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    ナンナル

    @nannru122

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    ナンナル

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    メイテイ!×× 5

    セーフと言い張る。セーフです。セーフなんです。
    お風呂にいっしょに入ってるだけ( ˇωˇ )

    ゆる〜っと雰囲気で読み流してください

    メイテイ!×× 5(類side)

    ガコン、と音がして、取り出し口に見慣れた瓶が転がる。それを取り出して天馬くんへ渡すと、彼は小さな声で僕にお礼を言った。珈琲牛乳の入った瓶のフタを開けた彼は、瓶の飲み口に口をつける。
    ぐっ、と瓶を傾けた天馬くんの喉元が動くのを、無意識に見つめてしまった。

    「…っ、はぁ……」

    半分程飲んだ瓶を一度口から話した彼は、大きく息を吐き出す。礼儀正しい彼が珈琲牛乳を豪快に飲む姿は、珍しくて少し面白い。“お風呂上がりの牛乳の飲み方”というお手本を真似するように、腰に手を当てて飲む姿は、男の子らしい。そんな彼の隣で、僕も瓶のフタをあけた。
    湯で温まって程よく色付いた彼の頬が柔らかそうで、触れてしまいたくなる。ドライヤーでしっかり乾かした金色の髪はふわふわしていて、ふんわりと香るシャンプーの匂いに心臓の鼓動が早まった。普段彼が使うシャンプーとは違う匂いだけれど、これはこれで良い。温泉独特の匂いも相まって、彼の雰囲気を色っぽくさせていると思う。

    (……“触れたい”、というのは、“そういう意味”で、良いのかな…?)

    胸の鼓動が、期待で大きくなる。
    彼の事だから、違う意味かもしれない。抱き締めたいとか、キスがしたいとか、手を繋ぎたいなんて意味の“触れたい”なのだろう。けれど、僕を見る熱の篭った視線や、期待させるような言い方が、頭から離れない。“そういう意味”なのでは無いかと、期待してしまう。
    期待を振り払う様に、手に持った瓶を一気に煽った。冷たい珈琲牛乳が喉を通っていくと、ほんの少しだけ気持ちが落ち着く気がした。

    (…彼の“触れたい”という言葉が、“そういう意味”だったとしたら、触れても、良いのだろうか……)

    彼の御両親には、天馬くんと交際していると伝えている。悪くない反応だったし、反対はされていないと思う。彼の妹さんも、元々ファンだったという事もあってか懐いてくれていると思う。遊びで彼と付き合っているつもりもない。天馬くんが高校を卒業するまでは、となるべく手を出さずにいたから、今もそれが継続している状態だ。彼が“良い”と言うなら、今すぐにだって触れたい。キスだけでなく、その先も。
    あの家で一緒に暮らすようになってから、どれだけ我慢してきたか。僕を慕ってくれる彼を傷付けたくない。怖がらせたくもない。けれど、今すぐにでも、彼の全てを僕のものにしてしまいたい。
    そう思ってしまう程、僕は彼に触れたいんだ。

    (………怖がらせない様に触れれば、受け入れてくれるかな…)

    いきなり触れるのは驚かせてしまうから、少しづつ距離を縮めれば…。といっても、キスの時にそれとなく彼の腰に触れた時は、擽ったいと笑っていたっけ。先にそういう知識を与える方がいい気もするけれど、それはそれで身構えられてしまいそうだからね。
    飲み終わった瓶を回収箱に入れる。隣へ目を向けると、天馬くんが僕に気付いて顔を上げた。へにゃりと表情を緩ませる彼が、「美味しかったですね」と、そう言った。それに、笑顔で「そうだね」と返す。

    (こんな邪な事ばかり考えているなんて、君は考えもしないのだろうね)

    心の中で苦笑して、危機感も何も感じていない天馬くんに手を差し出した。迷わずその手を取られ、胸の奥がちりっとした痛みを覚える。これは、本当に意識されているのか分からなくなってきた...。手を繋いだまま脱衣所を出て、部屋へ向かう。彼も黙ってしまったせいか、会話はほとんどなかった。繋いだ手が熱くて、歩くスピードはいつもより少し早くなる。
    ぎゅ、と握る手に力が入って、大きく息を吐き出した。

