不機嫌を隠しもせずに万次郎はドカリとベッドに腰を下ろす。据えた目でうつむくその背にはありありと険難が張り付いている。
「ヘソ曲げてんじゃねぇよ」
万次郎の険に思い当たるのか、向けられた背の頑なに男は苦笑する。その気配を感じながらも万次郎は振り向かない。
「ケンチン、ミツヤが気になるんだろ」
ほんの一時。男は万次郎の傍らから離れた。それが万次郎の密やかな臆病に刺さる棘になる。クチリ、万次郎の気弱を責める。
それが酷く滑稽なことは今さらだ。万次郎には男を責めることも、ましてや引き留めることも出来はしない。けれど許すことも出来ない。男は万次郎のものだからだ。万次郎だけのものだからだ。
「ちげーよ。…アイツの顔、見ておきたかっただけだ」
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