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    20220401 エイプリルフールだ!
    この二人で本当にあっさり全部の問題が解決して戸惑ううちに片方が泣き出して何で泣くんだよって言いながらもう片方も泣いちゃうやつ見たすぎ やったー!言って二人で爆走するのも見たすぎ

    ##微妙
    ##全年齢

    嘘にひそんで生きていく 四月一日である。一年で唯一嘘吐きが容認される日である。ので。
    「忘れたんだけど、俺と愛抱夢って何なんだっけ」
    「運命の恋人♡」
     こんな嘘だって許されるのである。
    「ここは?」
    「僕の寝室」
    「愛抱夢の寝室にどうして俺が?」
    「いやだな。君から求めたんじゃないか」
     嬉々として招いたのはこちらだが今日が終わるまでの数時間二人きりで過ごしたいと求めたのはあくまでランガの方だ。つい先程まで今と同じくベッドの上で胡坐をかき他愛ない会話を楽しんでいた。急な連絡が入り会話を中断してしばらく放置したのは悪かったがそこまでつむじを曲げなくともよいだろう。
     スマートフォン片手に告げれば「なるほど」とランガは語尾を伸ばして暢気に返し両腕をベッドへついた。ずりずりとさほど空いていなかった距離を詰めてくる。仕上げとばかりに足が閉じれば左肩にゆるい重み。
     二人の間から抜け出した手は丸く切られた爪の淵で甲をなぞり、愛抱夢、薄い唇は名を呼んだ。自身で付けた名だ。大事に愛してきたつもりだがそれでも彼に呼ばれる度敵わないと思う。
    「なんだい?」
     答えずにランガはまた数度こちらを呼び、その間に甲から離した手をするりと内側へ。押し付けるように手のひらが合わさり指が絡む。
     自然に擦れていた半身が意図をもってすり寄ってくるようになるまでそう時間は掛からなかった。
     愛抱夢。
     呼ぶ呼気には互いの体温が混じっている。錯覚だろう。切り捨てながらも奪われ与えたことを喜ばしく思ったそのときランガが微笑み。
    「愛抱夢。俺の好きな人」
     いっとう優しい声に見つけられるように呼ばれたなら今度はこちらがなるほどと思う番だった。
    「君、恋人にはこうしたいんだ?」
    「わからない。でも愛抱夢はこうされるの好きだろ」
    「お見通しか」
    「恋人だから。ふふ」
     一層身を寄せてくるものだからふわふわと髪が幾度も頬を撫でる。我慢しきれず顔だけ横へ向け擦り付けるふりをするとランガは驚いたのか目をやや開いたのち口角をきゅっと上げた。眠気をはらんだ瞳が瞬くのに応え揃いの香りを纏わせた髪へ顔をうずめる。軽くキスの真似事をすれば幼子のような笑い声があがり、こめかみに唇を落とした後耳を食めば一際明るい笑い声と共にランガの身体が折り曲がった。
     見せつけるようになったうなじへすかさずがぶり。
    「は、あは」
     こんな夜更け近くにする行為と形だけは似ているだろうそれらからはしかし色気の欠片も感じられない。今この部屋には雰囲気が無く作る気も無いからだ。けらけら笑う彼とくすくす笑う自分はただ遊んでいるだけ。双子かあるいはつがいの動物がそうするように。
     小さく細かに笑いながらずるずる落ちていく上半身へほんの僅か力を加え腿上へ乗せた。浅い息を溢すランガは首まで赤い。抱きこむように背を曲げる。
    「ランガくん。忠が入って構わないかと。いいよね」
     返信中呂律の回っていないだいじょうぶを聞いた。その興味深さに思わずちょっかいをかけ続けたのは少々自身の欲望に忠実過ぎたかもしれない。少なくともランガへ伝えた言葉の数倍長くかしこまった文でわざわざ伺いを立ててきた犬が扉を開き自分達を見るなり間違えたと言うように眉を八の字にしたのは部屋で待っていた内一人の顔と呼吸がまるで整っていなかったせいであり、その一人へ整わせる暇を与えなかったのは自分だった。
