ちょっとエッチなちょぎにゃん🍜「にゃあ……、山姥切ぃ、いいかにゃ?」
夕餉も終わり、風呂も済ませ就寝まで読書でもするか……と山姥切長義は昼間干しておいたふかふかの座布団に座りページを読み進めていた。一連の殺人事件の犯人を名指しし、今から犯行動機やトリックについて説明しようと読者も主人公もテンションは上り調子なその時、コンコンと控えめに障子を叩く音が耳についた。
「にゃあ……、入るぜ」
こちらの返事を聞かず、控えめなノック音とは異なりスパンッ! と引戸を開いて部屋の主人の許可なく入ってきたのは南泉一文字だった。
「こちらの許可なしに部屋に入ってくるなんてお行儀が悪い猫ちゃんだ」
「お前だってこっちの返事待たずにいつも部屋入ってくるだろ、おあいこだにゃ」
風呂上がりらしく普段はあちらこちら元気よく飛び跳ねた南泉の癖毛も、今は水気を含んでぺたんとしている。仕方なく長義は箪笥から手拭いを取り出して座布団を叩いてここに座れと南泉に促した。その流れを当たり前の顔して受け入れて長義が今から髪を乾かしてくれると疑っていない。その証拠に愛らしい上目遣いでこちらを見つめた後、その猫はにゃあと鳴いた。
「はい、乾いたよ。洗面所できちんと乾かしなよ、いくら暑い時期でも風邪引くよ」
この部屋に来た時はぺたんとしていた髪はふわふわの愛らしさを取り戻し、それを任された長義は今夜も完璧な仕事をしたと満足気だ。ドライヤーのコンセントをくるくると折り畳み言葉こそ嫌味っぽさを出しているが、尻尾があればぶんぶんと上下していることだろう。持てる者こそ与えなければの精神は普段からあるが、恋刀へ向けてのそれは常に感情が天元突破しているのだから。
「おおっ、頭が軽くなった。ありがとにゃ、山姥切」
おまけに四つん這いでこちらに近づいてきた恋刀からの、不意打ちからくる頬へのキスの御褒美付きとくればやり甲斐があるというものだ。
「おや、今夜の猫ちゃんは積極的だね」
「積極的なオレは嫌い、かにゃ?」
こてんと首を傾げて尋ねてくる様はさすが尾張名古屋の無代さま。自分の価値を分かっている。夜伽の場では思ったことを、感じたことをきちんと言葉にするようにと躾け続けた過去の自分を長義は褒めてやりたい気分になった。俺の猫殺しくんはふたりきりではこんなに可愛くて、こんなにえっちな猫ちゃんなのだ。
「にゃあ……、山姥切ぃ、いいかにゃ?」
ちゃんと準備してきたから……。
こんなことを恋刀から言われてNOと返せるパートナーはいるだろうか? いや、いない。
「俺が嫌って言ったらどうするつもりだったのかな」
仕方ないなというわざとらしい顔をしてから体ごと振り向けば、可愛らしくにゃあと鳴いて目を閉じる恋刀。答えが分かりきった会話をする必要はないです、と言わんばかりの気の強さにクラクラした。あまりにも上等すぎる。
始めは軽く唇に触れる程度のキスはほんの少し隙間を見逃さない。舌を捻じ込めば待ってましたとばかりに重ね合わせて、ぴちゃぴちゃという品のない水音が耳に聞こえる。防音仕様の部屋でよかったと思いながら、長義は南泉の首筋を支えていた右手をゆっくりと背骨に沿って腰に這わせた。帯越しの腰を撫でてから小さくて形のよい尻を両手で揉んでみれば、腰を上げてくれる。これを無意識にやってしまうのだから、こちらもつい調子に乗ってあれこれと仕込んでしまうのだと鼻の下が伸びてしまう。
「んぅ……」
