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    20210919 ワンドロお題「本」お借りして パロとも呼びにくい悪趣味原作破壊話 暴力(二人は全然無傷!)
    あんまり載ってる本なくてすすめにくいけど可愛くって素敵で好き好き童話です!でも好きなのにこんなことするの、よくわかりませんね

    ##暗い
    ##全年齢

    近頃のおひめさまは王子様なんか要らない 昔々あるところにとても明るく幸福でぜ……善良な、可愛い兄弟……兄弟?「兄弟」承知しました昔々あるところにとても可愛い兄弟が居りました。彼らが住まうのは街から遠く離れたそれはもう小さなお家。けれど二人は幸せでした。母親は優しく森はあたたかく、そして互いにたった一人の兄弟のことを心から愛していたからです。
     小さなお家の前にはこれまた小さなお庭があり、そこには二本の薔薇の木がありました。一本は赤。もう一本は白。この美しい薔薇にそれぞれとてもよく似た兄弟達、彼らの名前は……
    「べにばら、どこへ行くの」
    「良いところだよ。しらゆき」
     小さな手を握り走る。森の奥広がるマルベリーを見せれば空を映す瞳が星のようにきらめいた。予想通りの好反応だ。
    「すごい」
    「摘んでかあさまに持ち帰るのもいいけれど、どうだろう。少しくらい食べてみたくない?」
     こくこくと頷く食欲旺盛な弟、その名にふさわしく常に白くある頬にもほんのりと赤みがさしている。
     指先と口まわりを濃紫で汚しながら健気に果実を頬張る弟の周囲には、いつのまにやら野兎小鹿、小鳥に栗鼠。わらわらと集まる小動物達を一応は警戒するものの、そんな必要がないとも知っていた。何故だか森はどれだけ深く入っても暗く寂しくなることもなければ獰猛な獣も居ない。かあさまなら子供達が祝福されているのだと喜ぶことだろう。
    「はい」
     目の前に突き出された果実をぽかんと見ていれば「食べないの」と弟の顔が傾いた。
    「ありがとう」
     手ずから食べさせられた果実を奥歯で潰す。口いっぱいに毒々しい甘味が広がった。
     お返しに食べさせ、足りなくなればまた摘み、そうして過ごせば日など一瞬で沈んでしまうものだ。
     今夜はここで眠ろうか。提案を弟は拒否しなかった。二人で野宿なんて珍しいことでも何でもない。回数はこなしている。眠りやすい石、明け方湿りにくい苔。目を閉じていたって選べるほど。
    「しらゆき。楽しかった?」
    「おいしかった。連れてきてくれてありがとう」
    「お礼なんていいよ。僕がしらゆきを連れてきたかっただけだから。だって僕らは、ね?」
    「うん。俺とべにばらは、そばに居なきゃダメ」
    「良く出来ました」
     何度も言い聞かせた言葉は弟の口にしっかりと馴染んで踊る。きっとその心の中へも、充分染み渡っているに違いない。
    「そう。生きている限り僕としらゆきは一緒。ずっと、ずうっと」
     それから二人は朝を迎え冬を迎え不思議な熊と出会い共に日々を過ごしそうかと思いきや春になった途端「宝石を守る」と言い出した熊と涙の別れを越えその後やかましい小人に出会って助けしかし逆恨みされを三度繰り返し終いには小人が宝石の山を広げている場面を目撃するなど、とにかく色々ありましたが諸事情によりこれら全て割愛しなければなりません。
     しらゆきが熊にとても懐いていたこと。兄弟の度々のやんちゃぶりに熊が「お前達の婚約者を殺す気か」と叫んでいたこと。それらにべにばらが限界寸前だったことなど踏まえてラストシーン、呪いをかけた悪い魔法使いの小人が死に熊の姿から解放された王子が二人に結婚を申し込む、それはそれは素敵なハッピーエンドからどうぞ。
    「今小人はふさわしい罰を受けました。これもあなた達のおかげです。どうかお礼を……」
     まったく、なんということだろう。こうなる事を知っていたならあの母親役につかせている誰かしらを無理にでも止めていた。信心深く心優しい情操教育に良さそうな人間を選んだのが仇となったわけだ。
     己の苦難続きの半生を話すのに夢中の文字通り変態男は戸惑う弟を気にも留めもしない。その癖距離は近いのだから虫酸が走る。
     語りに合わせ動く手が弟に触れかけたところで耐えられなくなった。
     それは先程小人をはたき二度と目覚めることなくさせた手、人殺しの手だ。愛しい白薔薇。真冬の新雪。果てなき白へ仮にその手が触れ穢れた赤を一滴でも垂らそうものならば。
     散らばる宝石を避け地面を進み、隙を狙って小さな身体を引き寄せる。見上げてくる両の目は救いを求めていた。弟の感情の揺らぎは些細で、きっと他の人間には分かるわけもない。だが僕には分かる、僕にだけは。
     世俗に疎く善なる心を持ち、そして流され癖がある可愛い弟。放っておけばあれに望まれるまま持ち帰られかねない。それを黙って見ておくのは癪なので少々意地の悪い真似をすることに決めた。
    「べにばら」
    「心配要らないよしらゆき。僕に任せて君は先に家へ。ああ、けれど帰ってもかあさまにはまだこの事を話さないで」