    「…ぁ、の、神代さん…」
    「なんだい、天馬くん」
    「………その、もう少し、ゆっくり歩いてほしい、です…」
    「……すまなかったね」

    天馬くんの言葉に、ハッ、とそこで足を止めた。ほんの少し息の乱れた天馬くんが、胸元に手を当てるのが見えて、慌てて目を逸らす。浴衣の合わせから覗く肌が、やけに白く見えた。

    (…………大人気ない…)

    気持ちが急くあまり、彼を気遣うことすら出来なかった。彼に声をかけられるまで、自分がどれだけ焦っていたのかも気付けなかった。僕の方が歳上で、余裕を持っていなければいけないというのに。
    ゆっくりと息を吐き、いつの間にか早くなっていた心臓を落ち着かせようと胸に手を当てる。部屋まではあと少しだ。急ぐ必要も無い。今冷静でいられなければ、この後もっと抑えられなくなってしまう。それでは困る。彼を怖がらせたいわけでも、今すぐどうにかしたいわけでもない。ゆっくりな彼のペースに合わせると決めたのだから。
    もう一度大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。と、繋いだ手が、ぎゅ、と握り返された。

    「…や、やはり、そのまま、で、いいです……」
    「………ぇ…」
    「はやく、…お部屋に、行きたい、ので…」

    小さな声でそう言った天馬くんに驚いて振り返ると、耳まで赤くなった彼は俯いていた。しっかりと僕の手を握ったまま、そわそわとする姿に、ドキッとしてしまう。浴衣の襟から覗く首元も、いつもより赤く染まって見える。ちら、と僕の様子を伺うように見た彼は、視線が合うとまた俯いてしまった。
    ぎゅ、と彼の手を握り返して、そのまま引く。ほんの少し驚いた様子の天馬くんは、何も言わずについてきてくれた。先程よりは歩くスピードを少し遅くして、けれど、いつもより気持ちは早めに前へ進む。

    (……そんな顔をされては、期待してしまうじゃないか…)

    もしかしたら、本当に“そういう意味”なのかもしれないと。
    見えてきた部屋の扉に、繋いでいるのとは反対の手で鍵を持つ。一つ深呼吸をしてから、鍵を開けた。暗い部屋の電気をつけて、スリッパを脱ぐ。天馬くんの手を引けば、彼も視線を逸らしたままスリッパを脱いで端に揃えた。畳の敷かれた部屋の引き戸を開けると、二組分の布団が並べられている。
    ぴったりとくっついた布団に、心臓の鼓動が大きく鳴る。

    「天馬くん」
    「は、はいっ…!」
    「どうする? 少し休んでからでも、明日の朝に入る事も出来るけど」

    その場で立ったまま、顔を見ずに問いかけた。きっと、彼の方へ顔を向けても目は合わないだろう。赤い顔をした彼が俯く姿を、ただ見つめてしまうだけだ。そんな顔を見てしまったら、余計に期待してしまうかもしれない。少し時間を置くか、明日の朝に入る方が、彼にとっては良いはずだ。
    繋ぐ彼の手に力が入って、ほんの少しだけ、彼が僕の方へ体を寄せた。とん、とぶつかった腕に、胸の奥が大きく跳ね上がる。

    「か、み、しろさんが、嫌で、なければ…はいりません、か…?」
    「……そう、しようか…」

    消え入りそうな程小さな声で、天馬くんがそう言った。熱が籠っているように聞こえるのは、僕の願望だろうか。
    極力隣を見ないように、足を一歩前に出す。一度踏み出してしまえば、止まることは無かった。押し入れとは違う引き戸を開けて、脱衣所に踏み込んだ。大浴場とは違う、少人数用の脱衣所。

    「…タオルは、あるみたいだね」
    「……は、ぃ…」

    浴衣の帯に手をかけて、ゆっくりと解く。僕らしくもなく、緊張してきた。彼の御家族に挨拶へ行った時とは、また違った緊張感だ。
    しゅる、と布の擦れる音が聞こえて、ぴく、と肩が跳ねた。分かりやすく意識してしまっているのが、気恥ずかしい。

    (…どこまでなら、平気だろうか……)

