みんなに見守られているエー監シリーズ01ユウとケンカした。
ケンカした…っつーか…。
「エース。悪いことは言わない。監督生にあやまったらどうだ?」
「分かってるよ。」
「どーせまたお前が何かしたんだゾ?」
「それも!…分かってる。けど…。」
「けど?」
そう、原因はオレにある。
そこまでは分かっているんだけど…。
「分かんないんだよ…。」
「お前、今、分かってるって」
「オレが何かしたのは分かってんだけど…それが何かは分かんないだよ。」
「「…え?」」
素直に言うと、デュースとグリムはやや間をあけてから、顔を見合せ、不思議そうな顔をした。
オレとユウは最近付き合い始めて。
行きや帰りは一緒に通ってるけど、まだ手を繋いだことだって数えるほどだし、抱きしめたり、キスしたりだって1度か2度か。
本当はその先だって…と思っても。
(ユウのやつ…すぐ照れるんだよな…。)
またそれが、たまらなくかわいいなんて。
…オレがユウをどれだけ好きかは、察してほしい。
とはいえ。
ケンカは付き合う前も何度かあったし、付き合ってからも…数回はあった。
大体はオレが言いすぎて…ユウが落ち込んで。
その度にオレがあやまって、仲直りして。
けど、今回は何か言った記憶がない。
というか、さすがに何度もケンカするわけにもいかないし、正直もうケンカなんてしたくない。
だから、気を付けていた。
言ったことではないとすると…他の原因ってなんなんだよ。
いや、やっぱり何かマズイこと言ったのか?
あ~分かんね。
「エースにしては、珍しいな。」
「はぁ?何が?」
「今までのお前なら、直接本人に聞くだろ?」
「いつもの調子で、聞いちまえばいいんだゾ。」
「あのなぁ…。」
それができたらやってるっつーの。
ってかもうやった。ちなみに、返ってきた言葉は。
「なんでもない…よ?」
だったんだ。
何か…隠してる、のか?もしかして…。
オレは盛大にため息をついて、頭を抱えた。
と、ちょうどそこに。
「ごめん、待たせて!用事は済んだから、帰ろう。」
何やら先生に呼ばれたとかでどこかへ行っていたユウが帰ってきた。
いつもならここで二人で帰るとこなんだけど。
今日はデュースとグリムも待ってて欲しい、と言われていたのだ。
んで、冒頭のやりとりに戻るってワケ。
ちらっとユウの方を見ると、気まずそうに目をそらされた。
あーもう!
「ユウ、帰ろう。」
「えっ、ちょっと、エース!」
ぐだぐだ悩むのはもうやめた。
オレは半ば強引にユウの手を引いて歩き出した。
「あ、オレ様!今日はトレイのやつに、新作ケーキの試食を頼まれてたんだゾ!」
「ぼ、僕も!部活のことでジャックと会う約束をしてるんだった!」
「え、ちょっと、二人とも!」
「監督生、すまない!」
「エース、子分を頼んだんだゾ!」
最後の方は何を言っているのかよく聞こえなかったけど、ユウとつないでいない方の手でひらひらと挨拶はしておいた。
オンボロ寮までの道中、ユウとは何も話さなかった。
ただ、つないだ手を振り払われることもなくて。
そればかりか、何度かぎゅっと握られて。
本当、なんなんだよ…。
「なぁ…もう一回聞くけど。オレ、何かした?」
オンボロ寮の玄関。つないだ手はそのままに、簡潔に尋ねる。
ゆっくりとユウの方へ向き直ると…真っ赤な顔してうつむいていた。
ユウは、あ、とか、う、とか、言葉にならないことを言いながら、時おりふうーっと息をついて。
また…手をぎゅっと握られる。
だから…なんなんだよ…。
しばらくして、決心したのか、ゆっくりとユウが話し出した。
「エースは…悪くない…。」
「じゃあなんで」
「私が!私が…悪いの。」
「…?って…おいっ!」
一瞬、何が起こったか分からなかった。
気付いたら、ユウがすごく近くにいて。
やわらかくて、いい匂いがして…。
ってところで、やっとユウが抱きついてきたと認識した。
え?抱きついて、きた??!
「え、ユウ?!どうし」
「エース、好き…。」
「はぁっ?!なっ、急にどう」
先の言葉は出てこなかった。
ユウが…めちゃくちゃかわいい顔で見上げてきたからだ。
あ、いや、違う。いやいや!ユウはかわいいけど、そうじゃなくて…。
久しぶりに目が合ったから。
…それも違う。
真剣な表情をしていたから、だ。
「エースは…その…私にペースを合わせてくれてる、よね?」
「…え?」
「だから…その…。ガマン…させてるのかな、って…。でも…。」
そこまで言って燃料が切れたのか、ぽすんっとオレの胸に顔をうずめた。
…つまり、これって。
なるほどね。
オレはひとつ大きく息をすると、ユウを抱きしめ返した。
今さら我に返ったのか、逃げるようなそぶりをみせたユウの腰に腕を回して引き寄せる。
「え…エースっ」
「正直、今までガマンしてる時もあったけど…。」
もう、いいってこと、だよな?
ユウの真っ赤な耳に、口を寄せて吹き込む。
少しだけ緩んだユウの腕の力がまた強められて、聞き逃してしまいそうなくらい小さな声で、うんと頷いた。
なんなんだよ。オレの彼女、めちゃくちゃかわいい。
…知ってたけど。
「…ユウ、こっち向いて。」
「ん?なに…っん。」
ちょうど見上げたタイミングで、唇を塞ぐ。
ちゅっと音を立てて離れると、ユウが驚いた顔をしていた。
それもつかの間。ふわっと笑ったかと思うと。
「エース…。」
「んー?」
「…もう一回。」
あーもー。本当、ずるいやつ。
「ユウ…好きだ。」
返事なんか待たずに、さっきよりもずっと長く、ずっと深いキスをした。