    「わかった。でもどうして?」
    「街で詐欺師が出たと噂に聞いた。もしかすると今目の前で起きたこと全て仕込みかもしれない。彼らは」
    「くまさんは良い人だよ」
    「そう、そうだね。もちろん君の言うとおりだ。けれど僕は君を守らなきゃいけないからこんな小さな可能性も無視できない。僕を安心させるためと思って、どうか」
    「……俺達は」
    「いつも一緒。大丈夫、忘れていない。確認を済ませたら僕もすぐ帰るから、さあ」
     さっさとお帰り、と背中を押してやれば数度振り返ったのち弟は走り出した。小さくなる後ろ姿を示し合わせたように木の葉が覆い隠す。きっと誰にも見つかることなく無事家へ帰るだろう。
     後は簡単だ。
    「……なので是非私の城へ、そしてゆくゆくは……」
     まだ話し終えていなかった王子は、少し見せたい場所があると言えば簡単についてきた。しらゆきは私あなたには弟が良いんじゃないかと真面目に語る様子では未だ熊の意識が消えていないらしい。知性も警戒心もまるで足りていない、自分が強者だと勘違いした愚か者。
    「どうしました王子さま。阿呆のように目を丸くして」
     だからこの程度の罠に引っ掛かるのだ。
     実際罠と呼べる完成度ですらない。ただ不安定な箇所を狙って歩いただけ。濡れて柔らかい土が侵入者の足をそっと取り一度落ちれば容易には這い上がれない穴へ落とすだろうそこを選んだだけなので、これはあくまで偶然だった。
    「そんなに叫ばずとも今助けます。ところで王子さま、先程のお礼について……」
     手の届かない距離に蔓を垂らせば面白い、蛙のように跳び跳ね鼻息荒くわめちきらす。
     あなた達を迎え入れる。宝石も分ける。城に住まわせてやってもかまわない。
    「素敵な話だ。ですがどうでしょう。もう少し、ほんの少し手を加えるだけでもっと素晴らしい終わりを迎えられる。そうは思いませんか」
     分けなくて良い。居候として肩身の狭い思いをせずとも。
     あの子を他の誰かに渡すなんてしなくたって、ハッピーエンドは手に入る。
     また偶然どこからか転がってきた枯れ木は作業に最適の太さだった。土を掛けるにも埋めるにも、落として当てても良い。代わりは潤沢。何本使うことになっても大丈夫だ。
     まだ理解していないのか王子は叫ぶのを止めない。何をするべにばら、助けてくれしらゆき。
    「あの子なら居ませんよ。こんなところ見せたら可哀想ではありませんか?」
     そんな事も分からないなんて、やはりもう王子に人の心は残っていないらしい。泥土まみれの姿ははかつての獣を彷彿とさせる。熊のまま在れば良かったものを。冗談ならば冗談で済ませてやれたのに。
     たったひとつ、これに哀れな部分があるとするならば、変な小人と出会ったのが僕の弟だった事だろう。あの報われるつもりなどないからこそどんな相手だろうと平気で助けようとする子供が真に偶然関わってしまったから、これは要らない希望を掴み、物語は終わりを迎え、そして僕は面倒な後処理を請け負うことになった。
    「まあ運が悪かったと思ってお互い諦めて……おや、何か近づいてくる。先程話に出た弟さんですか?それは丁度良い」
     だが終わり良ければ全て良し。
     こうして僕は無事、王子さまから助けたお礼を頂くことに成功した。成果は上々だ。あの子の瞳に敵いはしないが輝き放つ宝石全て。三人暮らしには不便なほど大きくそびえる城ひとつ。動かない心臓ふたつ。
    「……と」
     思えばまだ片方動いている。何故。小人にふさわしい罰を与えておいて自分が受けるのは嫌なのか。不思議に感じつつ念入りに上から押した。
     人殺しの手であの子に触れようとした罰だ。
     あの子を連れて行こうと考えた罰だ。
     自分のものに出来ると勘違いした罰だ。
    「あれは、僕の……」
     声に出さずとも良いだろう。聞かせる相手は居なくなった。たった今。


    「しらゆき、しらゆき」
    「……べにばら。べにばらなの?」
     とっぷり日が暮れ、辺りが真っ暗になった頃。べにばらは小さなお家へ帰ってきました。
     あわててかんぬきを外したしらゆきが戸を開けると、そこには愛する兄のべにばらが立っています。実のところ彼ら兄弟がここまで長い時間離ればなれだったことはありませんでした。ある日突然しらゆきが、兄を名乗るべにばらに連れ出されてから一度もです。それだけに随分寂しい想いをしたしらゆきは、思わずべにばらを抱きしめその名を呼びました。これにはべにばらも大喜び。素敵な財宝だけでなく本当に欲しかったものまで手に入ったと…………そういうわけなので今すぐ幕を下ろせと言われても大分話が変わってしまったので修正を、……はい……分かりました……
     こうして彼らは幸せに暮らしましたとさ。おしまい。教訓は何にしますか。求婚する際は周囲を良く見てから。なるほど……。
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