    手を繋ぐことに抵抗はない。キスも、軽いものまだ恥ずかしそうにはするけれど、慣れてきてくれていると思う。抱き締めるのも、受け入れてくれる。その先は、どこまで彼は受け入れてくれるのだろう。大人のキスがしたいとか、触れたいと言ってくれるけれど、彼は“その意味”をどこまで理解して言っているのか。
    脱いだ浴衣を棚に置いて、ちら、と隣へ視線を向ける。

    「ぁ…」

    ぱち、と視線が合うと、彼の顔がじわりと赤く染まった。慌てて両手を顔の横で振りながら、「すみませんっ…」と謝る姿が可愛らしい。どうやら、また見られていたようだ。その視線を気にする程の余裕が、僕にも無いらしい。
    謝る彼の手を掴んで、「行こうか」と、出来るだけ優しい声音を意識して言った。頷く彼の手を引いて、浴室に繋がる引き戸を開ける。ほんの少し冷たい風が肌を撫でて、熱くなった頭がゆっくりと冷やされていくようだった。

    「わぁ…」

    石で縁取られた露天風呂は、四人で入るのが限界な程のサイズだ。僕と天馬くんの二人なら十分な大きさがある。外から見られないように立てられた柵の上に広がる星空が綺麗で、先程の緊張感が一気に吹き飛んでいく。彼の手を引いて進み、温泉のお湯へそっと手を入れた。少し熱めのお湯は、外気が冷たいので丁度いい。足先からゆっくりと入って、天馬くんの手を引く。彼も、足先を湯につけて、体を沈めていく。

    「星が、綺麗ですね」
    「そうだね。今夜は晴れているから、星がよく見える」

    きらきらした瞳で空を見上げる天馬くんは、もういつもの彼だ。先程までの緊張が嘘のように、僕も気が緩んできた。程よい熱さのお湯を手で肩にかけ、息をゆっくりと吐き出す。
    触れたくなかったとは、言わない。確かに触れたいと思っていたけれど、これで良かったのかもしれない。焦らなくても、機会はこの先何度だってあるのだから。

    (……白い、…意外としっかりしているんだ…)

    隣に並んで浸かっているから、自然と透明なお湯に沈む彼の脚が視界の隅に映ってしまう。彼が細いのは知っている。彼を抱き上げる時、軽くて驚いた程だ。腰が細くて、手も僕より少し小さくて、可愛らしい。けれど、水面に映る彼の太腿は意外としっかりしている。白い肌は柔らかそうで、つい目が向いてしまう。普段から露出の少ないきっちりした服を着ていることが多いから、こんな機会が無ければ気付かなかったのだろうね。彼は部屋着もしっかり着るタイプだから。
    爪の切りそろえられた彼の足先が、お湯の中で擦り合わされるのを、何となく見つめる。触れたら、どんな感じなのだろう。

    「神代さん…?」
    「ぇ、ぁ、…なんだい?」
    「……いえ、…な、んでも、ない、です…」

    不意に名前を呼ばれ、慌てて天馬くんの方へ顔を向ければ、彼はへらりと笑って視線を逸らしてしまった。赤く染まった頬と、どこかそわそわとした様子に、喉が音を鳴らす。そっと顔を寄せて、小さな声で「天馬くん」と名前を呼ぶと、その肩がビクッ、と跳ねた。

    「先程の続き、なのだけど…」
    「…っ、………」
    「……しても、いいかい…?」

    じわぁ、と耳まで赤くなる彼が、黙ったまま小さく頷く。繋いだ手を強く握り返され、ほんの少し天馬くんが僕の方へ体を寄せた。
    たっぷり二秒ほど、お互いに黙ったまま固まってしまう。触れた腕の柔らかさとか、珍しく積極的な天馬くんの様子に、喉がもう一度音を鳴らす。温泉に浸かっているからか、いつもより肌がしっとりとしている気がする。
    ちゃぷ、とお湯が揺れた。指先で彼の頬を撫でれば、柔らかい感触が伝わってくる。

