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    nonkasuneko

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    nonkasuneko

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    おめこ

    「ちょっと待て!」
     尾形は悲鳴じみた叫びをあげた。体を被せようとしていた杉元が、へっと間の抜けた声を出して目を丸くする。鼻梁に皺を刻み、尾形はやめろと言った。
    「やめろって、なんで」
     杉元が明らかに不満げな様子で言った。厚めの唇が、子供のように尖らされている。拒絶された理由が、本当にわからないといった顔だ。ベッドに倒されたまま、尾形は杉元の胸元を押し返した。
    「なんでもクソもあるか!」
    「ラブホ来たのに、しねえの」
    「どういう感覚だ……。電車が止まったから泊るだけだろう」
    「でも、せっかくだしよ」
     杉元がちょっと照れくさそうにへへっと笑う。尾形は鼻梁の皺を深め、このクソが……と呻いた。ラブホに入る時の手慣れた様子から察していたが、この男は相当遊び慣れている。
     だが、気にはしていなかった。遊び慣れているといっても、それは女相手の話だろう。男である自分に、まさか手を出してくるとは思っていなかった。
    「さっさと退け」
     まだ体を被せようとしてくる杉元に向かい、尾形は声を張り上げる。だが、杉元は楽しそうにニヤとしただけだ。まったく響いていない。
    「いいじゃん。怒るなよ」
     杉元の手がゆっくりと耳の形をなぞる。触れるか触れないかの絶妙な力加減で触れられ、尾形はぞわっとした。抵抗しようとしていた腕から、力が抜けてしまう。杉元がへえと声をあげた。
    「耳、敏感だな」
    「うるせえ、クズ」
    「ほら」
     杉元の手が耳から首筋へと動く。皮膚の薄い部分をくすぐられ、尾形はびくっと肩を跳ねさせた。
    「やめ……」
     反応してしまったことが悔しく、尾形は杉元を睨みつける。だが、杉元は平気な顔だ。感度いいなーなどと言いながら、何度も耳から首のラインを撫でてくる。その度にぞわぞわとしてしまい、尾形はきゅっと唇を結んだ。
    「尾形」
     ニッと笑った杉元が、顔を近づけてくる。キスを受けながら尾形は、どうしてこんなクズをと思った。キスされてしまえば逃げられないくらい、杉元を好きな自覚はあった。悔しいけれど、このろくでもない男が好きだった。
     杉元は飲み仲間だ。共通の知人を介して知り合い、最初は殴り合いの喧嘩をして、それからなんだかやたらと仲良くなった。暇があれば二人で飲みに行くし、買い物に付き合うこともしょっちゅうだ。仲は良いと思う。だが、もちろん付き合ってなどいないし、セックスをするような関係でもない。
     尾形は杉元が好きだった。いつからかはわからない。ただ気が付けば、友人以上の感情を抱いていた。だが、叶うはずのない思いだとも思っていた。杉元は明らかにノンケだった。顔がいい分だけモテて、常にと言っていいほど彼女がいる。誰とも長続きしないくせに、女の切れることのない男だった。
     そして尾形にも秘密があった。尾形は両性具有だった。表面的な性的特徴は完全に男性だが、性器だけは両方備えている。簡単に言ってしまえば、ペニスと睾丸もあるが、同時にクリトリスと膣もある。例え付き合うことになったとしても、そんなものを杉元に見せれば、気持ち悪がるだろうと尾形は思っている。
     だから、可能性はゼロだと信じていた。それなのに今、杉元は手を出そうとしてきている。なにを考えての行動かは知らないが、キスをされている。
    「結構、興奮するな」
     ベッドに倒れこんだままの尾形の上に、杉元がのしかかってくる。体重を受け止めながら、尾形は杉元の股間の熱を感じた。重なり合った腰の間で、杉元のペニスが硬くなりはじめていた。
    「おまえっ!」
     尾形は眦を鋭くする。杉元が照れくさそうに笑った。
    「悪い。なんか、すげえ……その気」
    「その気。じゃない」
    「お前だって逃げねえじゃん」
     杉元がまた唇を被せてくる。なんの遠慮もなく舌を入れられて、尾形はんーっと呻いた。それなのに杉元はぺろぺろと口の中を舐めてくる。唇の裏をくすぐられると、背筋をぞくぞくするものが走り抜けた。
    「ん、ん」
     やだという言葉は、杉元の口の中に飲み込まれてしまった。仕方なく杉元の背を叩いて抗議する。だが杉元はやはり平気な様子で、無遠慮に口の中を荒らしてくる。
    「う…」
     腰がぞわっと甘くなり、尾形は鼻を鳴らした。勝手なように感じられるのに、杉元のキスは上手かった。擽るみたいな軽さで上顎を擦られると、背骨がじんとなる。やめろと言って振りほどきたいのに、手からどんどん力が抜けていく。
    「はは、大人しいじゃねえか」
     ようやく唇を離した杉元が、ニヤリと笑う。はあっと震える息を吐き、尾形は杉元を睨みつけた。
    「犬みてぇに、べろべろ舐め…やがって」
     鋭く言い返したかったのに、すっかり息が乱れてしまっていた。気持ちよくなかったか、と杉元が言う。このバカと返しながら尾形は、もう抵抗できない自分を感じていた。
     元々、好きでたまらなかった男だ。明らかに遊びとわかっていても、求められれば体は反応する。ペニスは勃起しないように意識しているが、隠している女の部分は、じゅわっと蜜を溢れさせはじめている。
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