Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    lily__0218

    ゆげ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 12

    lily__0218

    ☆quiet follow

    ※燃晩/現代AU(大学生墨燃くんと🐈師尊)
    ※「乳白色と朝」のふたり
    ※しょうもないSSS

    ##燃晩

    【燃晩】恐怖!黒パーカーの怪異「……晩寧?」
     あと十数分で日付が変わろうとしている時分、アルバイトを終えてようやく帰宅した墨燃を出迎えたのは、しん、とした静寂に満ちた室内だった。普段であれば帰ってきた墨燃に抱き上げられることを、玄関の前でそわそわと待っている白い彼の姿がない。「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」を大切にする白猫は、ねむっていても窓ガラス越しに虫を追いかけていても、墨燃を見送りそして出迎えることを欠かさないというのに。
    「晩寧! わんに……あれ?」
     急激に心臓が冷えていくのを感じて、墨燃は大きな声で晩寧を呼んだ。しかし次の瞬間、はたと瞳を瞬かせる。今日の朝、家を出る前にベッドの上へと放っておいた黒いパーカーが不自然に蠢いていたからだ。それはまるで意志を持ったようにひとりでに動き出し、さらには激しく暴れまわっているように見える。黒いパーカーが縦横無尽にびよんびよんと伸び縮みしている怪奇現象に唖然としていると、その裾から白くしなやかな尻尾が覗いているのが見えた。
    「……! 晩寧?」
     墨燃は目をまるくして急いでベッドまで駆け寄った。おかしなことになってはいるが、晩寧がちゃんと部屋のなかにいたことにほっと胸を撫で下ろす。どうやら白い彼は墨燃の置いていったパーカーのなかにもぐりこんでいたようだ。
    「ま、待って! 今とってあげるから」
     暴れまわる黒い塊に手を伸ばす。墨燃の指先が触れた瞬間、その塊はぴたりと動きを止めた。一拍も置かないうちに「なぅん……」とどこか気落ちしたような掠れた声が聞こえてきて、墨燃は驚きを表現したまま固まっていた表情をようやくゆるめた。
     自分の帰宅に気がついて慌てて飛び起きたときに、うっかり絡まってしまったのだろう。晩寧は警戒心が強く賢い猫であるが、稀にこういったおかしなことをする。そんな一面が、墨燃にとってはかわいらしくて仕方がない。
    「急いで起きようとしてくれたの? ……あっ晩寧、そっちじゃないって」
     絡まっていたパーカーが墨燃によってゆるめられ、身動きが取れるようになったのか晩寧がごそごそと動き出した。襟もしくは裾から出て来てほしいという墨燃の思いとは裏腹に、晩寧は袖口に向かってずんずんと突き進んでいく。そっちじゃ出られないよと声をかけようにもすでに遅く、晩寧はその小さな顔をひょこりと袖口から出した。
    「……ぶふ、い、芋虫みたいになってるよ?」
     晩寧は狭い袖口につぶされた顔を顰めながら、なおん、とひとつ強く鳴いた。まるで怒りながら「おかえり!」と言っているようだ。墨燃は堪えられそうもない笑みを頬の内側で必死に噛み潰しながら、やわらかく答えた。

    「ただいま、晩寧」


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    lily__0218

    DONE楚晩寧お誕生日おめでとうSS②
    踏楚/本編後のふたり
    ※本編311章までのネタバレを含みます。
    ※多分『献花』を先に読んだほうが良いですがこれだけでも読めます。
    【踏楚】花に傾慕 細い糸のような雨がやさしく地面を叩く音で楚晩寧は目を覚ました。頭を預けていた墨燃の肩越しに、彼らが住まう茅舎の室内がぼんやりと浮かび上がる。陽が昇りきっていない時分、薄墨を刷いたような闇からゆっくりと身を起こすように、彼らの生活の痕跡が徐々に輪郭を結んでいく。
     南屏の山間からは濃い霧が立っていた。真っ白に染まっていく窓の外を見ながら、楚晩寧はまるで雲の上にいるようだと思う。山の天気は移ろいやすい。きっとこれから雨が止んで陽が昇り、光が雲霧を切り裂き、この茅舎の中に射しこむのだろう。
     楚晩寧はたくましい腕の拘束から抜け出した。すっと視線を下げると、すやすやと寝息を立てている墨燃の横顔が目に入る。ほんの数刻前に意識が切り替わり、切り替わるやいなや有無を言わせず楚晩寧を床榻に組み敷いた男とは思えないくらい、どこかあどけない寝顔だった。かつてはあんなにも皺が寄っていた眉間も今は穏やかにゆるんでいる。痛む身体に少しだけ腹が立った楚晩寧は、好機と捉えて指先で墨燃の鼻を摘まんだ。くぐもった呻き声が短く上がる。楚晩寧は満足そうに口の端を上げ、床榻から立ち上がった。
    1726

    lily__0218

    DONE楚晩寧お誕生日SS①
    とある八月九日の懐罪大師のお話。
    ※二哈241章までのネタバレを大いに含みます。
    ※燃晩要素はほとんどない懐罪のエンドレス独白です。
    献花 白の衣装は繊維の隙間に夏のにおいを含んでいた。一着を手に取って丁寧に畳み、もともと仕舞われていた場所に戻していく。いくばくかそれを繰り返し自分の左横にあった白い山がなくなると、懐罪は細く長い息をふうと吐き出した。
     顔を上げて周囲に視線を巡らせる。懐罪の手によってすっきりと整えられた水榭内は、薄墨を刷いたような闇にその輪郭を溶かしていた。窓の向こうに見える空は燃えるような赤と濡れたような紫を滲ませ、時おり群鳥の影が横切っていく。もうじき黄昏が夜を連れてくるだろう。
     朝から気も漫ろな一日であった、と緩慢に腰を上げながら懐罪は思う。
     今しがた終えた「楚晩寧の衣装に風を通す」という作業も彼の気を紛らわせる一助とならなかった。空いた時間を水榭内の掃除に没頭することで埋めようとしても、楚晩寧の生活の痕跡を見つけるたびちくりと心臓が痛んで手が止まる。高僧などと呼ばれる自分を馬鹿々々しいと思うほど、毎年この時期になると懐罪の神経は鋭敏になった。忘れたことなど一日もない、かつての罪が記憶の表層に浮かび上がってくるからだろう。
    3879

    recommended works