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    20210616 急に出た小ネタ ギャグ 師弟になる二人
    癖なのか自負からか愛抱夢って先導者として振る舞いがちだから師匠業もそつなくこなすだろうな 弟子がランガ以外だった場合

    ##明るい
    ##全年齢

    豪華絢爛カモフラージュ「彼を僕の弟子にする!」
     予測不可能男の突拍子もない宣言からおよそ数ヶ月。初めはもう本当に驚いた。俺だけじゃない。お前突然何言ってんだとそこに居た全員引いてたと思う。特に実也なんかよっぽど衝撃だったらしく毛を逆立たせてキレてたっけ。
    「愛抱夢が弟子ぃ!?そんなの誰にも言ったこと無かったじゃん、じゃなくてランガ!」
    「……あ、うん」
    「どうすんの!?」
    「えっと……」
     更に驚いたのがランガの対応。わかりやすい困り顔にこりゃ愛抱夢のやつ断られるなと誰もが思ったとき、アイツがランガに何か囁いた。すると。
    「俺なるよ。弟子」
     ……理由はさっぱり解らないが、こうしてS屈指の(そもそもそんな制度今まであったのか?)実力派師弟は誕生した。
     絶対ろくな事を考えてない。そんな俺含むおおよその期待を裏切って、愛抱夢はどうやら本気で師匠らしい師匠になろうとしているらしかった。一レース出来ない程度の時間でもほぼ必ずSに顔を出してランガに声をかける。時に大仰な褒め言葉。時に叱咤激励。恐ろしいほど的確なアドバイスも欠かさない。愛抱夢が去ったあとのランガは確実にひとつ上の滑りを見せて、その度に実也がぶすくれた。
    「だからやだったんだ」
     俺も同意。速いこと、上手いことだけがスケートじゃないとはいえあのタッグは、何だ……その、ちょっと反則だろ。たまーに二人で滑ってるところなんて見るのを躊躇するレベル。伸び悩んでるとき目に入れたら間違いなく凹む、あんなの。
     ただあの二人が、あのおかしな戦いをした二人が当たり前に挑戦して失敗して、それでようやく成功して笑い合ってんのとか見るとよっしゃ俺もやってやんぞと思えるし、ムラっけのあるランガから実力以上のものを引き出すのは何だかんだ愛抱夢が一番うまかった。毎週のようにそれを間近で理解させられたら流石に心配する気持ちもなくなる。
     何か知らんがこいつらは良い師弟ってヤツになるかもな。
     そう思った。だから色々それで納得してたところある。二人で練習するのだと先に行ったり居残ったりするランガへ「おー頑張れよ」と手を振る俺。呼び出されたからと平日クレイジーロックに向かうランガに「新技できたら見せろよ!」と興味津々の俺。ちょっと明日一日遠出してくると言うランガを「へー」と特に気にしない俺。
     俺の、俺の。
    「バカヤローッ!!!」
    「何だ急に叫んで。騒々しい」
    「叫ぶわこんなの!一旦その手を離しやがれ!」
    「いいよ」
     軽く離された手。支えがなくなったランガの身体がヘリコプターの外にぐらり。
    「わーっ!?」
    「ランガーッ!?」
     落ちかけた身体をさっと愛抱夢が掬い取った。心臓に悪い。ヘリはもうそれなりに上空へ上がってんのに、フェイントだとしても洒落にならねえ。ランガ見ろ。いつも以上に顔面真っ白だぞ。
    「オマエ何やってんだ……いや」
     今だけの話じゃない。
    「今まで何してやがった!?」
    「……なるほど」
     愛抱夢が笑う。明らかに、鼻で。
    「ようやく気づいたのか」
    「ああ。相変わらず性格悪いのな」
    「君こそ相も変わらず頭が悪い。真実に辿り着くまでかかりすぎだ」
    「ぐ……」
    「まあ気づいていない他のよりかはマシかもね。だが」
     高度を上げるヘリコプターから声が降ってくる。勝ち誇った憎たらしい声。
    「今さら気づいたところで何ができるのかなあ!?」
     マジで許せねえ。コイツも、少しも気づかなかった俺も。
     多分間違いなく、端からコイツらの間には師弟関係なんて存在してなかった。そもそも教える教わるなんてプレーヤー同士ではよくあることだ。それにわざわざ名前を付けて、特別なことみたいにした理由なんて一つ。
    「……二人きりで居られるように……!」
     少しずつ、少しずつ。周囲が不思議に思わなくなるまで慎重に待ち続けて。時間を増やしていった。おそらくこの日のために。
    「外堀埋めてやがったな、愛抱夢!?」
     ジョーとチェリーに連絡してやるとスマホを出した瞬間、狙い打つように悪魔が囁いた。
    「僕だけを責めるの?」
    「はあ!?それって」
    「……ごめん」
     頭を下げるランガの表情は何とも申し訳無さげ。おいまさか。嫌な想像を現実にするかのように、愛抱夢がランガをぐいと引き寄せる。
    「共犯って言えば君にも理解できるかな」
    「ほんとごめん、暦」
    「お、おまえ……」
    「少しだけって頼まれて断れなかった。バレたら終わりにするからって」
    「ランガ、オマエ嫌ならなあ」
    「嫌じゃないよ。楽しかった。でも……」
    「でも?」
    「すぐバレると思ってた」
     それを言われると何も言えない。
    「こっちこそ何かごめんな」
     俺らスケート馬鹿だからさあ。あと俺高校生だろ。弱いんだよそういうの、最強タッグ爆誕みたいな。だから完全に目が曇ってた。
    「降りてくるのは無理でもどうにか説得くらいできねえか?嫌な予感すんだけど」
    「そう?俺はなんだかワクワク――」
    「二人で話さない」
     突如ランガを隠す赤いマント。ばさりと戻れば。
    「消え……!?あ、ちげえ。居るわ」
     奥の席に見える。ホッとした途端、ヘリが更なる上昇を開始した。
    「さあ別れの時間だ」
    「あ、おい!?ちょっと待て!」
    「待ったよ、長いこと」
     宣言からの話はしてねえ。
    「師弟ごっこも楽しかったけどね。君達の間抜け面含めてかなり良かった。録画してあるから今度鑑賞会でもしようか。それじゃ失礼」
     遠くに消えていくヘリを見ながらとりあえず大人達に連絡。アイツらだってこれを知ればきっと正気を取り戻す。ただ帰ってから存分に追及、なんてうまくいくかは解らない。嫌な感じがする。主にランガの、やけに楽しそうだった顔を思い出すと。
     
     後日談をひとつ。嘘がバレた二人は師弟関係を解消した。かわりにそんなのよりよっぽど突拍子もない関係になったと、それだけ言っておく。
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