安眠毛布に恋患い 塞いだ耳の横には不満げな顔。赤くも青くもなっていない、どうやら間に合ったようだ。
「もう少し言葉を選べ愛抱夢。子供には刺激が強すぎる」
「刺激?何故だい、ジョー。僕はありのままを口にしただけだ。彼を抱いて寝るのは」
咄嗟に出した大声は耳を塞がれたままの中学生にも届いたらしく除け者にするなとバシバシ手を叩いてくるが耐える。こんなものの相手など子供にはまだ早い。
「そういう際どいやつは大人だけのとこでだなあ」
「……相変わらずだな。君は何かと勘繰りすぎなんだよ、少しはアレの直情具合を見習えば? もちろん僕は御免だけど」
「あ? まさか」
「そうだよ。抱きしめて寝ているだけ」
何だそれなら、いやそれだって充分まずいとは思うが。
「良く眠れるんだ」
愛抱夢という男は昔から誰相手だろうと隙を、無防備な姿を人前に晒すことをひどく嫌っていた。それが他人を抱いて寝るとは、随分丸くなっ――てはいないか。こう言うべきだな。随分骨抜きにされやがって。
「アイツのぼんやりがお前に移るんじゃねえの。リラックス、つうか」
「言い方はいただけないが、まあね。なんというか彼は毛布に似ている」
仮面を着けた真っ赤な衣装の自分ほどではないが筋肉を備えた、キテレツな行動と言動さえ控えればおそらくS以外でも引く手あまただろう男が出す言葉にしてはまたかわいらしいと言うか、純と言うか。
「そんな目で見ないでくれるか。本当に似ているんだ」
「良いって、良いって。で? 何色?」
深く溜め息を吐くと愛抱夢は一息に毛布の特徴を告げた。いやに具体的なそれは、つまり。
「子供の頃気に入っていた物だ。何故かは分からないが彼はそれによく似た触り心地をしていて、他にも……」
「あーもう良い。分かった」
何だか脱力してしまった。この男はまだそんな地点に居るらしい。もっと恋をしておけ、そして自分の感情くらい理解できるようになっとけ。
「人間と毛布の感触が同じなわけあるか」
「だから僕も悩んでいるんだ」
子供時分の思い出と重ねられるくらい好きで大事で安心するってことだろ。まったくこれだから初恋は。