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    2022113 シンプルに監禁 暴力と行為の匂わせ

    ##暗い
    ##全年齢

    されど眠りは間近 目覚めてまず足を動かす。爪先。足首。膝下に腿。ゆっくりと時間を掛けそれらに異常の無いことを確認してようやく深く呼吸が出来る。これが壊れていたならきっと全部どうでもよくなってしまうだろう。今朝はまだ壊れていない。だから大丈夫。望みは捨てなくて良い。
      腕をつき起き上がれば身体のあちこちがいびつに鳴く。昨日はどうも機嫌が悪くていけなかった。ああいうときの男は危険だ。粗暴では無いが加減は消え去り思うがままこちらを食らう。最悪文字通り。辛うじて昨夜はそこまで行かなかった筈だが身体にかけられた毛布、これをめくった先にある己の肌を直視する気にはなれない。
     吐いた息にはノイズが混じっていた。口のなかもからから。テーブルに置かれた水差しとコップは昨夜置いたものだろうがこの際構わない、喉を潤せればそれで。
     毛布を巻き付けたまま移動しようという考えは甘かったらしい。躓いた身体を立て直すのも面倒で床に座る。冷たくなくていいなと思った。いつもの小さな部屋は床が冷たく靴など縁遠くなった足裏に少々堪える。使う筈の無かった部屋なんだそうだ。ならここは使う部屋か。広く暖かい室内には大きなベッド。扉だって。
    「……!」
     聞き間違いではなかった。再びこんこんと外側から誰かが扉を叩く。よく片付けられた部屋だ、逃げ場など見つからない。慌てた末に頭から毛布を被り丸くなった数秒後扉の開く音が確かに聞こえた。
     足音はおそらく一人分。場所を探りたいが己の心臓の音が邪魔でよく聞こえない。もしすぐ近くに居たらどうしよう。ここに自分が居ることを気付かれたなら。この身体に残る痕を見られたなら。
     想像してぞわりと震える身体へまとわりつく空気。その理由を悟り息を詰めた。毛布が一部何かにつままれているかのように浮いている。恐ろしさに身こそ固まれど脈打つ心臓は止まってくれない。お願い、お願いだから止まって。こんなにうるさくては毛布越しだろうと聞かれてしまう。
     願う意味など無かった。みるみる毛布が剥がされ――。
    「おはよう」
    「…………」
    「ふふ。驚いた?」
     起こされた身体を片腕に抱き留められる。そのままこちらの背を擦り男は呟いた。
    「怖かったね」
     怖い。怖いかもしれない。彼で良かったと一瞬でも思ったことがとても。
    「ベッドに戻ろうか」
    「あ、いや……」
     その前に水を、と言うつもりだった口になめらかな指先が触れる。
    「いや?」
     男は笑っていた。けれどその目は、どろどろに熱された赤色には正の感情など存在しない。あてられたように身体の内でちりちりと何かが燃え出す。呼吸が浅くなったのも男の指を異様なほど冷たく感じるのもきっとそのせいだ。早く冷まさないと。唇を開き嫌ではないと言わなければ。
     焦ったのが良くなかったようで声は言葉にならず、代わって短く咳に似たものが喉から漏れた。おや、と男は呟き指先で唇の表面をなぞる。乾いた唇を爪が掻いたなら背を走る、焦燥ともくすぐったさともつかない感覚。
     喉が乾いたか。問いかけにこちらが小さく頷くと男はテーブルから水差しのみを取り再び尋ねた。
    「どちらが良い?」
     その手が傾けた水差しのなかで透明な液体が波打っている。あと少し角度を付けられたなら液体は水差しより溢れ瞬く間に絨毯を濡らすだろう。そしてその前にこの身を。
    「そのまま飲むか。僕にお願いして飲ませてもらうか」
    「……どっちも同じだ」
    「かもね。で、どっち?」
     黙っていれば水差しが床へと置かれた。ゆっくり決めて良いのだと囁き男はこちらの片足を取る。幾分か暖かく感じる手が表面を滑りやがて足首を掴んだ。
    「飲み終えたら付けてあげる」
     男にとってそうすることは余程楽しいらしい。一方自分は、男の手で足首に嵌められる冷たい金属を思い出すだけで気分が重くなる。
     足首を擦る手がふいに止まり男がこちらを見た。
    「また増やしたの?」
     足首に散る細かな傷跡らにはまだ新しいものも多く触れられればごく僅かだが痛む。男の気まぐれで、あるいはこうして衣服を奪われた状態でのみ外される枷は自分の力ではどうしようとも取れはしない。頭では無駄だと理解している。だがもう殆ど癖のようなもので日毎外そうと試しては傷を作っていた。
    「喜ばしくないな。君に汚れは要らない」
     昨夜の名残の傷だらけである自分を視界に捉えたうえで真面目な顔をし男は唱える。昨夜何故この身が傷付いたか忘れているのだろうか。
    「まさか」
    「要らないのに付けたのか」
    「すぐ消えるさ。痕も残らない。君も知っての通り僕はそういうことが上手いんだ」
     足首からするすると手は下り足裏へ添う。
    「もう痛まないだろう?」
     丁寧になぞられた箇所には覚えがあった。
     ここへ連れて来られて数日も経たない頃目を逸らせないよう固定されたうえで足裏を切られた。ごく薄くその場で手当てもされたがしばらくは歩くだけでも痛み、なにより目の前でじっくりと己を脅かされる恐怖に心は隅々まで侵された。絶え間なく続けていた抵抗を止めて、与えられた部屋で踞り眠れるまで。
    「……けれど君が愚かにも望みを捨てないなら」
     足裏の痛みはいつの間にか無くなり違和感も去った。一体この扉の向こうでは何日経過しているのだろうか。知らせないまま男はまた足を撫でる。
    「もう一度僕が傷を付けようか。今度は深く。治ることも無いように」
     冗談ではないことを声音が伝えていた。わかった、もう増やさない、と返せば利口だと褒めるかのように爪先へ口づけが落とされる。この場を切り抜けるための嘘でないことなど簡単に気付かれてしまったようだ。嘘であればこんなにも震えない。言ってしまったと隠せない程の苦痛を感じることも無いのだから。
     足は男の手の中にある。まだ壊れてはいない。だから大丈夫。望みは捨てない。捨てていない。その筈だ。まだ。
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