無題兵頭と恋人になって一年は経った。だからといてアイツの関係は特に何も変わらなかった。手を繋いだこともなければ、キスやその先なんて以ての外。あえて変わったところをあげるとするならば、二人で過ごす時間が静かになったことくらいだ。俺は意外とその時間が好きだったりする。空気が恋人のそれになってるのだと俺は思うから。
夕飯も食べて風呂も入って、台本のチェック、二人でアタリの確認。そんな役者としての日課を済ませたあとにそっと静かな空気になった。
「(…あ、眉間にシワがねぇ)」
黙って兵頭はバイクの雑誌を見ている。スイーツ雑誌ではないのは珍しい。だから顔がだらしなく歪んだり花を飛ばしていないのだ。シワを作ることない綺麗な顔で黙って兵頭は視線を動かしていた。
「(…やべ。また来た)」
時たまに俺は兵頭を抱き締めたい衝動に駆られる。恋人なのだからしたらいいのだが、プライドが邪魔をする。バツ悪く俺は兵頭から視線を逸らした。
もっと俺らの関係が良好なら、仲のいい仲間だったのなら、そこから恋人になっていればもっと素直に兵頭を抱き締める手を伸ばしていたのになと考える。自分の眉間にシワを作り、俺は中坊のように情けなくスマホでネットで関索してしまった。
恋人、甘える、方法、そんな単語を並べれば出てくるのは勿論ラブラブな恋人のみ適応されるものだ。溜息が出そうになるのを必死に堪えた。
「(それができたらこんな事悩まねぇよ)」
「摂津」
「……」
「おい摂津」
「!…お、おうなんだ」
すっかり雑誌から目線を離した兵頭は俺を見つめていたことに少し驚く。それを隠すように目線はすぐスマホへと戻してしまった。
「読み終わったぞ」
「あ?ンなこと一々報告いらねぇよ」
「読み終わったから暇だ」
「知らねーよ」
「…だからする事ないぞ」
「だーかーら」
スマホの検索画面を閉じたあと兵頭の顔を向ける。そんな報告いらねぇってなんなんだと文句を言いたかったがそれは一瞬にして飲み込まれた。
「おま…顔赤…ッ」
「うるっせ」
文句を言いだげに口を尖らては目線を泳がし、シワひとつなかった顔が一気にしかめっ面になっては茹でダコのように赤くさせる。
「__ぅへ??」
「…何変な声出してんだてめぇ」
「あ、いや…お、おお?な、なにお前も、もしかしてイチャイチャしてーの…?」
「………」
「お、おい」
兵頭は黙り込んではテーブルに伏せた。篭った声が耳に届く。
「手ぇ出せよクソが」
そんな文句が小さな声がはっきりと耳に届く。幻聴とか妄想とかそんなんじゃなくて。そんな混乱を無視して兵頭が俺を確かめるように伏っつせた腕の隙間から見てくる。
いいのか?俺に恋人みたいな行動をさせても、抱き締めて好きだと伝えて、キスなんかもしちゃってもいいのか?
「…お、い聞いてんのか摂津」
「お、おう!ハハなんだひょーども可愛いとこあんだな〜」
果てしなく可愛い、本当に可愛い。可愛いなんて思ってることにムカつくくらいに可愛い。
素直に腕を回したくてスマホを持ったままあげると手は震えた
「とッりあえず検索シテイイ?」