはないのではないかと考えました」
    ちょっと苦しいが悪くないはずだ。
    「貴殿は北国銀行と璃月のこれからの関係性をよく考えているようだ。いっときのの利益を目的とするのではなく、その後の付き合いまで視野に入れている。その理由であれば、俺が最適だろう」
    返事が納得しているものであるのに、よし、と内心で息をついて、俺は改めて先生を見返した。
    「如何でしょうか。ご満足いただけるだけの対価はお支払いいたします」
    「良いだろう。その依頼、受けよう」
    鷹揚に頷いた先生に、微笑んで俺は頷いた。心の中では拍手喝采だが、表に出すわけにもいかない。
    荷物から用意していた契約書を取り出す。
    雛形で内容は今から書くが、鍾離先生の目の前で書いた方がいいだろうと考えたのだ。やり直しをさせられるより手間が少ない。
    鍾離先生との交渉の上、契約書を作成した。俺はタルタリヤに一度確認するということで、サインはせずに1度持ち帰ることにする。
    「そう言えば、先ほど聞き忘れたが」
    鍾離先生は、俺を見送りに往生堂の玄関までやってきてから、そう口を開いた。振り向いた俺に、先生は続ける。
    「往生堂への客以外、稼業人の俺に会いにきた者の中で、出されたお茶を飲んだのは貴殿だけだ」
    っ!?
    「次に会うときは、貴殿が個人的に俺に抱いている信頼について、聞かせてもらいたものだ」
    口元に笑みを浮かべてそんなことを言った先生が、それでは、とあっさり室内に戻って行った背を俺は呆然と見送る。
    俺としたことが……!
    絶対タルタリヤには報告できない。久しぶりの自分の失敗に頭を抱えながら、戦利品の契約書を持って、北国銀行へと帰還することとなった。



    「流石リオ。上出来だよ。君に任せて良かった。流石に俺が直接出向く訳にも行かないからね。『鍾離先生』には興味があるけどさ」
    俺の内心を知らずにタルタリヤが機嫌よくそんなことを言うのに俺は恐縮です、とだけ答える。
    「で、どうだった?」
    タルタリヤは机を挟んで立つ俺を見上げる。
    「何がですか?」
    「鍾離先生だよ。どう思った?」
    「どう……、と言われても。非常に冷静沈着な性格で、ファデュイの偏見もなく公平に依頼を考えていただいたような印象を受けました。報酬額についても、明細の提示があり、どれも納得いくものでした」
    「好感が持てる?」
    「はい?まあ、璃月人の中でこのような態度を取ってくれる人は少ないので、仕事がスムーズでした」
    俺の返答にタルタリヤは目を細めるようにする。若干の剣呑さを感じて僅かに体に力が入った。
    「君、俺が聞きたいこと分かってるよね」
    そんな風に言われてため息をついた。そんなこと聞かれても、なんて答えたら良いかわからない。
    「俺が持ちえない教養のある人間だったので、尊敬の念はあります。確かに信頼される人物でしょうね」
    「ふーん……」
    何か考えるようにしてから、タルタリヤは頷いた。
    「よし、じゃあ正式に契約を結ぶとき……は部下の派遣を迎える仕事があるから難しいか。先生に北国銀行にお越し頂く際に俺も立ち会おう」
    「お好きにしてください。俺は公子様に従うだけですから」
    返事をした俺を、タルタリヤがじっと見つめるのになんだ?とその視線を受け止める。
    「君の忠実さは仕事に対するものだ。俺に向いてるわけでも、ましてや女皇に向いているわけでもない」
    その言葉に流石に否定しないとならないと口を開いた俺を押し止めるように、タルタリヤは両手を上げる。
    「ああ、良いんだ。俺は女皇を裏切らなければ何を考えてようと構わないさ。でも、部下との絆を深め、充実感と仕事の効率を上げるのも上司の仕事だろう?」