なんかくすぐったいにゃあ……なんて色気もへったくれもない声を出して笑っていた猫は今、身体を重ねるたびに色を仕込まれてこんなにえっちな子に育ちました。生産者の気持ちに長義が浸っていると、その育てられた猫の指が寝間着浴衣を掻い潜り股座に伸びてくる。
下着越しにゆるくテントを張った股間をやわやわと触っていたかと思えば、戦場では刀を握る手が陰嚢を手のひらにのせて片手は竿を擦り先端を指の腹でくすぐってくる。たまらず滲んできた先走りで湿ってくる下着をずり下ろして、輪っかを作った指で竿を上下に擦られて声が漏れてしまう。
今までこちらが南泉の身体に仕掛けてきた仕草を、こちらが喜ぶと思い自身がされて気持ちよかった仕草をやってくれるのが堪らなく気持ちを満たしてくれる。
もっと触ってほしいけれど先に進みたくて、一旦南泉に待てをさせてから長義は押し入れの一画に仕舞っている小箱を取り出した。ついでに布団も敷いておいた。恋刀には気持ちよくなってもらいたいのだ、痛い思いをさせたいわけではない。
ここに寝転べと布団をぽんぽんと叩けば、待たされていた南泉はゆっくりとした動きで横になった。乾かした髪が白い波間に浮かんで目に毒だ。この愛らしくも格好良い彼を汚さずにいられないのに、どれだけ経ってもちっとも汚れずただただ愛らしい。恋も愛も先に惚れた方が負けだというなら喜んで敗者になると自負している。
これから与えられる快楽に目を潤ませる南泉の寝間着浴衣の胸元の合わせから手を忍ばせ、期待に膨らんでいる乳首を摘んでくりくりと可愛がってやれば、甘い声を隠さず溢してくれる。
「指いやにゃあ……」
「気持ちよくない?」
「なめてほしい、にゃ」
こんなに可愛くいやらしくおねだりされてしまえば嫌だなんて口が裂けても言えない。着崩れた寝間着浴衣をがばりと開けば見える、摘まれて赤くなった乳首を唇で食んで、歯で甘く噛み、ぷっくりとなったそこをちゅうちゅうと音を立てて吸ってやれば脚を擦り合わせて悶えている。片方だけ可愛がってやるのは可哀想だと手付かずだった左の乳首も同じように甘やかしてやれば、布団を掴んでいた手が自身の股間に伸びて浴衣ごとゆるく上下させていた。
「自分で擦るなんていやらし過ぎるよ、猫殺しくん、かわいい」
「えっちなオレはきらい、かにゃ?」
寝間着浴衣をはだけさせて露わになった太ももの先には下着はなくて、蜜をだらだらと溢しながら長義に見せつけるように竿に右手を這わせながら左手の人差し指の腹で鈴口を刺激して腰を揺らしている。目は早く後ろをいじって、と訴えている。これを据え膳と呼ばずに何を据え膳と呼ぶのか長義は知らない。
「えっちな猫殺しくん、大好きに決まってるだろう!!!!!」
ズルズルズルッ! と長義の目の前では普段より何割増しの漢らしい顔をした山姥切国広が音を立てながらラーメンを啜っている。場所も夜の自室ではなくここは昼間の談話室だ。
「俺が見ていたのはなんだ……夢か?」
白昼夢でも見ていたのだろうか。それにしては手にしっとりと吸い付く南泉の肌の感触はやけにリアルだった。
「ふんっ、気になるなら夜にでも確かめてみればいい。本歌の気持ちが本物なら、その白昼夢のようになるだろう」
分厚く切ったチャーシューに齧り付きながら話す国広に行儀が悪いよ偽物くん、と言いながら立ち上がった長義は自室に向かって歩いて行った。
まずは押入れにあの小箱があるのか確認して、なければ万屋から丁子油を一本取り寄せよう。
──本歌の気持ちが本物なら、その白昼夢のようになるだろう。
まるで見てきたかのようにいう自身の写しの言葉に、なるではなくそうするのだと思いながら廊下をずんずんと歩いて行った。