    「…ぁ、……ん…」

    緊張している彼の顎を掬うように上へ向かせ、逃げられる前にその口を塞いだ。湯口から注がれるお湯の音で、彼の小さな声が掻き消されてしまう。息遣いの音も、鼻を抜けるような可愛らしい声音も聞き逃さないよう気を付けながら、彼の髪を梳くように後頭部に手を差し入れた。彼の唇の柔らかさを確かめる様に触れ合わせてから、ゆっくりその唇を離す。角度を変えてもう一度重ねれば、僕の背に彼の手が回される。
    丸い後頭部を引き寄せ、強く唇を押し付けるようにキスをすると、天馬くんが「んっ…」と小さく声を落とした。

    「…っ、……んぅ、…」

    ほんの少し上へ向かせて、柔らかい彼の唇を、僕の唇で食む。むに、とした感触を楽しむ様に何度も食めば、縋る様に背に回された彼の手が僕の腕を掴んだ。一度唇を離して、もう一度塞げば、彼の肩が小さく跳ねた。繋ぐ手をそっと離して、彼の赤く染まった頬へ滑らせる。両手を、彼の頬を包む様に添えて、顔を離した。酸欠でとろんと瞳を溶けさせる天馬くんは、ぼぅっと僕を見つめてくれる。
    そんな彼があまりに可愛らしくて、ぞくりと背が震えた。

    「…はぁ、……っ、ん…」

    息を吸うタイミングで、薄く開いた彼の唇を塞ぐ。柔らかい唇に舌を触れさせると、天馬くんがビクッ、と大きく体を跳ねさせた。ゆっくりと下唇を縁から縁へ舌でなぞり、そっと元来た道を戻る様に撫でる。擽ったそうに彼の背が少し丸くなり、ほんの少し逃げようとするのを両手で抑えて、強く唇を押し付けた。

    「っ、…んぅ、……ふ…」

    ぎゅ、と僕の腕を掴む天馬くんの頬を親指の腹で撫で、ゆっくりと赤くなった耳の方へ手を滑らせる。耳の縁を指先でなぞると、細い腰が湯の中で揺れた。

    (……このまま、もう少しだけ…)

    彼の背を浴槽の縁へ預けさせ、押さえ込むように体を移動させる。見上げる天馬くんの瞳に、欲を孕んだ自分の目が映っていた。

    ―――
    (司side)

    (……ふわふわ、する…)

    ちゃぷ、とお湯が跳ねて、月明かりに神代さんの白い肌が晒されるのが見えた。大きな手で耳を塞がれると、自分の声が反響して変な感じがする。いつもしてもらうのとは違うキスに、頭が全然ついていかない。唇の上を熱いモノがなぞる度、背がゾクゾクして堪らない。
    擽ったい様な、ちょっと気持ち良い様な、変な感じがした。

    「…ん、……」

    耳の縁を神代さんの指先で撫でられると、逃げたくなる。擽ったくて、ぞくぞくして、おかしくなりそうで、変だ。
    ゆっくり唇が離されて、息を吸った。心臓がバクバクと煩く鳴っている。じわりと視界が滲んで、神代さんの月の様な色の瞳をぼんやりと見つめた。大きな手で肩が軽く押され、岩で出来た縁へ自然と背を預けた。見上げるオレの唇に、そっと神代さんのが触れる。反射的に息を止めてキスを受けると、肩に触れていた手が腕の上を滑った。肘までゆっくり撫で降りる神代さんの手が、横腹を撫でる。その擽ったさに思わずビクッ、と体が跳ねた。

    (……キス、が、長い…)

    じわぁ、と顔が熱くなっていって、くらくらする。神代さんの唇が触れる度、体内の熱がどんどん上がっていくかのようだ。
    不意に、つつぅ、と背中をゆっくり指先で撫でられるのが分かって、声が出そうになった。背中の中心を辿るように首の方へ上がってくる指の感触が擽ったくて、慌てて体をよじる。ムズムズする様な感覚に、止まってほしいと伝えたいが、キスをしていては何も言えん。
    「んーっ…」と、頑張って伝えようとすると、気付いたらしい神代さんが、ゆっくり唇を離してくれた。

