「ドラケン、三ツ谷って恋人いンのか?」
普段は口数の少ない同僚がわざわざ仕事の手を止めてそんなことを聞いてきたのは、額にじんわりと汗の滲む初夏のことだった。
その言葉にドラケンこと龍宮寺堅もまた、作業の手を止めて、目の前のバイクから目線を外した。左のこめかみから汗が流れ落ちて、首にかけた真白いタオルに吸い込まれていく。
「イヌピーの方が知ってるんじゃねぇか?」
僅かに責めたような口調になってしまったが、イヌピーこと乾青宗は、そんな龍宮寺に気がつかないのか、ゆるゆると気怠けに首を横に振った。
「そういう話はしねぇ。それに三ツ谷のことで、ドラケンが知らねぇことを、オレが知ってるわけねぇだろうが」
とはいうものの、兄貴気質の三ツ谷と、年上ではあるが末弟気質の乾は相性が良いのだろう。二人のサシ飲みは遅番の龍宮寺の仕事が終わるまで、だったのが、いつしか予定を合わせて開催されるようになった。
4607