     後始末はすべきだろうと用を聞くついでに誤解を正すと露骨に犬が緊張を解く。油断はいただけない。鞭を振るう代わりに挨拶でもしておこうか。
    「忠」
    「はい」
    「こちら僕の恋人のランガくん」
    「……あ、じゃあ俺も。スネーク。この人俺の恋人の愛抱夢」
     互いを示し恋人だと紹介するこちらへ何を思ったかは定かではないが、奇妙だと言わんばかりの表情ではい、ともう一度犬は鳴き後ろ向きに扉を抜けて行った。
    「反応なかったね」
    「まあ仕方ないさ。あれにとっては耳タコだろうし事前に説明もしなかった」
     起き上がったランガが濡れた動物よろしくふるふると身を振る。水気の代わりに熱気が散ったか顔の赤みはみるみるひいていった。自由になった彼は荷物へと向かい、手にスマートフォンを持って戻ってくる。
    「他にも言ってみようかな」
     数人分友人だろう名をあげながら開いたアプリ。真っ先に表示された相手に「愛抱夢と恋人同士になりました」なんて送ろうものならどんな返しが来る事やら。祝福は有り得ないだろう。されたら疑う、正気などを。
     やはりランガが選んだのは例の相手だった。気安いやりとりの下にはメッセージの入力欄。しかし自分のものより色薄い指先は一向にキーボードを表示させない。
     窺うように視線を向けてくる早春の海。
    「いいよ。言っても」
     もう長いことこれに溺れている。
    「欺き続けるのは苦しいだろう。言ってしまえばいい。こんな日だ、誰も信じない。万が一真実に気付かれても僕がどうにかするから」
     数度ゆっくりとまばたきしたのち「たしかに」とランガは呟いた。穏やかだが諦めきった響きだった。
    「今日だけは言えそう」
     自分の言葉は必ず嘘になる。そんな確信を持った声音で言いスマートフォンを膝へ置く。いつまでも開いた画面へ一言だって打ち込まずに。
    「あのさ、別に俺苦しくないよ」
     振り向いた顔には薄い表情だけしかない。その反面声は力強く、あなたのせいではないと訴えるようで、己はそんな事を望んでいる顔をしているのかと訊きたくなった。実行には移さない。惑わせるだけだ。
     要らない苦労をさせているような。しているような。
     はじまりからもう少し近くあれていたなら自分達は今よりずっと簡単にこの世とやっていけたのかもしれない。あるいは自分が。彼が。何かが違っていたら。仮定する事はある。時には無理にでも捻じ曲げられないかと。けれど自分達の道程に僅かなずれが生じていたとしてそこから発生した小さな変化がその後の二人に何かしら影響を及ぼしていたかもしれないと思うとそこで話は終わる。
     現実にて出会えた幻想。あの夜を、あの夜の全てごと彼を愛している。だから嘘になるとしてもここにしか居られない。
     結局ランガは何もせずスマートフォンの画面を消した。先ほどよりも委ねるように体重を預けてくるのは眠いからだけでは無いだろう。
    「ランガくん」
    「なに?」
    「もうじき日付が変わるよ」
    「そっか、嘘も終わりだ」
    「ああ。全部無かったことになるから、そしたら僕を思い出して」
     実は君に忘れられて寂しかった。おどけた調子で言えばランガの表情が緩んだ。
    「わかった」
     声は弾み、けれど繋ぐ手は静かにあたたかい。
    「明日になったら嘘の恋人はやめる。それでもう一回あなたの恋人になる」
    「運命の?」
    「それがいいなら。うん。運命の」
     約束だと笑う間にも時は過ぎていく。今日が終わればまた来年。もしくはいつかあっさりと許される日まで。気付かれないよう息を殺して、嘘つきのまま遊んでいたい。
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