    「…ふぁ、……ぁ、の…、んむっ…」

    止めていた息を吐いて、神代さんの名前を呼ぼうとした。が、その前に、口を開けてかぷ、と噛み付くように神代さんにまた唇を塞がれる。一瞬見えた神代さんの瞳が、いつもと違った気がして、ゾクッ、と背が震えた。大浴場で見た時の目と、似ていたと思う。
    反射的に目を瞑ると、ぬるりとしたものが唇の間を滑って、歯にあたる。

    (……な、…ぇ…)

    ビクッ、と肩が跳ねて、指先が固くなる。歯の側面をゆっくり撫でられると、ぞわりと背が震えた。神代さんの指先が、背中をそっと撫でおりていく。その触れ方が、なんだかいつもと違う。心臓が破裂しそうな程煩く鳴っていて、目が、開けられなかった。ギュッと強く目を瞑ったまま固まるしかなくて、神代さんに触れられる場所に自然と意識が集中してしまう。
    背を撫でる手とは反対の手がお腹に触れて、ゆっくり円を描くように撫でられる。

    「んぅ、……ん、…んっ…」

    擽ったさに気が取られる内に、舌先にぬるりとしたものが触れる。それが舌の上をゆっくりと撫でて、とろりとしたものをオレの唾液と混ぜるように絡めてくる。くちゅ、ちゅ、ちゅく、とお風呂の水の音とは違う水音が反響する様に聞こえて、ぶわわっ、と顔が熱くなった。ぬるっとしたものが、オレの舌に絡まって、ゾクッと背が震える。腰に触れる神代さんの指先が、巻いていたタオルの縁に引っかかった。くん、と軽くタオルが指先で引かれて、簡単に解けてしまう。
    お湯の流れでふわりと揺れたタオルに、慌てて手を伸ばして前を押さえた。

    (…な、ぜ、こんなっ………?!)

    もう頭の中がパニック状態で、視界がくるくる回っている気さえする。お腹を撫でる手がゆっくり上へ上がってきて、思わず瞼を上げた。視界に映るのは、じっとオレを見る月のような色をした神代さんの瞳だけだ。
    いつもの優しい瞳と少し違うその目が、なんだか別人に見えてしまった。

    (………こ、わい…)

    腰を大きな手で掴まれて、体が押さえつけられた様な気がした。後ろに逃げる事も出来なくて、目の前にいるのが神代さんだって分かっているはずなのに、怖くて堪らない。手が震えて、酸欠でぐらぐらする思考が良くない方へ向かっていく。じわ、と目頭が熱くなって、胸元に触れる神代さんの手を掴んだ。ぐっ、と力を入れるその手がオレの手を握る。距離を詰める様に神代さんがオレの方へ体を寄せるのが分かって、ビクッ、と肩が跳ね上がった。片手を胸元に当てて、ぎゅっと握り締める。
    強く目を瞑ると、頬の上を水滴が伝い落ちていくのが分かった。

    「…、……っ、はぁ…」

    腰に触れていた手がオレの肩に触れて、勢いよく離される。
    苦しかった肺に一気に空気が流れ込んで、少し咳き込んでしまった。そんなオレの前で、「天馬くん…?」と小さな声で名前を呼ばれる。
    顔を少し上げると、視界がぐにゃりと歪んで見えた。

    「……ぁ…」
    「っ、…ごめんね、どこか痛かったかい…?!」
    「…っ……」

    ぼろ、ぼろ、と自分の頬を伝い落ちていくのが涙なのだと、一拍置いて気付いた。目の前で驚いた顔をしていた神代さんが、慌てた様にオレに手を伸ばす。それに、反射的に体が固くなってしまった。息を飲んで体を縮めたオレへ触れる前に、神代さんが手を止めてくれる。
    宙をさ迷っていた手がゆっくりと離され、ちゃぷん、とお湯が跳ねた。掴まれた手から力が抜けて、そっと離される。その事に、安堵してしまった。少し距離を開けてくれた神代さんが、心配そうな顔でオレを見ている。その顔から、視線を逸らした。

    「…………す、み、ません…」
    「…いや、僕の方こそ、すまなかったね」
    「………いえ…」

    お互いに、声が小さくなってしまう。
    頭がぐらぐらとして、ぼんやりする。熱い気がして、濡れた手で目元を拭った。ぱしゃん、と水音がして、神代さんがオレに手を差し出してくれる。「一度出ようか」という声に、頷いた。
    差し出された大きな手はいつもの神代さんの手で、一瞬躊躇ってしまったが、そっとその手にオレの手を重ねる。優しく握り返されて、ホッとした。

