重み「興味があったから作ってみたんだ。着けなくてもいいから、もらって欲しい」
と、類から記念日でもなんでもない日に渡されたそれ。真四角の白い小さな封筒に入れられていた。
細身のシンプルな、装飾のついていない銀の輪。
シルバーのリング。
サイズを測られたことも教えたこともなかったはずだが、それがピタリと嵌まるのは薬指だけで。
その後忙しくなり会う時間はとれず、別の仕事先で類とすれ違うことがあった。その時、類の左手の薬指で銀色が光っていることに気がつけば、背中がぞわりとして、なんとも言えないこそばゆさをおぼえた。揃いだったのならば、はじめからそう言えばいいだろうに。
それを今、自分の指に嵌めてみている。
こどもの頃に妹とおもちゃの指輪を嵌めて遊んでいたことを思い出す。おもちゃの指輪とは違ってキラキラ光る石はついていない。自分の手も、その頃の柔さはなくなった。そこまでごつい方ではないが、節もしっかりあり、すらりと伸びた指。大人の男の手。自慢ではないが、類の要求に応えるために修羅場をくぐってきた割には、なかなかきれいな方ではないだろうか。
指輪を嵌めた左手を握って開いて、指をぴんと張る。太陽に手を伸ばすように天に掲げた。眩しいものを見るときのように、腕を伸ばす。
キズのない銀色がきらりと光を反射する。
装飾品を身に着けるタイプではなかったから、今まで無かった重さがそこにある。
ぼんやりと眺めて手を引いた。
確かめるように右手の人差し指の腹で輪っかをなぞる。
ここに嵌めるというのは、特別だろう。むしろそれ以外にあるのかというほどだ。なぁ類、そうだろう? お前は一般常識を承知していながら、自分のしたいことを優先する奴ではなかったか。
どうするかを委ねるなんてお前らしくない。
「バカなヤツだ」
着けなくてもいいから――
「……着けてほしいくせに」
指に、今まで無かった重さがある。それが馴染むのにそう時間はかからなかった。