やすらかに怨んでろ 愛されたかった。だから殺した。
ペン先で喉元を突き刺せばきゅうきゅうと何とも可愛い子ぶった声を出す、それが嫌で何度も刺した。やがて何も聞こえなくなったとき体はじっとりと疲れて鉛のように重く、けれど倒れることすら面倒だったので阿呆のように突っ立ちながらただひとつ鮮明な手の中の感覚を辿っていた。
気分は最悪だった。それでも殺さなければいけなかった。
今日も殺す。遮断機が閉まる寸前その身体を線路へ突き飛ばした。何故こんなことをするのかと顔が問いかける。愚問だった。彼のためだ。彼を愛するためにはどうしても殺す必要があった。そんな簡単なことも分からないのならやはり生かしてはおけない。
カンカンカンカン。
車両に引きずられ車輪に巻き込まれこうしてまた一人死ぬ。これで良い。
カンカンカンカン。
目の前をかする風が鬱陶しくてつい目を閉じた。再び開けばその前よりやや白い視界、最後尾車が視界の端へ去っていき見渡せるようになった踏み切りの向こう側。彼が立っていた。
こちらに気付くと片手を胸まであげ、ひらり。この一動作がどれほど貴重なものか知る者は僅かだろう。少なくとも遮断機が上がった瞬間勝手に足が踏み出してしまうほど己には。
ぐにゃりと踏みつけられた死体は何か言いたげな瞳をこちらへ向ける。
――置いていくのか。
そうだ、置いていく。
――何がいけない。
何がってことはない。ただ彼にはきっと分からないさ。
――許されないのか?間違っているか?ならどうして生んだ、どうして……
それは僕の本性がどうしようもなくそちら側だからだよ。さようなら。僕はもう行かなくては。急がなければ彼の方から来てしまう。
「待って。いま、そちらへ行くから――」
線路を越え彼の元へ。後ろから恨めしげな視線がひとつ、ふたつ。何十、何百。どうしてお前だけがそちらへ行けるのだと責める顔は皆同じだ。
僕が殺したあまたの僕よ、歪で哀しくひとりよがりな愛達よ。お前達を無かったことにする僕をどうか許すな。それでも僕は彼に愛されたかったんだ。