    (……さっきのは、なんだったのだろうか…)

    神代さんに手を引かれるまま温泉から上がって、バスタオルに包まる様にして体を拭く。なんとなく、神代さんの方を向けなくて、背を向けてしまった。浴衣の袖に腕を通して、前をしっかり合わせて帯を巻く。
    しゅる、しゅる、と後ろで布の擦れる音がして、心臓がドキドキした。きっと逆上せたのだろう、まだ頭がグラグラしている気がする。水が飲みたい。立つのも辛くて棚に寄りかかると、後ろから肩に手を置かれた。ビクッと体が過剰に反応してしまい、恥ずかしくなる。
    神代さんだと分かっているのに、何故こんなにも驚いてしまうのだろうか。

    「歩けるかい?」
    「…は、ぃ……」
    「………君が嫌でなければ、抱えてもいいかい?」
    「………」

    心配してくれる神代さんの表情に、申し訳なくなる。こく、と小さく頷けば、膝裏に腕を回して神代さんが軽々とオレを持ち上げた。体が大きく揺れて、浮遊感に襲われる。神代さんの肩に腕を回して体を寄せると、不思議と安心した。先程まで感じていた“怖い”という思いも薄れて、すり、と神代さんの首に額を擦り付ける。

    (……………神代さんが、いつもより、大きく見えた…)

    神代さんは背が高くて普段からオレより大きいのだが、それとはまた違う、のだと思う。なんというか、“食べられて”しまうような、そんな気がした。キス、も、いつもと違って、神代さんにされる事に、追い付いていけなかった。何をされているのかも、何をされるのかも分からなくて、それが、怖かった。

    (……口の中、が、まだ、変な感じがする…)

    いつもはどこかふわふわして幸せな気持ちでいっぱいで、終わった後は少し寂しいような、そんなものだったと思う。もっとしていたいって、思ってしまう様な、そんな…。だが、さっきのは、ふわふわと言うより、もっとこう、どろどろに溶けるような、そんな、なんとも言い難いものだった。
    神代さんのいつもより温かい体温と、体が揺れる心地良さに目を瞑る。立ちくらみも治まってきて、かなり気分が楽だ。石鹸の匂いに混じって、神代さんの匂いがする気がした。

    「天馬くん」
    「…ん……」
    「今、お水を持ってくるから、少し横になっているといいよ」
    「……ぁ、りがとう、ございます…」

    そっと布団の上に降ろされ、目の前で神代さんがふわりと笑うのが見えた。
    きゅぅ、と胸の奥で音が鳴って、小さくお礼を返す。離れていく神代さんの後ろ姿に、ほんの少し、寂しい、と思ってしまった。

    (………いつもの、神代さんだ…)

    いつもの優しい神代さん。
    何故、神代さんを“怖い”なんて、思ったのだろう。いつも優しくて、オレの事も気遣ってくれているというのに…。
    腕で目を隠すように覆い、深く息を吐き出す。あのままだったら、どうなっていたのだろうか。キス、も、いつもと違った。あれも、“キス”なのか? 口の中がまだ擽ったくて、そわそわする。息がしづらくて、訳がわからなくなって、気付いたら、泣いてしまっていた。
    神代さんに、心配をかけてしまったな。痛くはなかったのに、少し怖かったからと泣くなんて、子どもではないか。

    「……神代さんからしたら、オレは本当に、子どもなのだろうな…」

    じわぁ、とまた目頭が熱くなって、腕で目元を擦る。大人の神代さんに近付きたいと思っていたのに、これでは近付くどころか、神代さんに余計に気を遣わせてしまうだけではないか。触れてほしいと願ったのはオレなのに、神代さんに触れられるのが怖い、なんて。
    想像していた触れ方と、全然違った。いつもみたいなキスをして、いつもみたいにぎゅってされて、いつもより少しだけ長く触れ合えれば、と。背中を流すとか、隣でお湯に浸かるとか、腕とか、を、絡めるくらいで…。

