彼女が読んでいた本は「自分を信用させるには、どうしたら良い?」
ずいぶんと尊大な態度で仲間が問いかけてきた。初対面時を思い出させる珍しい姿勢に懐かしさを覚え、手元の本を閉じて、向かい合う。
「……君の得意分野に思えますが」
「そーゆーのいらねって」
「では、どのような意味で?」
「もちろんエロス。それしか無いっしょ」
「なるほど……」
ストレートな物言いに小首をかしげる。ひどく難しい質問だ。
「そうですね……。古今東西、様々な哲学者から市井の人々まで、その伝達方法について頭を悩ませてきましたが」
「リーダーの答えだけが知りたい」
「……まずは、そう、言葉にすること」
「そいつは毎日やってる。でも伝わってる様子がねーの」
そんな不思議なことがあるのだろうか。彼の言葉は森の大地を潤す雨のように、心地よくしみ込んでいくというのに。
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