青にひたっている 違うよと水色の兄ちゃんが言う。
「えー、何で?」
正直がっかりだ。こっちが水色であっちが青だからそうだったら丁度いいと思ったのに。
「何で……?いや理由とかはないけど……」
「じゃあなってよ」
ええ、と身体ごと傾いて兄ちゃんは困ったように眉を下げた。
こっちの薄いのはあっちの濃いのと違って俺らをかわすのが下手だ。だからあの二人のところ行こうぜと決まっても俺らと遊ぶのはもっぱらあっちの方。こっちが嫌いってわけじゃない。ただ俺らは遊ぶってより遊んでもらいたかったりして、そうなるとこっちじゃ無いなってなる。なんだろうなあ。水色の兄ちゃんは大人なはずなのにたまに同い年くらいに見える時があるから。
良い考えだと思うんだけど。青い方は今日も波打ち際で友達をぶん回してる。面倒見が良いって大人も言ってるそれ以上に、青いのはこの兄ちゃんに優しい。もしなったらきっともっと優しくなるはずだ。
言うと水色の兄ちゃんはますます困ってしまったらしかった。向こうにある海みたいな色をした目が少しくもる。
「そう言われてもなりたいと思ったこと無いし、思わないかな」
「思ってよ。そんでアイツにケーキねだって。俺らは一個ずつでいいから」
「やだ」
ほら。こういうところだよ。
「いいじゃんか。何だよ兄ちゃん、優しくされたくないの?」
「それはされたら嬉しいけど」
「じゃあさあ」
「でもいい。あの人はずっと優しいから。俺はもう沢山嬉しくしてもらってるし、これからも多分嬉しいままだ」
兄ちゃんがゆっくり手を振る。向こうに居るなかで一人だけ大きな身体がぶんぶん振り返した。時々飛んでくる視線とか言葉なんかをいちいち返して返されて、それだけのことをどうしてこんなに楽しそうに出来るのか俺にはわからない。
友達から離れてこっちへ来る青いのを兄ちゃんはまばたきしてないんじゃってくらいじっと見てた。いつの間にか目の色が晴れの海に戻ってる。大人なのに子供っぽい、よくわかんない目。向こうから来るのと同じ。
「そろそろちゃんと返したいし、むしろ俺が兄になる。どう?」
「兄ちゃんみたいな兄貴はいやだな……」
返事が来ない。言いすぎたかなと兄ちゃんを見る。「あっしまった」って顔と目が合った。
「ごめん。というか今思い出したんだけどそういうの駄目なんだ」
「はあ!?何で何で」
「俺達がなるものはもう決まってるから。だよね?」
いきなりふるなよ兄ちゃん。青い方がビックリしてるぞ。