Bon Voyage虹の落涙※嘔吐表現があります

春も盛り。
色とりどりの花々が咲き乱れるの美しい庭。
華やかな結婚式場。
荘厳なチャペル。
着飾った花嫁と花婿が来賓の間を行き交い祝福される、幸せの満ちたその披露宴会場。

「ヴォッ……も、むり……ッ」
「ちょっ、アンタ大丈夫か？」
「だ……だめぇ……ヴッ」

……の、トイレで、桑名は盛大に突っ伏していた。

一般企業のしがないサラリーマンとして従事する桑名はその日、同僚の結婚式に参列していた。
花嫁との出会いは、桑名も数合わせで参加させられた合コンらしい。桑名には新婦の顔も名前も全く記憶はないが、二人は合コンで意気投合して以来順調に愛を育み今日に至ったのだという。
同僚とは入社時期もそう離れておらず気の置けない仲である。彼を祝わない道理はない。

雨落つ庭（くわぶぜ）1.

　ゆめうつつで聞く雨音は鈍くどこか柔らかい。初夏の朝、ましてや雨降りの朝は少し肌寒く、豊前はつい先日薄手にした毛布をしっかりと被りなおす。明けたはずの梅雨が戻ってきた、最近の天気はそんな感じだ。もっとも、やろうと思えば審神者の力で季節さえも操れるこの本丸仮想空間では四季などそんなに意味もないのかもしれない。世の中には常春の本丸もあるという。絶えることなく桜花が降り続くというのに、いつまでたっても満開の桜が咲き続けるのは一種の狂気だ、と思ってしまうのは移り行く四季を愛するここの主に影響されたせいなのかもしれない。
　水分を含んだ空気が起き抜けの眠気を加速させる。どうせ今日は非番なのだこのままもう一度眠ってしまうのも良いかもしれない。人の身を得てからというもの、二度寝と言うものは非常に気持ちが良いものだと知ってしまったのだ。その気持ちよさと走り出したい気持ちを天秤にかけて前者を選んだ。雨で外には出られないのだし、今日はもうのんびり過ごそうと布団に体を完全に預けた。