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    kesyo_0310

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    kesyo_0310

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    ハッコルSS 豆まきの話
    マロにいただいたお題から書きました。

    豆に祈りを、あなたには約束を ふぁ、とひとつ欠伸を漏らしながら、コルサはリビングに顔を出した。まだ薄暗い室内はしんと静まり返り、ほのかに甘い花の香りが満ちている。
     コルサはリビングを見渡しながら、カーテンの閉まった出窓に近付いていく。日当たりの良い窓辺に置かれたポケモン用ベッドでは、ミニーブとチュリネが寄り添いながら寝息を立てている。
    「おはよう眠り姫たち。良い朝だぞ」
     柔らかい声を掛けながら、コルサはカーテンに手を掛けた。そっと開けると、金色の陽射しがリビングに降り注ぐ。朝の陽射しを浴びながら、ミニーブが目をぱちくりさせ、チュリネが頭草をふわふわ揺らして起き上がる。
    「今日も実にアヴァンギャルドな麗しさだ」
     ミニーブとチュリネを抱き上げながら、コルサは二体に顔を寄せた。
     リビングに目をやると、休んでいたポケモンたちも動き始めていた。ソファではアマージョが伸びをしている。オリーヴァがホットミルクを用意しに台所へ向かって行く。床に座って眠っていたキノガッサも目を覚ましたようだ。部屋の隅に佇んでいた二体のウソッキーたちもコルサに挨拶をしにやってくる。
    「おはよう愛しいミューズたち。今日も息災か?」
    「「ウソッ!」」
     声を掛けると、ウソッキーたちが片手を上げて敬礼してみせる。その元気な声に、コルサも口元を綻ばせる。
    『おはこんハロチャオ~!』
     明るくなったリビングに、賑やかな声が聞こえてくる。ドレディアがテレビを点けたようだ。
    『今日は二月三日! 皆の者は今日が何の日か知ってる? 外国ではマメマキっていうイベントをやるんだって!』
    「ミッ!」
    「チュリ!」
     コルサの腕の中で、子どもたちが興奮したように声を上げた。二体の視線は、テレビの中の映像に釘付けらしい。
     映し出されているのは、豆を撒いている人々の姿。
     コルサは腕の中でキラキラと目を輝かせるポケモンたちとテレビの映像とを交互に眺め、それから軽く顎を掻いた。

