【燃晩】ズボラメイド楚晩寧と坊ちゃん墨燃▽
青い空にメレンゲのように浮かぶ雲を睨みつけ、楚晩寧は体内にこもった熱を逃がすように大きく息を吐いた。
太陽が真上から照りつける午後一時。煉瓦造りの倉庫に三方を囲まれた小さな中庭は、本邸の綺麗に整備された豪奢な庭園とは異なって雑草がまばらに生えているだけである。
楚晩寧はそんな中庭の端に置かれた木製のベンチに腰をおろし、疲れたように両手で顔をこすった。遮るものもなく地上を見下ろす太陽が彼の艶やかな黒髪に覆われた後頭部をじりじりと焼いていく。
(今日は特に、蒸すな……)
事前に組まれたシフト通りに昼食を済ませ、業務再開までは残り十五分といった時分だった。自室に戻ろうにも大きな邸宅内を移動するには時間がかかり、また人が多い場所で休憩をとると自分の存在が他人の休憩を阻害してしまう。そういったことに気がついている楚晩寧は、いつも人気のないこの場所にやって来てはひとり気ままに時間を潰していた――のだが、今日は選択を誤ったようである。
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