トリック&トリート! 天彦はコーヒーを淹れながら、鼻歌混じりに冷蔵庫を開けた。今日はずっと食べたかったコンビニスイーツが食べられる日だ。期間限定だからか、天彦がいつコンビニを見ても売り切れていた。それが今日、やっと買えたのだ。
コーヒーの良い香りが漂ってくる。天彦は冷蔵庫からチョコレートモンブランを取り出した。食器棚からスプーンを探す。
「トリックアンドトリート」
背後から低くセクシーな声が掛けられる。ほのかに甘い香りがする。
「……アンド? オアじゃなく?」
「お菓子くれたらいたずらしてやろうかと思って」
「あいにくお菓子は持っていなくて……」
「それは?」
「こ、これは……」
「無いなら残念だな。セクシーないたずら考えてたんだけど」
「……具体的には何かお聞きしても?」
「ここでは言えないよ」
ふみやが恥ずかしそうに笑った。
「エクスタシー!」
天彦はもう、己のリビドーを押さえられなかった。天彦はワールド・セクシー・アンバサダー、世界セクシー大使。ずっと楽しみにしていたスイーツより、目先のセクシーである。
「僕の負けです」
天彦はチョコレートモンブランをふみやに差し出した。
「やった」
ふみやはモンブランを受け取ると、嬉しそうに踵を返し、テーブルに向かう。
「待って!」
その手を掴んで引き留める。
「セクシーないたずら、してくださるんでしょう?」
「えっと、あー……」
ふみやが目を逸らして言い淀む。
「僕のこと騙したんですか?」
「え、あ、いや、そういうわけじゃ」
「なんて」
ぱっと天彦はふみやの手を離して笑った。
「僕からのいたずらです。半分こしませんか」
「うん」
「そうだ、準備して部屋で待っててよ。すぐ行くからさ」
「えっ」
「言っただろ、セクシーないたずらするって。じゃ」
「セクシー……!」
天彦は立ち去るふみやの後ろ姿を見つめながら呟いた。