砂漠の魔女が生まれるまで(『竜の瞳の行く末は』外伝) ある晴れた日のこと、シュティーア王国王都の一角に怒声が響き渡った。
「泥棒ー!」
賑わいを切り裂く野太い怒号と、それから逃げるように人混みをかき分ける浪人が一人。腕にはひしゃげた皮の袋が握られていた。浪人の足取りはどことなく頼りない様子であったが、速さといえばさながらハヤブサのよう。怒号を引き離して中央街から離れようとした。
ちょうどその時である。
青みがかった髪を揺らし、女が群衆を追い抜く。膝丈の外套(コート)を翻し、皮帯(ベルト)に差していた杖を引き出して、素早く詠唱した。
「……『水の精霊よ、我に力を――!』」
杖の先に水が集まる。言葉に応え、形を変えた魔力が泥棒の足へと絡みついた。どしゃりと無様にも倒れ伏す泥棒は、はっとして足を振るが、魔術が解けることはなく。薄汚れた革靴を、貧相な下履きをずしりと重くしていた。
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