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    20211005 チル巻末ネタバレ 『も』
    チルが存在しなければうまれなかった奇跡がある ありがとうチル 大好き 新作でもよろしく

    ##明るい
    ##全年齢

    小さいあなたもラブコール 自分が居る。
     あと暦も居る。もっと言えば皆居る。作業台の上、空中、そして暦の腕やら背中によく知る顔ぶれが勢揃いだ。
     ぱたぱたと行き交う足音もしくは走行音。それらを追えば必ず見られるちんまりとした背中は、目を擦っても瞑っても消えてくれない。作戦会議に熱中するあまり暦と自分が見た幻覚ではないようだ。もしそうならこんな勢いで動き回らないし、作業台へ花を散らさないはずだから。
     なので認めるしかないだろう。顔も衣装も滑るときの姿勢も同じ彼らは自分達のような何かであるらしいことを。あやふやだ。けれど仕方ない。こんな生き物は生まれて初めて見る。
     手足は指の幅半分、身体だって手のひらできゅっとくるめそう――どう見ても人で自分なのに、彼らはあり得ないほど小さかった。
     ホラーはともかくこういう不思議な事態への耐性は、実は自分より暦の方があったらしい。片腕に乗せた自分と早くも仲良くなったようでさかんにコミュニケーションをとっている。
     お前もしてみろよ。気軽な声にならって、小さな自分へと軽く指先を近づけてみたが。微動だにしない。
     おそるおそる指でつまんでみる。抵抗ひとつ見せない。持ち上げる。すんなり宙へ。
    その間もやっぱり反応は無し。
    「俺、こんな感じ?」
     大きく頷いた暦が「おまえはそんな感じ」とはっきり告げた。少しだけもやつく。パンやホットスナックならともかく、少なくとも自分は滑りながらラーメンを食べたことはない。
    「……ん?」
     見れば、小さな自分に近づくこれまた小さな仲間がひとり。身体のまわりには彼のトレードマークであるハートが、何故か本当にふよふよと浮かんでいる。一体どういう仕組みだろう。
     小さな愛抱夢は、つり上げた小さな自分のすぐそばまで来たかと思うと突如その周囲を旋回し始めた。よくみれば形になっている。小さくとも愛抱夢は愛抱夢。丁寧な動きは変わらないようだ。
     しかし小さな自分ときたら、周囲に描かれていくハートを気づかない様子で麺を啜るばかり。
     旋回をやめて更に近づく小さな愛抱夢。見えないかのように食に没頭する小さな自分。触れないギリギリのところまで寄る小さな愛抱夢。麺を箸でとる小さな自分。
     足が離れたせいで遠ざかりかけていたボードを回収し、小さな自分の足下へ配置する小さな愛抱夢。さて対する小さな自分は――どんぶりを傾けこくんこくんと喉を鳴らしたかと思うと顔をあげ、ぷはあ。
     やってる場合か。声に出すかわりに、腹をさすり満足そうなそれをボードへ降ろす。そして軽く進むように押した。
     小さいからかな。皆いつもより可愛く見えて、要らないお節介をしてしまいたくなる。
     どんぶりと箸をどこかへしまう小さな自分を小さな愛抱夢が受け止めた。なんだか満足そうなのでやはり、彼の目的は小さな自分だったらしい。理由はいまいちわからないけれど。
     小さな自分を真っ直ぐ立たせるとこちらもどこに隠し持っていたのか、小さな愛抱夢がさっと花束を取り出す。いつものとよく似た赤をまず小さな自分はただ見つめ、それからしばらくして頭を軽く下げた。そうしてなんでもないように受けとる、一連の流れを眺めていた脳がぴかんとひらめき、そしてくらりと。
     感情の感じられない目を花束に向ける小さな自分。その頭のなかは家にある空いた花瓶の数を思い出すのでおそらくいっぱいだ。自然とわかってしまう。なぜなら今のあれは、リアクションから何から何まで全く先日の自分と同じだったから。
     改めて実感した。そしてほんのりこわくなった。
     これは確かに自分だ。思考も仕草も真似ているのではなくただ同じものがもうひとつ小さなサイズで存在している。
     それならばもしかして――彼も。
     考えるのに夢中の小さな自分がわずかも気にしていない花束の向こう側。その頬を斜線が入るほど小さな愛抱夢は染めどこからかぽんぽんとハートを出し続けている。わかりやすく表された感情表現は、嬉しそうだと解釈しても、きっと何の問題もない。
     花束を小さな自分に受け取られること。それは小さな愛抱夢にとって、とても嬉しいことに違いなかった。
    「…………」
     大きな、本物の愛抱夢もそうなのだろうか。
     小さな彼らと大きな自分達が同じものを抱いているなら。彼もこんなふうに自分を見ていたのかもしれない。ふとそう思った。そして今まで小さな彼が小さな自分へそうしていたように彼もしたいのでは、と。
     しかしそう考えるとこの小さな自分、驚くほど何も気づかないこれと同じことを自分自身もしていることになる。そうだろうか。それらしい行動を愛抱夢からとられた記憶は全然無いのだけれど。
     まあいい。今度本人に会ったときにでも直接訊いてみよう。
     気づくと花束はどこかへとしまわれていた。ただ向かい合う小さな自分達。次に何をするかと見ていた、その結果にひどく脱力する。
     小さな自分はてしてしと仮の地面こと作業台を蹴り、遥か彼方へ。
     普段の自分もこんな感じだったり、いやそれは流石にない。誘うくらいはするし。多分。
     心のなかで意味なく言い訳しつつちらりと残された方を見れば、さぞがっかりしているかと思いきやむしろそれを待っていたとでも言うように小さな愛抱夢は跳び跳ねていた。サイズに似合わない力強さで自分を追う彼の後ろ、ちらほら続くハートの群れを指先でつつきながら思う。これくらいあの人もわかりやすかったらいいのだけれど。
     それとも自分に見えないだけで、とっくに出されていたりして。まさかなあ。
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