    「……何が言いたいんですか?」
    「戦闘訓練をしよう!」
    にこっと笑ったタルタリヤに、俺は引きつりそうになる口元を堪えようか考えて結局嫌な顔を素直にした。
    「仕事が中断しますよ」
    「執行官にしては、俺は大人しい方だと思わないかい?そろそろ、これくらいの我儘は許されると思うんだ」
    「執行官だから暴挙に出ていい訳じゃないんですよ」
    「暴挙!そんな表現されるなんて心外だね。突発的な戦闘訓練なんて、そう珍しくない話だ」
    それはその通りだが、俺は嫌だった。
    会話の流れからして、タルタリヤは絆を深めるために俺と戦闘訓練をしようと言っているのだ。
    俺が全力で抵抗しても、タルタリヤが気を変えることはないだろうこともわかっているし、基本的に無駄な労力は割かないことにしている俺はため息をつく。
    「集合をかけます」
    「ああ、頼むよ」
    楽しそうなタルタリヤに背を向けて、執務室を出た。

    訓練は流石に翌日の開催となり、朝の集合場所に向かうと、ぞろぞろとファデュイの制服を着た人間たちが集まっていて異様な光景だ。千岩軍に見つかったらちょっとした抗争になるに違いない。
    丸一日がかりの訓練を一晩で用意した自分の手腕を褒めたいような、用意できませんでしたとふざけた返事が出来なかった自分のメンタルの弱さを嘆くべきかわからない。
    ここで気をつけないとならないのは、俺が神の目持ちであることをタルタリヤ以外の人間が知らないことだ。
    バレた際の言い訳は常に用意してあるが、面倒なことになるのも分かっている。
    タルタリヤは隠していても構わないとは言ったが、俺をフォローしてくれるつもりがあるのかは全くわからなかった。というか、どちらにせよタルタリヤに頼るつもりはないので、自分で対処する必要がある。
    北国銀行の仕事の中だけでいえば、一番物騒なのは返済の催促だが、逃亡する輩も多い。逃亡者の追跡訓練と称して、タルタリヤは狩人と獲物の2チームに分けての訓練を行うと言った。
    予想するまでもなく、俺は獲物チームでタルタリヤは狩人だ。
    半日かけた広い範囲内で行われる大掛かりな訓練となり、この短い時間に
    適当に逃げ回ろうと考えていた俺は、狩人と獲物で残った数が多い方にボーナスを出すと言ったのに心が揺らぐ。
    「一番多く獲物を捕まえた狩人、そして最後まで残っていた獲物には、追加で支払うよ」
    その声に沸く部下たちに、俺も目標を変える。ここ最近守銭奴になりつつあるが、ファデュイから抜けた際に必要になるだろう額にはまだまだ足りない。
    というかタルタリヤも多分俺のことをわかっていてそう設定してるよな、と思いながら、俺は訓練開始の号令に足を踏み出した。
    タルタリヤが俺を狙ってくるのは分かっているので、どこに身を潜めるか、が問題となる。
    半日かける訓練時間をどう生き残るかを考えた際に、重要なのはスタミナの配分だ。ずっと逃げて回るのはタルタリヤ相手には無策と言っても過言じゃない。
    愛用の弓を手に握りながら、俺は璃月の壮大な岩の突き出る地形の中に足を進める。高低差が激しいどころじゃない立地は、狩人には不利なものになっている。タルタリヤが狩人にいるなら大した問題じゃなさそうだ。
    ボーナスを貰うなら、タルタリヤ以外の他の狩人もある程度は狩る必要があるな、と思いながら、俺はただの高所に佇む。周囲がよく見渡せるということは、
    身を隠す必要はない。その前に落とせば良い。目がかなり良い上に、遠距離射撃も得意なので、そもそも近づけさせなければいい。
    元素の矢をつがえては放つだけの簡単なお仕事、なんて思いながら、片端から落としていく。俺に気づく前に倒せば、俺の正体に気付かれることはない。
