窓の外は曇り空だ。天彦はリビングのソファに座りながら窓を眺めていた。聞こえてくるのはページを捲る軽い音だけ。
天彦の隣に腰かけて、ふみやが本を読んでいた。天彦はふみやの肩にそっと頭を寄せて、彼の手元を覗き込む。小説であることは分かるが、思っていたよりも字が小さく、びっしりと綴られている。ずっと見つめていると、頭が痛くなりそうだ。
リビングにいるのは二人だけ。二人分の息遣いが混じりあって溶けていく。天彦が所在無げに視線を巡らせていると、ふみやの手が伸びてきた。指が髪を撫で、肩に体重を掛けるよう促してくる。天彦はふみやの肩に頭を乗せて、目を閉じた。
天彦はふと目を覚まし、鈍痛に顔を歪ませた。下腹部の辺りが押し潰されているように痛む。いつの間に天気が崩れたのか、雨が窓を打ち付けている。天彦が苦虫を噛み潰したような顔をして身体を起こすと、ぺらりとページを捲る音が聞こえた。
それからふみやが紫色の瞳を向けてくる。
「どうかした?」
「お邪魔、ですよね。天彦部屋に戻ります」
「別に良いよ。まだ寝てても」
「でも……」
「……具合でも悪い?」
「えっ」
「低気圧だからちんこ痛いのか。上で休もう」
「いいんですか」
「本はいつでも読めるだろ」