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    20211102 縁結びの日 一/人 相思相愛罰当たりラブ

    ##微妙
    ##全年齢

    揃いのひと欠け 手を横へ振れば踊り、振るのを止めれば眠ったかのように動かなくなる。自分の動きに添う赤い線もとい紐のような何かは伸び縮みもする聞き分けの良さだがしかし振り回そうが引っ張ろうが小指の付け根から離れる事だけは決して受け入れない。ただ一度くるりと巻かれ軽く結ばれただけに見えるそれが何故これ程しぶといのか不思議だ。 
     数日前のあるときから突如小指で主張し続けている赤は、自分以外誰にも触れられないどころか視認さえ出来ないらしい。しかし自分の目はそれをハッキリ捉えられているし、何であれば目薬などすすめてくれる皆の小指にも同じように括りつけられているのを確認済みだったり。
    「今も見えている?」
    「うん。俺にも、愛抱夢の小指にも見えるよ」
     器用に一本だけ回される小指の付け根でくるくると描かれる螺旋。手から離れるにつれ緩やかに落ち着いていくそれが最終床に寝そべるまでを指でなぞり示す。
    「そこからは?」
    「見えない」
    「消えてしまった?それとも見えない事にしたい?」
    「どっちも違う。ただ……分からないだけ」
     床には愛抱夢の指から伸びている線らしき物が見える。だがその赤色は上下左右から伸びた全く同じ色、大量の赤に埋もれていた。
     大抵の線はとにかく長い。小指が操作出来ない何処かしらへ続く部分には果てがなく、しかも各々ぴんと伸びるだとかずるずる地を這うだとか勝手するから折り重なった彼らで床は埋まっていた。自分のも同じだ。小指から辿り下を見れば、先の見えない赤い一本道がより深く赤い海に呑みこまれている。
    「成程」
     愛抱夢が見せつけるように手を振った。追う赤はもったりとした曲線を生む。彼の線は余程長いのだろう。
    「それじゃあ僕のこれが誰と繋がっているのか確かめられはしなそうだな。知っている?運命の――」
    「赤い糸?」
    「そう。素敵だろう」
     皆に散々言われたから一応調べておいたそれは愛や運命といかにも目の前の男が好きそうな話で、当初嫌いではないなあくらいだった気持ちは今や大分嫌い寄り。視界でちらつく赤には正直うんざり、素敵だなんて思えない。
    「……なにしてるの」
    「たぐませている」
     豪快に動かされる手。インターネットに載っていなかった大胆な方法は何と半分成功しており実際その周辺には彼の赤い糸が回収されつつある。けれどいくら集まろうが糸の先は見えず、攣れてこないかと尋ねられた小指は何とも無かった。
    「そう」
     動かすのを止めた愛抱夢が小指を見つめて呟く。
    「君かと思ったのに」
     実は自分もそう思っていた――言うのは変な気がしたから呟き返すのは心の中だけで。けれど本当に一度は、少なくとも彼に今日出会いその長い長い線を見るまでは、ちょっと考えていたのだ。彼の方はそうなんじゃないかって。今思うと自分の線が辿れなかった時点でそんな訳は無いのだがうっかり思い込んでしまった。
     線が見えだした切っ掛けがまた良くなかったのだろう。
     だって思わないじゃないか。自覚を持った瞬間に目で見える形で否定されるなんて。本当に神が居るのなら意地が悪いし、そうでないなら初心者への洗礼にしては厳しすぎる。
     小指に括られたそれは何をしたって消せない証明だった。運命の相手。再三呼ばれていた言葉が神様に認められなかった簡単な証明。
    「俺じゃなかったね」
     こんな事言うべきでは無かったな。肯定も否定も何となく嫌だ。 
     俯きかけた顔が、促され戻る。床に走る無尽の運命から自身へと目を向けさせた男は「いいや」と。
    「苦悩する君は愛おしい、その理由も。……だがこんな事で僕の愛を疑われては堪らないな」
     ぴ、と何処からか取り出されたのは。
    「……ハサミ?」
     場違いな刃物の登場理由を説明するわけでもなく愛抱夢はハサミを動かす。しょきんしょきんと手入れされた物特有の良い音が響いた。何でも切れそうだ。
    「どうぞ」
    「あ、どうも……」
     持ち手側から受けとれば「どうぞ」と愛抱夢はもう一度言い、こちらへ手を差し出した。 
     骨っぽい指にやや太い付け根。そこからだらりと下がる赤い糸。
    「切って」
     理解しがたかった。切れるかどうかは分からないけれど、切れるか試してすらいけない事は分かる。だって運命なのだろう。一生に一人かもしれない。
    「そうだね。だから切って」
    「……いや……」
    「切り終えたら交代しよう」
     持たされたハサミへ触れてくる手は催促のように思えた。切れ。そして。
    「君のも切ってあげる」
     見えず触れない筈のそれを切ると言ってのけた声は温く、結び方はどうしようかと尋ねる顔は穏やかだ。こちらが拒否する可能性なんて愛抱夢は微塵も感じていないらしい。 
     ハサミにあたる糸は細くて儚くて、だからこそ多分大切にしなければいけないものだった。これを彼に捨てさせるのも自分が捨てるのもなかなか勇気と覚悟が要るのだけれど。
    「痛かったらごめん」
    「いいよ。忘れられないくらい痛くして」
     まあ仕方ないか。見つけてしまった、出会ってしまった以上。これも何かの縁という事で。
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