    6人ほど戦闘不能にしたところで、俺は手を止める。ゆっくりと背後を振り返った。
    「やあ、リオ」
    微笑んで距離を保ったまま笑んでいるタルタリヤに嘆息する。
    いつ来たのか気づかなかった。気づいた時にはもうそこにいたのだ。戦術もなにもあったもんじゃない。
    「悪趣味ですよ。いつから見てたですか」
    「さっきの矢をつがえたあたりから。君ならこの辺りを選ぶかな、と思ったけど、勘が当たって良かったよ。あと3箇所くらい回らなきゃならなかったから」
    「この広さの中に他に3箇所しか候補がなかったんですか?」
    「そうだよ。君は優秀だ。優秀だからこそ、選択肢は狭まるのさ」
    空中に現れた弓を無造作に握り、空気を切るように自分に引き寄せるタルタリヤは、俺が降参の言葉を吐いても手を止めそうにはなかった。痛いのは嫌だが、タルタリヤと戦うならぼこぼこにされたほうがマシかもしれない。弓をおろそうとした俺に、タルタリヤが口を開く。
    「君のことが知りたいんだ」
    「どこに拠点を構えるかがわかるほどご存じなのでは?」
    「君が手を抜いてる可能性もある。君は俺に何も言わない。別に無理に言ってほしい訳じゃないよ。ただ、たまには君の本心を覗いておきたいのさ」
    「闘争で?」
    「そう。闘争で」
    そういえばこいつは拳で相互理解するタイプのクソ面倒くさい男だった。
    タルタリヤの弓が水飛沫となり、槍のが現れるのと、俺が片手を振り払うのは同時だった。
    この距離なら確かにタルタリヤの方が有利だ。だが、近づけさせなければ良い話だった。俺を囲むようにして現れた7つの雷球がバチバチと放電するのを感じながら、俺は地を蹴ったタルタリヤに注意を向ける。三撃までは囮だ。タルタリヤの動きを制限させる。一撃目で飛び退いた先に放ったニ激目を器用に避けたタルタリヤが、着地する先を狙う。紙一重で全て避け切ったタルタリヤが体勢を整え直した瞬間に、その目の前の地面へ全て叩き込んだ。炸裂した雷撃と閃光にタルタリヤが足を止める。
    すぐさま距離をとって矢を構える。強く引き絞り、照準をタルタリヤに合わせ……。
    次の瞬間、空気を切り裂いて飛んできた水剣に、俺は構えを解いてなんとか弓で叩き落とす。雷元素を帯びていた矢に水が纏わりつく。
    「ぐっ……!?」
    体に走る電撃に身が強張り、たたらを踏んだ時には、目の前にタルタリヤが迫ってきていた。
    大きく振りかざされる槍から水飛沫が空中に散っていくのに目を奪われる。
    タルタリヤの戦いぶりを見ると思う。華やかな戦い方をするのだ。ひとつひとつが、格好良く、男心を擽るような遊びも入っていて、悔しくも、流石「公子」の名を持つだけはあると感じてしまう。
    悔しさよりも若干の諦めに似たような感覚でそう認めた俺は、弓で防御をすることも出来ずに、その軌跡を眺めた。
    首に刃が掛かる、ほんの数ミリの距離でピタリと槍は止まる。
    両手をあげてため息をつく。
    「降参です」
    満足ですか?と聞こうとした俺は、見やったタルタリヤが嬉しそうに笑っているのに、唖然とする。
    まるで子供みたいな顔をする。まだ幼さを感じさせる顔立ちをしているだけに、その破顔は俺にはちょっと眩しかった。
    何がそんなに嬉しかったんだか全く分からない。
    「じゃあ、リオ。拠点に戻っててよ。さっさとこの訓練を終わらせてくるからさ」
    歌うように言って颯爽と消えていったタルタリヤの背を見送る。
    戦闘訓練は、獲物が全て狩られたことにより、早々に終了した。

    俺に妙な感覚を、残したまま。






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