     *  *  *  *  *  *

     東一番エリアの草原に、一体のカイリューが降り立った。
    「ありがとうございますですよ」
     背に乗っていたハッサクは、カイリューの頭を撫でながら彼をボールへと戻した。着いたのは、ちょうどコルサのアトリエ兼自宅の裏手だ。
     ハッサクは玄関まで回ると、オリーヴァをモチーフにしたコルサ手製のドアノッカーを数回叩いた。しかし、家の中からは反応が帰って来ない。まだ朝の十時ごろ。ジムチャレンジや制作でコルサがアトリエを出ているにしては、いささか早い時間だ。
     もしや彼の身に何かあったのではないか。
     嫌な予感が押し寄せ、意識が遠のきそうになる。喧しく鳴る心臓を押さえつけ、ハッサクはゆっくりと深呼吸しながら隣接するキマワリ広場の方へと向かう。心なしか、キマワリたちの鳴き声が飛び交っているように聞こえる。そして物理技のような激しい音も。
     何事だと顔を出したハッサクの目に飛び込んできたのは、ミニーブやチュリネ、ヒマナッツたちに囲まれているコルサだった。なぜか彼はポケモンたちに追われ、タネマシンガンを撃たれている。その様子を、彼の手持ちポケモンやキマワリたちが見守っている。まるでジムバトルの観客さながらの熱狂具合だ。
    「ハハハッ! 実にアヴァンギャルドで容赦のない攻撃だ!」
     ポケモンたちから攻撃されているというのに、当のコルサは愉快そうにいつもの様子で笑っている。ハッサクはますます首を傾げた。コルサの身に何かあったというわけでは無いようだが、なぜこんな状態になっているのか見当がつかない。
    「コルさん?」
     声を掛けると、コルサたちがハッサクに気付いたようだ。ミニーブたちは攻撃を止めてハッサクに近付いてくる。
    「ハッさん! ちょうど良いところに来てくれたな」
     コルサはそう言って、清々しい笑顔を向けてきた。自身のポケモンたちからタネマシンガンを撃たれていたとは思えない。
     コルサが庭に座って一息ついていると観客に徹していたポケモンたちも近付いてきた。ハッサクもコルサの傍にしゃがみ込み、彼の様子を確かめた。
     さすがはコルサに懐いているポケモンたちだ。タネマシンガンを撃ってはいたものの、コルサに直接当たってはいないらしい。傷一つ無いことに胸を撫で下ろしながら、ハッサクは眉根を寄せる。
    「一体何があったのですか?」
    「姫君たちと戯れていただけさ。外国ではマメマキなるものをすると聞いてな」
     そう言うコルサの脚にミニーブとチュリネがよじ登る。二体はすっかり満足した様子でコルサに抱かれている。先ほどの光景からは想像できない穏やかさだ。
     それからハッサクは豆まき、とコルサの言葉を反芻した。
    「カントーやジョウトでやりますね。今日でしたか」
     懐かしい単語に、ハッサクは表情を緩めた。まさか遠いパルデアの地で、コルサの口から聞くとは思ってもみなかったが。
     そんなハッサクの反応にコルサは気を良くしたらしく、みるみる表情を綻ばせていく。
    「やはりハッさんの故郷の風習だったか!」
    「ええ、実家でも良く……って、豆まきの代わりにタネマシンガンを!? 鬼役なら小生が代わりましたですよ!」
    「いいんだ。ワタシも身体を動かしていないと鈍ってしまうからな」
     そう言いながら、コルサが立ち上がり、玄関へと向かって行った。ハッサクも、草ポケモンたちと共にコルサの後についていく。
    「そう言って……小生知っていますですよ。ジムテスト中ずっと風車から挑戦者を見ていますでしょう」
    「なぜハッさんがそれを!?」
     家に入りながらコルサの背中に声を掛けると、彼が驚いたように振り返った。
    「ボウルジムに挑戦した生徒たちが話しておりますよ。ジムリーダーが風車から飛び降りてくると」
    「それはアヴァンギャルドな経験になっただろうな」
    「なっただろうな、ではありませんですよ!」
     ハッサクはコルサに顔を近づけた。癖のあるオリーブ色の前髪をかき上げて、コルサの双眸を見つめる。
    「あまり危ないことはしないで下さいと小生何度も言っているでしょう! もっとご自分のことを大切にしてくださいですよ」
     銀色の瞳を見つめながらそう言うと、コルサがふいと視線を逸らした。それから指先で顎を掻く。考え事をするときの彼の癖だが、それは困った時にも見られる癖だった。
    「それはだな……」
     コルサはそこまで言って口を噤んだ。ハッサクが肩を竦めていると、台所からオリーヴァがこちらを見ていることに気が付いた。
    「嬢よ、準備が整ったか!」
     コルサはすっかりいつもの調子に戻った。彼の言葉に、オリーヴァがゆったりと頷く。
    「準備とは?」
    「タネマシンガン撒きはあくまでも前座ということだハッさん」
     コルサに連れられてリビングに向かうとオリーヴァが大皿を運んできた。そこには炒られた豆が山盛りにされている。
    「煎り豆ですか」
     コルサがソファに腰かけたので、ハッサクもその隣に座った。ポケモンたちも近くに集まってくる。
    「歳の数だけ食べると聞いてな」
     ドレディアが食器棚から小皿を取り出し、テーブルに並べていく。コルサは大皿に添えられたスプーンを手に取った。ドレディアの花を模した、木製のスプーンだ。
    「ハッさんも食べるだろう? 庭で採れた豆だから故郷のそれとは違うだろうが……」
     ハッサクは隣に座るコルサを見つめた。
    「……それに、豆を食べることで息災や長寿を願うと聞いたからな。ワタシも――」
    「うぼぉおおいおいおいおい!!」
     そうして耐えきれず、泣き始めた。
    「どうしたハッさん!? タネマシンガンが当たっていたか?」
     コルサが慌てた様子でハッサクに顔を寄せてくる。
    「小゛生゛感゛動゛し゛て゛…゛…゛!゛ だて゛コ゛さ゛が…゛…゛!゛」
     ハッサクは目頭を押さえながら声を震わせ、ぎゅうとコルサを抱きしめた。華奢な彼の身体はハッサクの腕の中にすっぽり収まってしまうほどだが、それでも彼が病魔に蝕まれていた頃と比べれば随分と肉付きが良くなっている。
    「長生きしましょうね……!」
     その違いにすら、涙が溢れてくる。
    「当たり前だ。ハッさんとずっと一緒にいたいからな」
    「小゛生゛です゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛」
     コルサの肩口に顔を埋めると、耳元では花の綻ぶような柔らかい笑い声が聞こえてきた。

    END
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