みんなに見守られているエー監シリーズ03エースとの最初の出会いは、最悪だった。
こんなにも意地悪な人がいるだろうかと思ってたけど、今では真逆。
こんなにも優しい人がいるだろうかってくらい…甘やかしてくれる。
どんな時でも、すごく大切にしてくれていることが伝わってきて。
はぁ…好きだな…って。
「ため息なんかついて、どうしたんだ?」
「っ、デュース?!」
どうやら無意識のうちにため息をついていたらしい。
デュースが心配してのぞきこんできた。
「…エースとケンカでもしたのか?」
「えっ?!な、なんで…??」
「なんでって…。いつもなら一緒にいるのに、なんか今日…あいつのこと、避けてるだろ?」
これはまずい。非常にまずい。
何がって、デュースが勘違いをしてるってことは、きっとエースも勘違いしているに違いない。
誓って言おう。断じてケンカはしていない。
ケンカはしていない…けど、避けているのは、事実。
そう、私は今、困っているのだ。
エースのことが好きすぎて、どうしたらいいのか分からなくて…。
ぐるぐると考えた結果…避けてしまっているのだ。
エースはいつも私にペースを合わせてくれている。
それはきっと、私がいちいち過剰な反応をするからだ。
初めて手をつないだ時、壊れ物を扱うかのように優しく、そっと手をとってくれたのが嬉しくて、全然顔を上げられなかった。
初めて抱きしめられた時も、心臓が飛び出ちゃうんじゃないかと思うくらいドキドキして、息がうまくできなくて。
初めてキスした時は…緊張しすぎてあんまり覚えてないけど、ふわふわして、すごく幸せで。
エースに触れられると照れてしまうけど、すごく嬉しい。
でも同時に、もっと、という気持ちがあふれてくる。
もっと一緒にいたい。もっと近づきたい。もっと…。
「おーい、もう帰ろうぜ。」
「!!エース…。」
そこに話題の人、エースが現れる。
どうしよう…また過剰に反応してしまった。
「みんな帰っちまって、オレ様たちが最後なんだゾ。」
「本当だ。監督生、僕たちも帰ろ…」
「ご、ごめん!私、先生に呼ばれてるんだった!」
「「「え?」」」
勢いで立ち上がって、とっさにウソをついてしまった。
みんなの視線が集まっている気配はするけど…。
顔は上げられないし、全然、エースの方を見られない…。
「じゃあ、オレが待ってるからお前らは先に」
「ダメ!…デュースとグリムも待ってて欲しい。」
不思議な沈黙が流れる。
せっかくエースが言ってくれたのに。
でも今エースと二人きりになるなんて…。
ああ…どうしよう…。
「すぐ!すぐ戻ってくるから!」
なんだか呼び止められた気がしたけど。
私はそのまま振り返らずに教室をあとにした。
「はあーーーーっ。やっちゃった…。」
何も考えずに飛び出してきてしまった。
勢いで言ってしまったのだが、先生から呼び出されてなんかいない。
でも、すぐに戻るわけにもいかない。
本当、何やってるんだろう…私。
エース、さすがに怒ってるよね…。
はぁーっとまたため息をついてしまった。
「監督生ちゃん。どうしたの?」
「ケイト先輩…。」
どこから来たのか、ケイト先輩がひょっこり現れる。
ゆっくりと近づいてくるケイト先輩になんて言おうかと迷いながら、思わずじっと見つめてしまう。
すると、先輩は首をかしげて、それからふむふむと頷いた。
「監督生ちゃんって、本当にエースちゃんのこと好きだよねー。」
「ええっ??!」
「なんで分かったのかって顔してるね。答えはかーんたん♪」
ケイト先輩はエスパーなのだろうか。
いきなり私の心を読んだかと思うと、その人差し指を自分の頬にちょんちょんと当てる。
そして、ぱちっとウインクしながら。
「顔に、しっかり書いてあるよ。」
「へっ?!あ…ええっ??」
顔に?え、どこに?頬…?ええっ??
っていうか、顔に書いてあるなんて、は、恥ずかしすぎる!!
いや、本当に書いてあるわけじゃない、か?
「あっはは!本当、監督生ちゃんはかわいいね。エースちゃんが毎日のろけるのも分かるな~。」
「え、エースが?」
「うん。エースちゃんも監督生ちゃんのこと、大好きだよね~。」
ケイト先輩はケラケラ笑いながら言う。
でも、決してからかうような笑みではなく。
例えるなら、かわいい弟のことを話すかのような、そんな笑み。
そういえば、エースがハーツラビュルでお兄ちゃんにするなら、ケイト先輩って言ってたっけ。
「んー。なんか悩んでるみたいだけど。そうだな、オレから言えることは…。」
少しの間をあけて、ケイト先輩はいたずらを思いついたように言った。
「たまには、積極的になってみてもいいんじゃない?」
「せっきょく…てき…?」
いや…いやいやいや!
