恋の味はまだ知らないバレンタインデー、というものは。
中学や高校時代には女子たちが妙にそわそわして、無関係であろう男子たちも浮かれたりする行事。
どちらかと言うと江澄も無関係に属する男子だった。
姉からの手作りチョコさえもらえればいい。義理チョコもお返しが面倒だし、本命なんて尚更だ、と素気無く断っているうちに女子から嫌われたらしい。
「嫌われてるのとは違うんだけどなあ」と笑うのは、毎年大量のチョコレートを貰う義兄だ。そのほとんどが義理や友チョコだと言うが果たしてそうだろうか。彼は江澄とは逆で愛想も付き合いもいいから女子人気が高いのも頷ける。羨ましい訳ではない。
そんな、何となく間延びした雰囲気の中。
ピリッと空気が引き締まる瞬間があった。
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