    「大丈夫かい? 天馬くん」
    「ひゃいっ…?!」
    「…驚かせてすまないね、お水を持ってきたから、飲んで休んだ方がいいよ」
    「……ぁ、ありがとう、ございます…」

    神代さんに名前を呼ばれて、反射的に返した返事は声が裏返ってしまった。慌てて起き上がると、眉尻を下げて苦笑する神代さんがペットボトルを差し出してくれる。それを受け取って、小さくお礼を伝えた。
    返事が裏返ったことも、先程までの事とか、泣き出してしまったこと全てを含めて、急に恥ずかしくなってしまった。視線を下げて、受け取ったペットボトルの蓋を開ける。ゆっくり水を飲めば、ほんの少しくらくらする気持ち悪さが和らいだ気がした。
    ホッ、と息を吐いて、もう一度お礼を言う為に顔を上げる。
    ぱち、と視線の合った神代さんが、オレへ向けて笑いかけてくれて、胸の奥がつき、と痛んだ。

    「少し早いけれど、今日は疲れているし、寝てしまおうか」
    「…ぁ、……」
    「僕は寧々に呼ばれているから、一度隣の部屋に行ってくるよ。先に寝ていておくれ」
    「………、わかりました…」

    立ち上がった神代さんが部屋を出ていこうとするのを、ただ見送った。引き止めなければ、と思うのに、“寧々さんに呼ばれている”なら引き止めてはいけないのだと、そう結論付けてしまう。とん、と閉められた引き戸を呆然と見つめたまま、まだ半分以上残っているペットボトルを床に置いた。
    脳裏に、先程の神代さんの顔が浮かんで、離れない。にこ、と安心させるようにオレへ向けられた神代さんの笑った顔。お仕事をする神代さんが、テレビでたまに見せる作り笑顔と同じだった。オレの前では、しない顔。

    「…呆れられた、…の、だろうか……」

    ぐにゃりと滲んだ視界を消すために、腕で乱暴に目元を拭い、布団を頭まで被った。

    ーーー

    翌朝、寝ている間に戻ってきていたらしい神代さんに起こされてえむたちと朝食を食べ、ぎこちないまま四人で帰った。
    神代さんとは上手く顔が合わせられなくて、会話も続かなかった。
    途中でこっそりえむに聞くと、昨夜神代さんは、えむたちの部屋には行っていなかったらしい。
    その事実に余計神代さんと顔を合わせづらくなり、そのまま神代さんの長期撮影が始まってしまった。
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    Replies from the creator

    ナンナル

    CAN’T MAKE銀楼の聖女

    急に思い付いたから、とりあえず書いてみた。
    ※セーフと言い張る。直接表現ないから、セーフと言い張る。
    ※🎈君ほぼ居ません。
    ※モブと☆くんの描写の方が多い。
    ※突然始まり、突然終わります。

    びっくりするほど変なとこで終わってます。なんか急に書き始めたので、一時休憩も兼ねて投げる。続くか分からないけど、やる気があれば一話分だけは書き切りたい( ˇωˇ )
    銀楼の聖女『類っ、ダメだ、待ってくれっ、嫌だ、やッ…』

    赤い瞳も、その首元に付いた赤い痕も、全て夢なら良いと思った。
    掴まれた腕の痛みに顔を顰めて、縋る様に声を上げる。甘い匂いで体の力が全く入らず、抵抗もままならない状態でベンチに押し倒された。オレの知っている類とは違う、優しさの欠片もない怖い顔が近付き、乱暴に唇が塞がれる。髪を隠す頭巾が床に落ちて、髪を結わえていたリボンが解かれた。

    『っ、ん…ふ、……んんっ…』

    キスのせいで、声が出せない。震える手で類の胸元を必死に叩くも、止まる気配がなくて戸惑った。するりと服の裾から手が差し入れられ、長い爪が布を裂く。視界の隅に、避けた布が床へ落ちていく様が映る。漸くキスから解放され、慌てて息を吸い込んだ。苦しかった肺に酸素を一気に流し込んだせいで咳き込むオレを横目に、類がオレの体へ視線を向ける。裂いた服の隙間から晒された肌に、類の表情が更に険しくなるのが見えた。
    6221

    ナンナル

    DOODLE魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。
    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
    6142

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