それはハードルが高いですってば、ケイト先輩!!
「ごめん、待たせて!用事は済んだから、帰ろう。」
あの後、首をぶんぶん振って全力で無理です!と主張した私に対して、ケイト先輩は大丈夫大丈夫!と笑って。
「まずは、監督生ちゃんから手をつないでみたら?それから…」
と次々に言われて、だんだん恥ずかしくなってきてしまい。
逃げるようにここへ戻ってきてしまった。
でも…。
私から手を…つなぐ?
自分の手を見つめてから、エースの方をちらっと見る。
エースもちょうどこちらを向いたところでバッチリと目があってしまった。
うわーっ!やっぱり私にはハードルが高いですよぉ!ケイト先輩!!
心の中で叫びながら、エースから思いっきり目をそらす。
ばくばくと心臓の音がうるさいのは、走ってきたからじゃない。
目が合うだけで、こうなってしまうのだ。
積極的に、なんてハードルが高すぎる。
「ユウ。帰ろう。」
「えっ、ちょっと、エース!」
いつの間にか近づいてきていたエースに手をとられ、少し強引に引っぱられた。
「あ!オレ様!今日はトレイのやつに、新作ケーキの試食を頼まれてたんだゾ!」
「ぼ、僕も!部活のことでジャックと会う約束をしてるんだった!」
「え、ちょっと、二人とも!」
全然、ウソつくのうまくないよ!!
…じゃなくて、助けてよー!
という私の視線は見て見ぬフリをされてしまった。
オンボロ寮まで、エースとは何もしゃべらなかった。
怒っているのかな?と思ったけど、ケンカした時みたいなピリピリした雰囲気でもないし。
歩く速度は私に合わせてくれているし。
…やっぱり、優しい。
それにエースの手。大きくて、あったかいなぁ…なんて。
今ならちょっとだけ、積極的に…なれるかな。
自分から手をつなぐことはできなかったけど、少しだけぎゅっと握ってみる。
すると、やや間があってエースもぎゅっと握り返してくれた。
ああ…好き。大好き。
「なぁ…もう一回聞くけど。オレ、何かした?」
気付けばオンボロ寮の玄関まで来ていた。
エースがゆっくりとこちらへ振り向いた気配がしたけど、気持ちがあふれて言葉も出ないし顔も見られない。
今朝も聞かれたんだけど、上手く言えなくて。
でも…今度は、ちゃんと、言わなくちゃ…。
何度も深呼吸して、気持ちを落ち着けて。
そんな私をエースはせかすこともなく、何も言わずに待ってくれていた。
「エースは…悪くない…。」
「じゃあなんで」
「私が!私が…悪いの。」
-それから、監督生ちゃんから抱きついてみる、とか。
さっきのケイト先輩の言葉がふっと聞こえる。
たまには…積極的に…。
「って…おいっ!」
勇気を出して、エースの胸に飛び込んでみる。
慌てるような声が聞こえて、つないだ手が離れたのをいいことに、両腕を回してエースにぎゅっと抱きついてみた。
部活で鍛えているからなのか、倒れることもなく受け止めてくれる。
ああ…本当…。
「え、ユウ?!どうし」
「エース、好き…。」
「はぁっ?!なっ、急にどう」
ゆっくりとエースを見上げると、ほんのり顔が赤くなっていて。
大きく見開かれた赤い瞳に、私が映る。
「エースは…その…私にペースを合わせてくれてる、よね?」
「…え?」
「だから…その…。ガマン…させてるのかな、って…。でも…。」
本当は、もっと触れて欲しい。
ガマンしないで欲しい。
もっと…。
なんて言葉は言えず、頭がショートしてしまって、ぼすんっとエースの胸に顔をうずめる。
ドクンドクンっと聞こえる心臓の音は、私のものなのか。はたまたエースのものなのか。
しばらくして、エースが大きく息をつく。
と同時に、体を引き寄せられて。
今さら恥ずかしくなって離れようとしたけど、ぐっと腰に腕を回されてしまった。
「え…エースっ」
「正直、今までガマンしてる時もあったけど…。」
慌ててエースを見上げると、顔がぐっと近づいてて。
次の瞬間、耳元でいつもより少し低い声で囁かれる。
「もう、いいってこと、だよな?」
きゅーっと胸がしめつけられて。
聞こえるか、聞こえないか。
そんな小さな声を絞り出して返事をするのが、今の私の精一杯だった。
「…ユウ。こっち向いて。」
「ん?なに…っん。」
優しく呼びかけられたかと思うと、ちゅっという音と共に唇を塞がれた。
思わずつむってしまった目をゆっくりと開けると、大好きな赤い瞳がやわらかく見つめていて。
「エース…。」
「んー?」
「…もう一回。」
気付けば、もっととねだっていた。
すると、視線がすごく甘くなって。
「ユウ…好きだ。」
返事なんて言わせてもらえなかったけど。
私も…大好きだよ。と心の中でつぶやいた。